特別ルームへご招待
俺とリリスはベルゼビュートに連れられ、彼が支配する魔王城へやってきた。
距離は相当離れていて、普通に行けば早くても一週間かかる。
ベルゼビュートは専用の転移魔導具を持っていて、俺たちもそれに便乗した。
転移先は場内で、魔王が坐する玉座の前に立つ。
「ここがベルゼビュートの……」
玉座の間という部屋だろう。
魔王らしい部屋……だが、なんだか少し懐かしい。
ベルゼビュートの魔王城に入るのは初めてだ。
にも関わらずそう感じるのは、どこ似ているからだろう。
リリスの……いや、大魔王サタンの城に。
「なんじゃ、ワシの城に似ておるのう」
隣でリリスがぼそりと呟いた。
どうやら彼女も同じことを考えたらしい。
魔王城であることは同じ。
作りが似るのは当然なのだろうけど、これまで訪れた魔王の城はどこも個性があって、その城を主である魔王を象徴していた。
あくまで雰囲気だけど、同じだとは感じなかった。
この魔王城はその中でも、俺たちが住んでいる城に雰囲気がそっくりだ。
「こっちだてめぇら、ついてこい」
玉座の間を出て廊下を進む。
目的の場所は地下にあるらしい。
俺たちはベルゼビュートの後に続く。
道中、配下の悪魔を見つけた彼は、事情と今後のことを説明して後事を託した。
「頼むぞ」
「はっ! お任せください」
配下の悪魔は顔色一つ変えることはく、彼の命令に同意した。
フィーの部下たちとは真逆だ。
かなり部下から信頼されているのが、今のやり取りだけで伝わった。
魔王にはカリスマ性がいる。
強さで他の悪魔を屈服し、カリスマ性で悪魔たちを引き連れる。
どちらも備わっていて初めて、魔王として完成する。
フィーの場合は極端に強さの比率が多かったが、彼も中々のカリスマ性を持っていた。
が、それ以上にベルゼビュートは……。
「なんじゃ、ちゃんと魔王をやっておるんじゃな」
「あん?」
「ワシはてっきり、オラオラーって感じで無理やり従わせているものじゃとお持っとったぞ」
「てめぇ……オレを何だと思ってやがる」
ベルゼビュートはイライラしながら歩く速度を速める。
俺たちは急いでついて行く。
「だってぬし、昔から乱暴で誰かをまとめるとか苦手じゃったろう?」
「いつの話をしてやがるんだ」
「大人になったのじゃな」
「クソガキのてめぇに言われたくねーんだよ」
意外だった。
リリスが砕けた感じで、友人のように話している……こともそうだが、何よりベルゼビュートの態度に驚いた。
生意気な口をきくやつは鉄拳制裁、とか平気でしそうな雰囲気なのに。
リリスの発言に苛立ちを見せ、強い言葉は使っていても、脅すように威嚇したり、怖がらせるようなことをしない。
ちゃんとリリスの話すペースにも合わせて返している。
俺の中でベルゼビュートのイメージは、破壊と戦いを好む傍若無人な魔王という悪魔らしいものだった。
けど、もしかするとこれから修正されるかもしれない。
そんな予感を抱きつつ、俺たちはたどり着いた。
目の前には半透明な扉がある。
内側が透けて見え、真っ白な明るい空間が広がっているのがわかる。
そしてあふれ出る異質な魔力……。
明らかに普通の部屋ではなく、魔法の力が宿っていた。
「ここだ。入る前に説明しておいてやる。この部屋は一度入ると、指定した期間は絶対に出られない。今回は二日だ」
「二日くらい余裕じゃよ」
「時間だけならな。この部屋は普通じゃねぇ。まず間違いなく、快適な生活なんてできないと思え」
「む、どういう部屋なんじゃ?」
ベルゼビュートの説明にビビったリリスが尋ねる。
すると彼はニヤリと笑みを浮かべ、徐に扉に手をかけた。
「入りゃーわかるさ」
「じゃがら入る前に教え――うお!」
「時間がねぇーんだろ? だったらとっとと始めるぞ」
いきなり扉を開けたベルゼビュートは、リリスの背中を叩いて部屋に放り込んだ。
そのまま自分も入る。
振り返り、俺に言う。
「てめぇも来い。てめぇにとっても、悪くない訓練になるぜ?」
「へぇ……それは楽しみだ」
最後に俺が部屋に入る。
中は真っ白で何もない空間が広がっている。
それ以外は普通の部屋だった。
特に苦しいわけでもなく、辛さは感じない。
「なんじゃ? 眩しいだけの部屋じゃな」
「今はな。勇者アレン、扉を閉めろ。そうすりゃ始まるぜ? 地獄の時間がな」
「じ、地獄……」
リリスがごくりと息を飲む。
俺に視線が集まり、ゆっくりと扉を閉めた。
がしゃり、と音が鳴る。
直後、俺とリリスは痛感する。
「うっ」
「なっ、んじゃ、く……」
体中が重い。
空気はあるのに上手く吸えない。
全身が何かに押しつぶされそうになっている。
この感覚を知っている。
「魔力……か」
「正解だぜ、さすがだな」