驚かないよ
大罪の魔王たちの襲撃を退けた俺たちは、周囲の安全を確認して一旦落ち着くことにした。
今のところ追撃はなく、侵攻する軍団もない。
魔王たちの襲撃は完全に終わったと判断し、レインとフローレアから事情を聴いた。
「陛下が大罪と……一体いつからだ?」
「わからない。だが最近になって手を組んだとは思えない。おそらくは、君が追放される以前から接触はあったはずだ」
「……そうか。じゃあ俺も節穴だな」
あれほど近くにいて気づけなかったのか。
陛下が闇に落ちてしまったのは、勇者である俺にも責任がある。
「で、お前たちに下された任務ってなんだったんだ?」
「……王国は現在、とある魔王討伐を実行している。その魔王の名は……ルシファー」
「――! なんだと」
「大罪の魔王の一人、おそらく現代最強の魔王である『傲慢』の魔王ルシファーを討伐するつもりでいるんだ」
驚きはしたが、それ以上に思う。
「……それは難しいだろう。俺やお前ならともかく、他の勇者には荷が重い相手だ」
魔王ルシファーの強さは、勇者界でもよく知られている。
現代最強の魔王。
彼の存在が、争いが絶えない魔界の均衡を保っているとさえ思われていた。
故に、積極的に敵対することを避けていたんだ。
ルシファーは以前から、強大な力を持ちながら人間界へ侵攻しようとはしなかった。
それなら無理に敵対する必要はないと、常に警戒こそすれ、討伐の任が降りることもなかったんだ。
仮に激突すれば、人間界と魔界、どちらにも甚大な影響が出てしまう。
ルシファーもそれをわかっていたのだろう。
「俺とお前が参加しない以上、勇者側に勝ち目はない」
「それが……そうでもないんだ」
「どういうことだ?」
「今回の任務に参加する勇者の数は……約三十名だ」
「なっ……」
三十人だと?
そんな数の勇者が一人の魔王討伐に参加するなんて異常すぎる。
まるで百年前に起こった大魔王討伐じゃないか。
「しかも参加する勇者は全員、ランキング上位者だ。僕とフローレア以外の十位以上も全員が参加する意向を示している。称号持ちもだ」
「……」
驚き過ぎて言葉を失った。
確かにそれだけの数を動かせば、魔王ルシファーにも対抗できる。
一斉にしかければ倒すことも可能かもしれない。
だが、そんなことをすれば、他の魔王を抑える勇者が不足する。
一か所に勇者を集中させるリスクを誰もが理解しているはずだった。
「そうか。だから同盟なのか」
「ああ、そういうことだ」
瞬時に理解させられた。
陛下が同盟を組んだのは大罪の魔王たちだが、それ以外にもいるんだ。
大罪の魔王に賛同した……別の魔王たちも。
これまで敵対していた魔王たちが味方になり、戦力を集中する余裕ができた。
「だから今、動いたっていうのか」
レインは小さく頷く。
二人を追放したのも、補填するだけの戦力が手に入ったからだ。
「――なら今、ルシファーのところに勇者の軍勢が押し寄せているのか」
「ああ。予定通りなら……四日後になる」
「四日……ギリギリだな」
ここからルシファーの魔王城まで片道五日かかる。
だが急げば四日以内に到着できるはずだ。
「リリス、サラ、準備しろ」
「助けに行くんじゃな?」
「ああ。あいつは必要ないって言いそうだけどな」
「かしこまりました」
俺は遠方を見つめる。
ルシファーとはまだ、あの日の続きをしていない。
決着がつくまで死ぬんじゃないぞ。