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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『怠惰の魔王』編

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なんで全裸なんだ……

 研究室を離れ、俺は一人でベルフェゴールの寝室に向かった。

 昨日も感じたことだが、魔王城の中が不自然に静かだ。

 働いている悪魔も多くない。

 魔王城の規模は、ルシファーの城とそこまで差はないように見える。

 ルシファーのところが多すぎるのか。

 それとも何か事情があるのか。

 ベルフェゴールに確認したいことが増えた俺は、自然と足早になった。

 

 部屋の前にたどり着き、形式的にノックだけしてみる。

 当然のごとく無反応。

 今度は声もかけてみる。


「おーい、もう朝だぞー」


 三秒待つ。

 帰ってきたのは静寂だった。

 誰もいないんじゃないかと思えるほど静かだが、中からベルフェゴールの魔力を感じる。

 寝ていることが確定して、俺は扉に手をかけた。


「入るぞ」


 返事は期待していない。

 俺はゆっくりと扉を開け、彼の寝室に入る。

 部屋の真ん中に、豪勢な屋根付きのベッドが一つある。

 ピンクのガラの布団はちょっと可愛らしい。

 まるでお姫様の寝室のようだった。

 眠っているのは、魔界を支える魔王の一人だが……。


「ベルフェゴール」


 ベッドの横まで歩み寄り、呼びかける。

 予想通り彼は眠っていた。

 スヤスヤと気持ちよさそうに寝息を立てながら、布団をしっかり首までかけている。


「こうしてみると子供だな」


 リリスと背丈は一緒だけど、彼女より子供っぽく感じる。

 あどけない顔に、小柄な体格も相まって。

 人間で例えるなら、十歳から十二歳くらいだろうか。

 眠っている姿は小動物みたいで、とてもじゃないが強大な力をもつ魔王には見えない。


「おーい。もう朝だ。起きろ」

「ぅうー」

「ったく、気持ちよさそうな顔しちゃって」


 少し拍子抜けしてしまう。

 それに……あまりに気持ちよさそうに眠っているから、少々起こすのが可哀そうになった。

 しかし残念ながら今は緊急事態だ。

 俺は心を鬼にする。


「いい加減に起きろ!」


 俺は布団に手をかけ、無理矢理ひっぺがすことにした。

 布団はバサッと音を立て折りたたまれる。

 

「ふわぁっ」


 布団が消えてびっくりしたのか、ベルフェゴールは気の抜けた声を漏らした。

 というより、こっちもビックリさせられた。


「お前……なんで全裸なんだよ」


 布団を剥がした視線の先には、下着もつけずに寝転がっている子供が映っている。

 素っ裸のベルフェゴールは寒そうに丸まる。

 未だに目を開けない。 


「ぅ……」

「こいつまだ起きないのか」

 

 ふとんはもうないし、服は……最初からなさそうだが。

 この状況でも起きないとは徹底されている。

 仕方がない。

 この手は使いたくなかったが、最終手段を取ろうじゃないか。

 俺はゆっくりと彼に近づく。

 狙うのは顔、ではなく耳元だ。

 かなり昔にサラから教わった手法を試してみよう。

 俺は耳元に顔を近づけ、軽く息を吹きかける。


「ふぅ」

「ひゅう!」


 ベルフェゴールが飛び起きた。

 間抜けな声を出して。


「あ、本当に起きた」

「ちょっとぉ~ 何するんですかぁ~」

「いや全然起きないから。うちのメイドから伝授された秘奥義を使ってみたんだよ」


 割としっかり効果があることに驚いた。

 サラなりのジョークだと思っていたのに。


「うぅ~ やめてくださいよ~ ボクは耳が弱いんですからぁ」

「魔王の弱点が耳か。なんか可愛いな」


 ビックリして顔を赤くしているところも含めて。

 よく見ると瞳も綺麗な緑色をしている。

 宝石みたいにキラキラ輝いていて、見ているとこっちも安心する。


「なんですか? そんなじっと……」


 ベルフェゴールは自分の身体を確認する。

 そのまま視線を俺に戻す。


「ボクは男の子ですよ?」

「安心しろ。俺にそういう趣味はない」

「そうですか。裸の僕をじっと見てるし、耳に変なことするし、変態なのかと思いました」

「心外だな」


 耳に息をかけたのは全然起きなかったからで、裸に至ってはまったく関係ない。

 ビックリさせるのは……まぁ嫌いじゃないが。


「というかなんで裸なんだよ」

「えぇ? そっちが脱がしたんじゃないんですかぁ?」

「どうして俺が脱がすんだ。最初から着てなかったぞ?」

「そんなはずないですよ。ちゃんと服は着て……ああー」


 ベルフェゴールはベッドの反対側に視線を向ける。

 床には脱ぎ捨てられた服が散らばっていた。

 彼は納得する。


「また自分で脱いじゃったみたいですね」

「いつもそうなら俺を疑うなよ」

「いや~ たまーに脱いでない時もあるんですよ? だからもしかして、誰かが脱がしてるんじゃないかなーって疑ってたんですよね~ ついに犯人を見つけたーって思ったのに」

「鏡見ろ鏡を、犯人ならそこに映ってる」


 ベルフェゴールは寝相がかなり悪いらしい。

 十回寝たら九回は無意識に全裸になってしまうほど。

 こんな無防備で大丈夫なのかと、勇者ながら魔王が心配になった瞬間だ。

 俺は呆れてため息をこぼして言う。


「まぁいい。さっさと着替えて行くぞ。お前も含めて話があるんだ」

「わかりましたー。あー……」

 

 ベルフェゴールは脱ぎ捨てられた服をじーっと見つめて固まっている。


「どうした?」

「……着替えるの、メンドクサイですね」

「おい」

「このままじゃだめですか?」


 素っ裸のままリリスとサルの元へ行く気か?

 俺は同じ男だからなんとも思わないが、リリスは発狂するぞ。

 サルは……気にしないだろうな。


「ダメだ。着替えてくれ」

「えぇ~ このままでもいいじゃないですか~」

「ダメだ」

「ここはボクの城なんですよ? どんな格好をしていてもいいじゃないですか」

「来客がいない時はな」


 話している最中も一向に着替える気がない。

 ベルフェゴールは心から面倒くさそうな顔をして、落ちている服を見たりベッドを見たりしていた。

 このまま放置すると二度寝を始めそうだと思った俺は、仕方なく動く。

 落ちている服を拾い上げ、ベルフェゴールに尋ねる。


「着替えはこれでいいのか?」

「え?」

「面倒ならいい。俺が着替えさせるからじっとしてろ」

「……ふっ」


 ベルフェゴールは小さく笑う。


「なんだ?」

「ううん、なんでもないですよ~ 着替えはそっちの棚に入ってます」

「そうか。あ、せめて下着くらいは自分で履いてくれ」

「はーい。それくらいはやりますよ」

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