隠し事しとるじゃろ!
研究室の椅子に座り、サルががしゃがしゃと工具をいじる。
台の上にはリリスのペンダントが置かれていた。
彼女はペンダントの状態を確認する。
「コアが砕かれている」
「赤い結晶のことか?」
「そうだよ。魔導具を動かすための心臓みたいなもの。普通は魔晶石っていう天然の結晶を使うんだけど、これには大魔王サタンの血が使われている」
「その赤いのって血の結晶だったのか」
通りで、赤い宝石にしては色が濃くて生々しいなと思っていたんだ。
サル曰く、完全な血液の結晶というわけでもないらしい。
魔晶石と血液を融合させて作り出したこの世で唯一無二の物質だとか。
「錬金術か」
「そうだね」
「サタンも使えたんだな。錬金術」
「アンドラスと比べてる? あれも優秀だけど、大魔王のほうがずっと腕がよかったよ。何をやらせても完璧にこなすし、欠点らしい欠点もなかった。完璧に近い存在が大魔王サタンだ」
「完璧……か」
現代を生きる俺たち人間が伝え聞いているのは、その圧倒的な強さと残忍さだった。
リリスの話を聞いている今は、残忍さは人間がつけた偽りのイメージなのだろうと思っている。
強さは疑う必要もないだろう。
ルシファーたちを従え、当時の勇者の総力をかけてようやく倒せた存在。
仮に復活したのが事実なら、今の人間界に勝ち目はない。
もっとも、すでに勝負にすらならない状況だが……。
「お前も大魔王の元にいたんだよな? やっぱり大魔王を研究したかったからか?」
「最初はそうだったけど、すぐに飽きた」
「飽きたって」
「完璧すぎてつまらなかったんだよ。調べて出る結果は、アタシたち悪魔の延長でしかなかったし……まぁ設備が充実してたから、そのまま居座ってたんだけど」
どうやらサルの自由さは昔からだったようだ。
大魔王サタンも苦労したんじゃないのか?
ペンダントの隣に見慣れない工具を用意するサル。
魔導具作りや修理の様子を見るのは初めてで、ちょっとワクワクする。
「修理素材に大魔王サタンの血がいる」
「そんなもの残ってるのか?」
「アタシは持ってない。そこにあるから問題ないでしょ?」
彼女が指をさしたのは、俺の隣でずっと黙っていたリリスだった。
「なるほど、血縁者か」
「そう。一番近いから代用できる。ちょっと血を抜くからじっとしてて」
サルは注射針を取り出し、リリスに近づく。
するとリリスは手を前に出して制止する。
「待つのじゃ」
「ん?」
「どうした? まさか針が怖いのか?」
「そんなわけないじゃろ! ワシは子供か!」
いや子供だろう。
と、ツッコム前にリリスがサルに尋ねる。
「どういう風の吹き回しじゃ?」
「なにが?」
「惚けるでないわ! 昨日までやる気がなかったくせに、なんで今日になってペンダントの修理をする気になったんじゃ! ぬしもじゃアレン!」
「え、俺?」
俺は自分の顔に指をさしてキョトンと首を傾ける。
「なんで急にサルと親しくなっておるんじゃ!」
「親しく、なってるか?」
「普通じゃないかな? アタシはただ会話をしているだけだよ」
「昨日と全然違うではないか!」
プンプン怒るリリスは腰に手を当て、ギロっと俺を睨む。
残念ながら睨まれてもまったく怖くない。
むしろ可愛らしいくらいだが、彼女の眼は本気だった。
「何があったのじゃ? ワシに何か隠しておるじゃろ?」
「別に隠してるわけじゃない。ちょっとあったが話すつもりだ」
「やはり何かあったのじゃな」
「ああ。その話をしたいんだがぁ……」
研究室を改めて見渡す。
見慣れない設備の数々が、いくつか男心をくすぐるデザインがある。
どういう道具なのか聞きたい欲求が高まる。
けど、今はそんなことどうでもよくて、確認したかったのはこの部屋にいる人数だ。
俺とリリスに、部屋の主であるサルカダナス……三人しかいない。
「ベルフェゴールが来てから話したかったんだが……」
「たぶん寝てるよ」
「じゃの。あやつは昔から朝が弱いんじゃ」
「もうすぐ昼だけどな」
サル曰く、予定がない日は一日中寝ているらしい。
大魔王に仕えていたころからそうだったようで、『怠惰』の力に選ばれたのも納得だ。
俺は小さくため息をこぼす。
「仕方ないな。俺が起こしに行ってくる。お前たちはその間に修理を進めておいてくれ」
「わかった。リリス、腕出して」
「う……チクっとするのか?」
「……やっぱり怖いんじゃないか」
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