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彼は彼のままだ!

 人間と悪魔は対立する。

 歴史がそれを証明し、この対立構造は現代にまで引き継がれている。

 互いに向かい合えば殺し合い、否定し合う。

 どちらかを完全に滅ぼすまで終わらない。

 だが、現代において奇跡が起こった。

 一人の幼い魔王の呼びかけに、一人の勇者が応えたのだ。

 彼らは理想に共感し、手を取り合い突き進む。

 人間と悪魔、勇者と魔王が協力したことなど、歴史上初だった。


 ――否。


 奇跡は一度ではない。

 彼らだけではない。

 純粋ではなく、対等でもない。

 表には現れず、多くの者たちが知ることもなかった事実が、開示されようとしていた。

 人類国家の長と、魔界を統べる王が、裏で通じていたという……紛れもない事実が。


 運命が大きく動き出したのは、現在より一か月ほど前。

 勇者アレンと魔王リリスの城に突入し、無事に帰還した二人の勇者が報告した。

 彼らは協力関係にあり、勇者アレンが魔王にリリスに加担していることは事実である。

 ただし、彼らは明確に人類と敵対する意志はなく、その目的は全種族の共存であること。

 並びに、勇者アレンは王国に対して不信感を抱いている。

 その不信感の要因を作ったのは、度重なる激務と、王国側からの裏切り行為である。


 報告を聞いた国王は、冷たい表情で言い放つ。


「――報告はそれだけか?」

「はい。私が赴き、確かめてきた事実の全てです。彼を人間界から追放し、魔界へと追いやったのは陛下、あなたです」

「……私が自ら、勇者アレンを捨てたといいたいのか? 面白いことを言うではないか。勇者レイン」


 国王はレインを睨む。

 国王と勇者、この両者の関係は対等ではない。

 明確に上下関係が存在する。

 本来、このような強気な発言を国王にすることなど、不遜以外の何物でもない。

 が、勇者レインは引くことをしない。

 己の内にある正義に基づき、正すべきことを正すために。

 それこそが、勇者の役目だと信じているから。


「敗北の言い訳にしては随分と強気だな」

「言い訳ではございません。私は陛下に問いたいのです。我々勇者のことをどう考えていらっしゃるのですか?」

「質問の意図が理解できないが? 勇者は人類を守護する最後にして最強の砦だ。お前たちの存在が、この国を、人類史を支えている。故にこそ、お前たちの肩には重大な責任が乗っているのだ」

「それは理解しています。人々の生活を守り、平和を維持するために私たち勇者は存在している。平和を愛する気持ちは皆等しく……ですが陛下、我々も一人の人間なのです」


 勇者レインは熱弁する。

 勇者は道具ではない。

 同じ血が通い、意志があり、交流がある。

 強大な敵を前にすれば恐怖するだろう。

 敵を打ち倒せば歓喜するだろう。

 勇者であり続けることは、人々の理想を体現し続けることはとても難しい。

 だからこそ、人として生きる時間は大切なのだと。


 勇者アレンは最強だった。

 彼こそ、勇者という名に相応しい存在だった。

 多くの魔王を打ち倒し、人類の希望となりえた彼の存在は大きかった。

 彼がいれば大丈夫だと、か弱き者たちは安堵する。

 共に戦う勇者も、彼がきてくれたならと安心する。

 彼の存在は、人類にとって心の支えだった。

 だが、そんな彼の心を支えるものは……何もなかった。

 必然だったに違いない。

 こうして彼が、人類という枠から外れてしまうことは。

 勇者レインはもう、その選択を間違いだとは思っていない。


「何が言いたいのだ? 勇者レイン」

「私がお伝えしたいのは一つです。勇者アレンは何も変わっておりません。彼は今も、勇者であり続けている。我々人類の敵ではありません」

「だから放置しろと? 奴が王国を裏切り、魔王に加担した事実はどうする?」

「そうさせたのは陛下! あなたです」


 国王と勇者はにらみ合う。

 問答は平行線。

 互いの主張をぶつけ合っているだけで、話は進展しない。

 先に折れたのは国王だった。


「もうよい、わかった。一先ず……アレンの討伐は保留としよう」

「ありがとうございます」

「だがレイン、もしも人類に牙を向くなら、その時はお前が責任を取るのだぞ」

「わかっています。彼が真に悪へと堕ちたなら、勇者として私が倒します」


 レインは国王に背を向け、扉に向かって歩き出す。


「失礼いたしました」


 ゆっくりと扉を開閉し、彼は部屋を出て行く。

 閉まる扉から最後に見えたのは、落胆する国王の表情だった。


「……はぁ」

「随分と思い切りましたね」

「フローレア」


 部屋を出てすぐ、勇者フローレアが声をかけた。

 彼らは常に一緒にいる。

 王城であってもそれは変わらない。


「待っていてくれたのか? 部屋にいてくれてよかったのに」

「一人は落ち着きませんから。それに、いつになく真剣な顔をして陛下に話をしに行った……あなたが心配でした」

「そうか。心配をかけてすまない。もう大丈夫だ」

「……陛下には伝わりましたか?」

「どうだろうな」


 二人は閉まった扉を見つめる。

 勇者アレンと魔王リリス、彼らと対峙したことで明確化された事実は多い。

 彼らは現在の王政、勇者の体制に疑問を抱いていた。


「……陛下は、僕たち勇者を兵器だと考えている。そんな気がしてならない」

「実際その通りですわ。私たちは強大な力を持っていますから」

「ああ、自覚はしている。だが兵器としてではなく、一個人として見て頂かなければ……」


 いずれまた、勇者アレンのような失敗を生むだろう。

 彼の喪失は大きい。

 王国の象徴ともいえる最強の勇者がいなくなった。

 魔界の魔王たちは、すでにこのことを知っているだろう。

 知らないのは……平和に暮らす人々だけだ。


「フローレア、これから忙しくなるよ」

「ええ、頑張りましょう。悪を否定し、善を守るために」

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