弟ができました
「魔王ベルフェゴール! お前の時代はもう終わったのだ!」
魔王城の入り口前に、大量の悪魔たちが集まっている。
彼らは旗を掲げ、声に出す。
彼に対する反逆の意志を堂々と。
「出てこい魔王! この場で我々が引導を渡してやろう!」
その言葉に応える様に、彼は顔を出す。
たった一人で彼らの前に、空間転移で忽然と姿を現した。
「来たな魔王、今日からお前の城は我らがもらい受ける」
「それはこまっちゃいますね~ ここはボクの家ですから。寝るところがなくなってしまいますよ」
「ふっ、眠りたければ眠ればいい。永遠にな」
敵意をむき出しにする悪魔たち。
彼らは魔王ベルフェゴールの部下たちだった。
「一応確認ですけど、理由を教えてもらえませんか?」
「はっ! 言うまでもない! お前は魔王は相応しくない! いつも城でぐーたら寝息をたて、だらけきっている貴様が王など許されるはずがない!」
「そんなこと言われてもぉ~」
「貴様のような怠け者が魔王を名乗れるなら、我々でも十分にその資格はある! この城も街も、役立たずなお前にはもったいない! 我らが有難く貰ってやろう! さぁ、終わりの時間だ!」
奮い立った悪魔たちが一斉に動き出す。
武器をとり、魔法の詠唱を準備して、本気で彼に向っていく。
彼は未だに覇気を見せない。
「はぁ……」
ダルそうにしながらため息を漏らす。
きっと助力なんて必要ないのだろう。
大罪の名を冠する魔王が、この程度の悪魔たちに負けるはずがない。
でも、俺の身体は自然と動いていた。
迫る悪魔たちを遮るように、俺は聖剣を突き刺す。
「あ……」
「な、なんだ?」
「――お前ら、少し言い過ぎだぞ」
「ゆ、勇者だと?」
襲い掛かろうとしていた悪魔たちはピタッと止まり、数歩下がる。
「確かにこいつはぐーたらしてるが、魔王としての役割はちゃんと果たしてる。だからこの城も、街も綺麗なままなんだ」
「ぁ……」
「な、何を言ってやがる! 敵の癖に魔王の味方か!」
「そうだな。どちらかといえば、こいつの味方だ」
俺は地面から聖剣を抜き、切っ先を悪魔たちに向ける。
軽く敵意を向けると、彼らはビビッて後ずさる。
この程度で怯えて、よく反乱を起こす気になったな。
呆れてしまう。
「……ふ」
ふと、後ろで彼が笑ったような気がした。
振り向こうとした俺の横を、フィーは通り過ぎる。
「ありがとうございます。でも、大丈夫ですよ」
「フィー?」
「耳を塞いでください」
ぼそっと俺にだけ聞こえる声で彼は言った。
俺は言われた通りに耳を塞ぐ。
すると彼は大きく息を吸い込み、目を瞑って歌い始める。
「な、な……ん……」
「これは……眠く……」
彼の歌を聞いた者たちが、次々と倒れていく。
俺も若干身体が怠い。
耳を塞いでいても少し聞こえるからだ。
「これは……」
おそらく『怠惰』の権能だ。
彼の歌は、聞いた者を眠りに誘うのか。
「っ、く……」
最後の一人が膝をつく。
眠気に耐えているが、そろそろ限界のようだ。
そんな彼にフィーは歩み寄り、笑顔を見せながら言い放つ。
「魔王になりたいなら、まずボクに勝ってから言ってくださいね?」
「……スゥー」
男も眠り、騒がしさは一変。
この場は安らかな寝息で包まれた。
◇◇◇
「……は? いつものこと?」
「そうですよ~ 今月はこれで三回目ですねぇ~」
「なっ……」
研究室に戻ったところで、フィーから衝撃の事実を告白された。
どうやら反乱は日常茶飯事らしい。
上手くやれていると言っていたが、全然やれてないじゃないか。
「じゃあ大魔王復活の件とは無関係なのか」
「そうだと思いますけどぉ、触発されたのはあるんじゃないですかね? まぁでも、起きたら皆さん頭が冷えていると思いますし、大丈夫ですよ」
のほほんとしながらフィーはそう説明した。
大体いつも眠らせて、目覚めたらしれっと解散するらしい。
そんな優しい対処をしているせいで、甘く見られているのではないだろうか。
と思ったが、あえて口に出さなかった。
無駄な血を流すよりずっとマシだと思ったからだ。
俺もつくづく甘いな。
「だったら余計なお世話だったな」
「そんなことありませんよ? 颯爽とかけつけてくれて、勇者みたいでした」
「勇者だよ、一応な」
魔王を助けるのも、そろそろ新鮮味がなくなってきたな。
ただ、説教じみたことを口にしたのは余計だった。
今となっては少し恥ずかしい気分だ。
「実はですね? 僕にはもう一つ夢があるんですよ」
「ん?」
唐突に、フィーが話し出す。
彼から初めにしゃべり出すなんて珍しい。
視線を俺に向けて、ゆっくり歩み寄ってくる。
「ボク、ずっと兄がほしかったんですよ」
「兄? 兄弟か」
「そうです。以前、人間の兄弟がいて……怪我をした弟を必死に守ろうとする兄の姿を見て、羨ましいと思ったんですよ」
少し意外だった。
兄弟愛を慈しみ、羨ましいと思う心が悪魔にもあったことに。
いや、当然か。
姿や習慣、寿命が違うだけで、彼らにも心はある。
「で、ほしくなったのか」
「はい。ボクにも、ボクのことを守ってくれる優しい兄がいたらなーと思いました」
「中々厳しそうだな。お前が守られる場面って少ないだろ」
「そうなんですよ。だから諦めていたんですけど……ね?」
目の前まで近づいたフィーが、俺の腕に抱き着く。
そのまま顔を挙げて、俺を見上げる。
「ここに見つけました」
「は?」
「さっき、ボクを助けてくれましたよね? あれ、すっごく格好良かったんです。理想の兄がいたら、こんな風に守ってくれそうだなーって思いました」
「いや、何言って……」
フィーは抱き着く力を強める。
俺を逃がさないように。
「――兄さん」
「ぐっ!」
上目遣いでフィーが囁く。
不覚にもドキっとしてしまった。
なんだこの可愛い生き物は……。
一人っ子でボッチだった俺にも、似たような願望があったことを思い出す。
弟がいて、兄と呼ばれる……。
悪くないと思ってしまったじゃないか。
「あ、アレン……仲良くなるのは勝手じゃが、そいつは男じゃぞ」
「わ、わかってるよ」
「ボクはいいですけどねぇ」
「なっ、お前……」
まったく……勘弁してくれ。
今日、なぜか俺に弟ができた。
魔王の弟が。
これにて『怠惰の魔王』編は完結です!
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ショタいいよね