リーベのその後
リリスとの戦いに敗れ、魔剣を奪われた元魔王のリーベ。
魔剣のお陰で弱いのに魔王を名乗れていた彼は、その力を失ったことで失脚した。
彼の生活は、魔剣一本で支えられていたのだ。
地位も、名誉も、待遇も……。
信頼など最初からなく、部下たちも嫌々従っていただけに過ぎない。
それ故に――
「覚悟しろよ」
「嫌あああああああああああああああああああああああああ」
力を失った彼が、部下たちから報復を受けるのも必須だった。
ボコボコのギタギタにされた。
命まで奪われなかったのは、元部下たちの良心が働いたから……というわけでもなかった。
「も、もう許してください。こ、殺さないで!」
「……」
情けなく蹲りながら命乞いをする元魔王の姿に、皆が呆れてしまっただけだ。
こんな男に従っていたのかと。
力に圧倒されていたとは言え、自分たちに情けなさすら感じる。
と同時に、彼をあそこまで肥大化させていたのは、自分たちが従ってしまったことも影響していると気付いたのだ。
リーベは弱く、まだ若い悪魔だ。
人間と同じように、成長するべき時なのである。
「二度とここには戻ってくるな。次に顔を見せたら殺す」
「は、はい」
ボロボロになりながらも逃げだし、リーベは僅か数年間治めた魔王城を追い出された。
痛みに耐え泣きながら走り抜け、あっという間に領地の端までたどり着く。
そのころには怪我もほとんど回復していた。
魔剣を持っていた時の影響で、未だに魔力はみなぎっている。
しばらくの間は、自然治癒力が普通の悪魔の何倍も高い。
「くそっ……あいつら手の平返しやがって」
命を救われたというのに、リーベにはまったく反省の色が見られなかった。
それも仕方がない。
彼の心はまだ魔王のままなのだから。
「絶対見返してや……ん?」
道中にリーベは荷車を見つける。
数名の悪魔が屯し、休憩しているところだった。
彼ら悪魔の世界に行商人という概念はない。
ただの荷物運びは下っ端の仕事である。
「ちょうどいいな」
リーベは考えた。
力を失ったのはついさっきで、情報は出回っていない。
今なら威張れる。
自分の領地の中なのだから、名を名乗れば恐れ慄くはずだ。
生きるために必要なものを奪ってしまおう、と。
「おい貴様ら!」
「ん?」
「俺は魔王リーベだ! わかったらその荷物を置いて去れ! 俺が有難く使って……お、おい、なんだ貴様ら! 近寄って」
「うるせーぞ」
「ひぃ!」
悪魔たちは一切躊躇することなく、威張ろうとしたリーベを殴り飛ばした。
「な、何をするんだ! 俺は魔王だぞ!」
「は? リーベなんて魔王知らねーよ」
「なっ、し、知らないだと……」
リーベは知らなかった。
自分が魔王として、そこまで有名ではなかったことに。
名のある魔王たちの耳には入っても、普通の生活する者たちには届かない。
なぜか?
真に実力を有し、魔王らしき功績を残さなければ、誰も気に留めない。
現代において魔王は誰でも名乗ることができる。
故に、魔王の数は増え続けていた。
新人や有名じゃない魔王など、知らない者にとってはわからない。
リーベが声をかけたのは、領地の外から来た者たちだった。
「魔王がこんな弱いわけねーだろ。ふざけてんのか」
「ち、違う! 俺は本当に魔王だ!」
「だったらボコボコにしてやらないとな。魔王を倒せば悪魔として名が上がるだろ?」
「ま、待て……近寄るなああああああああああああああああああ」
本気の殺意を感じたリーベ。
情けなく、泣きながら逃走してしまった。
「なんだったんだよあれ」
「イキったガキだろ。ほっとけよ」
逃げ出したリーベは一目散に走る。
「くそ、くそっ!」
この後、彼はしばらく似たようなやり取りを繰り返した。
魔王だと名乗り、違うと論破され。
襲おうとして返り討ちにあい、泣きながら逃げ出すと言う。
力を失ってもしばらくは、威張り散らす体質は変わらなかったようだ。
彼が大人になるには、もう少し時間がかかりそうである。
第二部開始前のおまけ、その2です!
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