助けを頼んだ覚えはないぞ
魔王ルシファーと勇者の戦い。
最初に動いたのは――
「おらぁ! 燃えやがれ!」
聖剣アグニが燃え上がり、そのままルシファーの頭上に振り下ろされる。
下級の悪魔なら、その炎に触れただけで消滅する威力。
魔王であっても回避は必至。
だが、ルシファーはその一撃を片手で受け止めた。
「炎か、悪くないがぬるい」
「っ、てめぇ」
「本物の炎を見せてやろう」
聖剣を摘まむ右手から、紫色の炎が燃えあがる。
ルシファーの炎が聖剣アグニの炎を食らう。
「この炎、俺の炎を燃やして」
「火力不足だ。それと――」
稲妻が走る。
電光石火の一撃が、ルシファーの背後をとる。
が、これも片手で止める。
「なっ、僕の攻撃を」
「速さは認めるが、見えてしまえば対応はできる。威力も軽い」
掴んだ左手から紫色の雷撃を放ち、勇者スフィールを攻撃する。
「ぐあっ!」
「雷とはこういうものだ」
ルシファーの反撃を受ける両者。
それを救うように、水の波が押し寄せる。
「水圧で押し出したか」
勇者オータムが聖剣を構える。
彼の持つ聖剣ポセイドンは、水を自由自在に操ることができる。
水は鋭い刃となり、強固な盾となる。
周囲の水を全て集め、生み出されたのは巨大な水の騎士。
水の騎士はオータムの動きに連動する。
彼が聖剣を振り下ろせば、水の騎士も刃を振り下ろす。
「城ごと斬る気か? それは困るな」
ルシファーは右手をかざす。
瞬間、水の騎士の動きは止められた。
水の騎士の身体は、同じく水で生成された巨大な蛇によって拘束されている。
「またか! こいつ俺らの攻撃に合わせて来やがる!」
「どうした? もっと見せてみろ」
炎には炎を、雷には雷を、水には水をぶつける。
聖剣の力をルシファーの力が上回り、全ての攻撃は止められ反撃される。
攻撃を仕掛けているのは勇者側だが、疲労しているのは彼らのほうだった。
「はぁ……くそ」
「さすがに、強いですね……」
「油断するな」
「わかってるよ。その紫のがてめぇの権能だな! いいもん持ってんじゃねーか」
ルシファーは小さくため息をこぼす。
呆れた顔で、彼は言う。
「うぬぼれるなと言ったはずだ」
「あん?」
「俺は一度も、権能など使っていないぞ」
「なっ……マジかよ」
事実である。
彼はこの戦闘で一度も権能を使用していない。
彼が使って攻撃の全ては、彼が元々持っている力でしかない。
つまり、地力の差で勇者三人を圧倒していたのだ。
戦況は優勢。
しかし、全体で見れば拮抗状態である。
攻めてきた勇者は三人ではない。
残り二十名以上の勇者が、現在も魔王城内で戦っている。
ルシファーの部下が応戦しているが、そちらはやや勇者側が優勢だった。
ルシファーもそれに気づいている。
すぐにでも眼前の相手を倒し、部下たちに加勢したいが……。
(……一歩遠い)
三人の勇者は冷静に戦況を分析し、勝利ではなく継続に方針を切り替えていた。
他の勇者たちが他の悪魔を倒し、こちらに加勢すれば総攻撃でルシファーを叩くことができる。
いかにルシファーでも、勇者三十人を相手にはできない。
故に時間を稼ぐ。
「少々まずいな」
このまま長引けば不利。
キスキルも部下たちと共に勇者を相手取っている。
何か一つ、戦況を傾けるアクションがほしい。
その声に応えるように、天から光が降り注ぐ。
「――光あれ」
降り注がれた光の雨が、勇者たちをけん制する。
決して当てず、距離を保たせるように打ち下ろされる。
それでも攻撃を辞めない勇者は……。
「吹き荒れろ」
竜巻に巻き込まれるだけだ。
魔王城に生成された竜巻が、勇者から聖剣を取り上げる。
「これは……」
「随分と派手にやってるじゃないか」
「――ふっ、会議はまだ先だぞ? 勇者アレン」
「暇だったんでね。ちょっと先乗りさせてもらったぞ。魔王ルシファー」
戦況を覆す一手が打たれる。
◇◇◇
「なんとか間に合ったな」
「助けを頼んだ覚えはないぞ?」
「そういうと思ったよ。けど、悪くないタイミングだっただろ?」
「……そうだな」
予想通りのセリフに少し安心した。
戦況は拮抗状態、ルシファーはケロッとしているのも想定内だ。
「勇者アレン」
「久しぶりだな、アッシュ。スフィールも元気そうじゃないか」
「いやぁ……あはははは……」
「てめぇもな、裏切り者」
嫌味な笑顔を向けるアッシュと、罰が悪そうな顔でごまかすスフィール。
この二人は相変わらずみたいだ。
それに……。
「オータム、お前はそっち側なんだな」
「私は陛下の意志に従う」
「三人とも相変わらずか……ちょっと安心したよ。けど、敵になったのは残念だ」
俺は聖剣を彼らに向ける。
かつて仲間だった勇者たちに。
「どうするんだい? このまま戦いを続けるのか?」
「勇者レイン、てめぇも裏切りか」
「私も一緒ですよ」
「フローレアさんもかぁ~ まぁ二人はセットだし仕方がないよね」
構図的には三対四、こちらが有利。
このままつぶし合いをすればどちらが勝つか、この場の全員が理解する。
「アッシュ、スフィール、撤退するぞ」
「あいよ」
「そうですね。このまま戦っても負けるのはこっちですし」
「待て、俺の城に土足で踏み入ったんだ。ただで帰れると思っているのか?」
ルシファーが三人を睨む。
そのルシファーに、俺が視線を送る。
「と、言いたいところだが、そうなれば敵がもう一人増えそうだ」
「ルシファー」
「お前は甘いな、勇者アレン」
「一度だけだ。次は……容赦しないぞ」
俺はかつての同胞に言い放つ。
これが最後の忠告になるだろう。
再び俺たちの前に立ちふさがるなら、その時は敵として迷わず斬る。
勇者たちは撤退した。
お互いに相応の被害は受けたが、死者は出ていない。
一先ず乗り切った、と言っていいだろう。
「礼は言わないぞ。が……一つ借りにしておこう」
「お前もなんだかんだ甘いじゃないか」
俺たちは安堵する。
だが、安心していられる時間は長くはない。
この日を境に、世界の均衡は崩壊した。
これにて『均衡の崩壊』編は完結です!
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