大魔王が復活した?
暗闇から姿を現す。
漆黒のローブに身を包み、顔はフードで隠している。
体格や雰囲気はまるで伝わらない。
だが、断言できることがある。
映像に映し出されている者たちの中で、フードの彼こそが最強であると。
実際に目の前にはいない。
たかが映像を見せられているだけなのに、圧倒的な威圧感で体中の骨が軋む音がした。
リリスとキスキルは驚愕で言葉を失っている。
顔は見えないが二人の反応……まさか本当に、大魔王サタンなのか?
「――同胞よ」
大魔王が口を開く。
直後、背筋が凍るような寒気がした。
魔力は感じない。
彼はただ一言を口にしただけだ。
その一言が、弱き者には死を直感させるほど強烈だった。
「百年前――余の野望は阻まれた。その雪辱を……今こそ果たそう。余は……再び世界を支配する」
「世界を……支配だと?」
大魔王サタンの望みを、俺たちは知っている。
全種族の共存だ。
決して支配なんかじゃない。
「わたーしたちは、大魔王サタン様の部下になったんですよぉ~ 他にも~ すでにたーくさんの方々が賛同してくれていまーす」
「ひゃっはっは! 勇者もいるんだぜぇ」
「私たちは来る者を拒まないわ。迷う必要なんてないのよ」
「世界はすぐに傾くでしょう」
元を含めた大罪の魔王たちが同調している。
彼ら四名は、大魔王サタンを名乗る悪魔に従っている。
それぞれが強大な力を持つ魔王たちだった。
彼らが従っている時点で、かの者が持つ力の大きさが伝わるだろう。
「わたーしたちはお仲間を募集中でーす! あ、従わない者はもーちろん、虐殺ですよ」
アスモデウスの脅し。
おちゃらけた話し方から放たれる殺意は、弱き者を震え上がらせる。
この映像を見ている悪魔たちの多くは、きっとこう考える。
殺されたくない。
そう、死にたくない。
悪魔たちも恐怖するんだ。
絶対的な力を前にすれば、誰であれ命を守ろうとする。
それは自然なことで、責められるべきことじゃない。
彼は恐怖によって支配する。
心を、忠誠を。
「今から十日間待ちまーす! その間にどうにするか決めてくだーさいねぇ~ 期限を過ぎたら……げひひ、言わなくてもわかりますぅーよねぇ~」
最後の最後まで恐怖を煽るアスモデウス。
そして――
「――同胞よ、余に従え」
大魔王サタンを名乗る何者かの声によって、映像は終わった。
ルシファーの王城は静まり返る。
おそらくこれと同じ光景が、魔界全域で広がっているだろう。
空の亀裂は閉じ、映像も消えている。
だけど俺たちはずっと、何もない空を見上げていた。
「――キスキル、ベルゼビュートとベルフェゴールをここに呼べ。空間魔法の使用を許可する」
「――! よろしいのですか?」
「緊急事態だ。今すぐに集めろ」
「はい」
映像を見たキスキルは動揺していた。
しかしルシファーの命令で正気を取り戻し、普段通りに振舞う。
この場での冷静さはさすがとしか言いようがない。
リリスのほうは……。
「……」
まだ固まっている。
無理もない。
死んだはずの父親が生きていて、自分たちの敵になっている。
そんな事実を知らされれば、誰でも正気を失うだろう。
彼女が父親を好いていることは知っていたから、正直心が痛むが……。
「俺たちも行くぞ、リリス」
「……」
「リリス!」
「――!」
大声を出した俺にびっくりして、彼女は俺のほうを向く。
サラも少し驚いていた。
皆に注目される中、俺はリリスの肩を掴む。
「信じろ」
「……あ、アレン?」
「お前が今、何を考えているかわかる。だが、信じろ。目で見たものじゃない。お前の中にある大事な記憶を……お前が信じたいものを信じればいいんだ」
「……ワシが信じたい……」
今の俺に言えることはこれくらいだ。
違うと、断言してやれないのが情けない。
残念ながら俺には、真実がどちらなのかわからないんだ。
だがもし、大魔王が俺たちの敵になるのなら……。
俺がリリスを、みんなを守ればいい。






