やることは一つだ
守りではなく、攻めるべきだ。
敵が万全な状態ではないのなら、今しかない。
十日間という猶予も、すでに半分が過ぎようとしている。
「戦力補強だけじゃない。もしかすると奴ら他にも、戦うための用意をしている可能性がある。十日で準備が整ってしまう前に、敵の頭を倒すんだ」
「賛成だぜ! そっちのほうが手っ取り早ぇからな」
「ボクも兄さんが行くならついていきますよ~」
「俺も異論はない」
三人の魔王がすぐに同意してくれた。
ルシファーは視線をレインとフローレアに向ける。
お前たちはどうか、と視線が尋ねている。
「僕もそうするべきだと思うよ。僕の予想だと、まだ勇者側と魔王たちは完全に連携できていない。下手をすれば半数が事情を聞かされていない」
「ルシファー討伐の話も、ランキング上位者だけに最初は伝達されていました。私たちが断らなければ、十位未満の子たちに声をかけることはなかったでしょうね」
勇者レインと勇者フローレア。
この最強のコンビの離脱があったからこそ、ルシファー討伐に三十人もの勇者が動員された。
というのが、二人の見解らしい。
俺もその点は同意する。
「今動けばまだ、勇者側と戦う必要がなくなるかもしれません」
「ですね。正直あまり、勇者同士で戦うのは好ましくありませんから」
「そうだね」
「甘いな」
元同僚と戦うことへ否定的な二人に、ルシファーはぼそりと呟いた。
俺にはどちらの気持ちもわかる。
かつて仲間だった相手に刃を向ける心苦しさ。
裏切られた相手に容赦するべきではないという思い。
どちらも間違いじゃない。
だからこそ、小さな迷いもなくこの問題を解決するには――
「ルシファー」
「わかっている」
奴らの準備が整うまでに、その頭を叩く。
全員の意見が一致する。
「キスキル、こちらの兵力を整えるのにどれくらいかかる?」
「最短でも三日はかかります」
「二日で終わらせろ。それ以上は待てない」
ルシファーも無茶を言う。
キスキルはため息をこぼす。
「わかりました」
「よし。ベルゼビュート、ヴェルフェゴール」
「わーってるよ。オレらも自軍の戦力を集めておいてやる」
「うぇ~ ボクのところはちゃんと集まるかわからないですよ?」
「構わないからやれ。今は少しでも戦力がほしい」
「わかりましたー。あ、じゃあ兄さんも手伝ってください」
隣から手が伸びて、フィーが俺の腕に抱き着く。
無邪気に期待する視線を向けられる。
キラキラした瞳を見ていると、なんだかペットでも飼っている気分になる。
「ダメだ。そいつには別の役割がある」
「えぇ~」
「だそうだ。頑張ってくれ」
「ぅー、あとで褒めてくださいよ? 兄さん」
「ああ」
俺は軽く頭を撫でてやる。
リリス以外に魔王の頭に触れる機会があるとは、あの頃は思いもしなかったな。
もしかして俺は、子供っぽい悪魔に好かれやすいのかもしれない。
「それで? 俺の役割は?」
「リリスの特訓だ」
「だろうと思った」
「ワシか!」
ムカつくことに、俺とルシファーはとことん考えが近い。
俺もちょうど、リリスの力を強化する方法を考えていた。
見た目は子供でも、今や彼女も立派な戦力の一柱だ。
そしておそらく、この中でもっとも潜在能力を秘めているのが彼女だろう。
「だが二日しかない。普通のやり方じゃ、今までと変わらないぞ」
「その辺りは心配いらない。ちょうどいい部屋がある」
「部屋?」
「ああ。俺のものではないが……」
そう言ってルシファーが視線を向けたのは、ベルゼビュートだった。
彼も話の途中で気づいたのか、小さくため息をもらす。
「あの部屋を使う気か?」
「それがもっとも効率的だろう?」
「構わねぇけど、あれはオレが一緒じゃねーと使えねぇ。ルシファーてめぇ、俺にも子守を手伝えって言ってんのか?」
「子守か。そんな生易しいものじゃないぞ?」
ルシファーとベルゼビュートが視線を合わせる。
あまりいい雰囲気ではない。
敵意こそないが、ベルゼビュートは静かに怒りを漏らしている。
静寂の数秒を挟み、折れたのはベルゼビュートだった。
「はぁ、わーったよ。戦力集めは部下に任せりゃいい」
「礼を言おう。ベルゼビュート」
「はっ! てめぇから礼を言われるなんざ気持ちわりぃ! 言っとくが俺は、こいつが後継なんて認めてねーからな?」
「ふっ、今はそれでいい」
後継?
リリスのことを言っているのか?
二人は俺たちにはわからないやり取りを終らせ、ベルゼビュートがリリスに視線を向ける。
「つーことだ、リリス」
「うむ。頼むのじゃ」
「結局どういう部屋なんだ?」
「そいつは行けばわかる。勇者アレン、てめぇも一緒についてこい」
ベルゼビュートが立ち上がる。
そそくさと歩き出す彼に置いて行かれないように、リリスと俺も立ち上がる。
「サラ、フィーを手伝ってやってほしい。魔王だからって遠慮せず厳しくしてやってくれ。じゃないと寝るからな」
「かしこまりました」
「アタシはどうすればいい?」
「お前もサラと一緒にフィーを手伝ってくれ。それと、頼んでた物の作成を進めてくれ」
「わかった。それが終わったら研究させてもらうから」
サルは俺の身体を指さす。
俺は小さく頷き、わかっていると答えた。
フィーとサル、この二人をまとめるのは大変だが、真面目なサラならうまくやってくれるだろう。
「頼んだぞ、サラ」
「はい。アレン様もお気をつけください」
「おいてめぇら! さっさと来やがれ!」
「アレン!」
「ああ!」
俺はせっかちな奴らの後を駆け足で追いかける。