大好き過ぎるな
「全力で来い。オレを殺すつもりでな」
「……後悔してもしらんぞ?」
ようやく本気になったリリスが魔剣を抜く。
禍々しい魔力が漏れでる。
かつて大魔王が携えた魔剣を見せられ、ベルゼビュートは眉間にしわを寄せる。
「終焉の魔剣……大魔王サタンの剣か」
「もう手加減なしじゃ!」
リリスが魔剣を構え、その力を開放させる。
禍々しい魔力はそのまま彼女の武器となり、無限にあふれ出る魔力によって周囲の魔力を押しのける。
今の彼女なら部屋の環境も関係ない。
「――黒劉!」
漆黒の斬撃を放つ。
全てを呑み込む破壊の力。
魔王アンドラスも回避を選択した攻撃。
「その技も懐かしいぜ。だがな」
が、アンドラスとベルゼビュートでは、魔王としての格が違う。
「弱すぎだ」
ベルゼビュートは黒劉を片手で受け止め、そのまま握りつぶした。
その手は傷一つなく、何事もなかったように。
「なっ……」
「大魔王サタンに比べたら天と地の差だな」
「くっ、まだじゃ!」
リリスは両手で魔剣を握り、正面から突進して振り下ろす。
黒劉が簡単に止められ、焦って判断が鈍ったか。
正面からの大ぶりの攻撃なんて、ベルゼビュートに通じるはずもなく、軽々と受け流され、カウンターで腹に拳をくらってしまう。
「うっ……!」
「いいかリリス。そいつは最強の剣だ。そいつを持ってる奴が、こんな雑魚でいいわけねぇんだよ」
ベルゼビュートは煽る。
その言葉の節々から、わずかな違和感を覚える。
「最強を持ったなら最強になれ。てめぇの親は誰だ? てめぇが無様な姿を晒せば、そいつは大魔王サタンの失敗を意味するんだよ」
リリスを馬鹿にしているわけじゃない。
言葉に込められている想いは怒りだ。
ふつふつとこみ上げる激しい怒りが、ベルゼビュートの拳に力を入れさせる。
「いつまで寝てやがる」
「……っ」
「それでもサタンの娘か! 立ちやがれ!」
怒声が響く。
その直後、俺の中に知らないイメージが流れ込む。
憧れ、期待、劣等感。
様々な感情の入り混じった景色……そのすべてに、魔王サタンの姿がある。
直感的に理解した。
これはベルゼビュートの心だと。
理屈はわからない。
この部屋に充満する魔力に、彼の魔力が混ざっていたから?
彼がわざわざ俺に見せたとも思えない。
ただ、今のでわかった。
彼は、ベルゼビュートは……。
大魔王サタンに憧れていたんだ。
「そういうことか」
だから怒っているんだ。
サタンの意志を継ぎ、力を継いだ彼女の弱さに。
彼が憧れたサタンは強大で、圧倒的で、魅力的だった。
そんな男と彼女を比べて、違いすぎる差に落胆している。
その後も訓練は続いた。
サルの改良のお陰で、ペンダントの効果時間は大幅に伸びている。
連続使用は一時間、インターバルは十分。
一時間ぶっ通しで特訓して、十分は俺が聖剣の結界を展開し、その中で休憩する。
俺もだいぶ時間が経ったおかげで身体が慣れてきた。
もう交代してもいい頃合いだが、ベルゼビュートから申し出はない。
俺は二人の戦いを見守る。
「ちっとはマシになったか」
「慣れたからのう」
「そうかよ。だがまだまだ足りねーな! オレが知ってる大魔王の動きにゃ程遠いぜ!」
相変わらずベルゼビュートが一方的に攻撃している。
とはいえ、リリスも食らいつけるようになってきた。
内容は普段と同じ戦闘訓練。
しかし成長の速度が何倍も速い。
この環境が彼女を強くしている。
「足りねぇ、こんなんじゃ足りねぇぞ! リリス、てめぇはこれから、あのサタンの偽物と戦うことになるんだぜ?」
「え、なんでワシと決まっておるんじゃ?」
「んなもん決まってんだろうが。あいつが……サタンを騙ったからだ」
ベルゼビュートは静かに怒る。
その怒りをリリスも感じ取り、真剣な表情を見せる。
二人は構えたまま距離を取る。
「大魔王サタンは最強の名だ。そいつを騙るってことは、俺たち悪魔に対する侮辱だ。本当はオレがぶっ飛ばしてーが、ルシファーの野郎はお前に戦わせるつもりでいる。あいつはな、てめぇが次の大魔王になると期待してんだよ」
「ルシファーが?」
リリスが驚き声を上げる。
俺はこの時、後継という言葉が頭に浮かんだ。
ルシファーとベルゼビュートの会話に出ていた単語だ。
あれはつまり、リリスが大魔王サタンの後継者になるという意味だったか。
「てめぇが娘だからじゃねーぞ。魔界じゃ血縁なんざ役に立たねぇ。大事なのはここだ」
ベルゼビュートは自らの腕を叩く。
腕っぷし、と言いたいのだろう。
悪魔にとって大事なのは血縁じゃない、力だ。
力による屈服がなければ、王として君臨する最低条件も満たせない。
力こそが始まりであり、力こそが全ての世界。
それが悪魔たちの上下関係だ。
「あいつはてめぇに、大魔王になれる素質を見たんだろうよ。だがオレは認めてねぇ。少なくとも今、弱いてめぇじゃ無理だと思ってる」
「――! そんなことないのじゃ! ワシは必ずお父様の意志を継ぐ! そのために大魔王にもなってみせる!」
「威勢だけが響かねぇ! オレを納得させてぇなら強くなれ。最低でも、あの偽物をぶっ飛ばせるくらいにはなぁ!」
「任せるのじゃ! ワシが必ず勝って証明してやろう! あいつはお父様じゃない!」
「はっ! やれるもんならなぁ!」
二人は再び激突する。
短い時間、俺との交流はほとんどなく、ずっと二人で戦い続けていた。
ただ、見ているだけでお腹がいっぱいだ。
二人とも……大魔王が好き過ぎだろ
これにて『暴食の魔王』編は完結です!
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