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シクスズのその後

 勇者アレンに敗北したシクスズは、魔王城から数百キロ先まで吹き飛ばされた。

 常人であれば落下の衝撃で絶命する勢い。

 しかし彼は勇者だった。

 聖剣を破壊されても、勇者としての強靭な肉体は残っている。


「まったく、ひどいことをしてくれるじゃないか」


 ボロボロになりながらも、彼は王都へ生還した。

 そこで国王に何があったのかを伝え、聖剣が破壊されたことで勇者を引退することになった。

 本来、聖剣は修復可能である。

 聖剣は勇者の魂に宿っている。

 魂……心を強く持つことで、破壊された聖剣も修復が可能とされている。

 勇者自身が死ぬことがなければ、聖剣が完全に破壊されることはない。

 ただし、修復には相応の時間を要する。

 魂と心にも、大きなダメージを負うからだ。


「まっ、いい機会だね」


 シクスズは復帰を考えていない。

 聖剣は時間が立てば修復され、再び戦場に立つことはできる。

 国王もそのことを指摘し、引退ではなく休業するように伝えたが、シクスズはこれを否定した。


 同じ勇者に敗北し、聖剣まで破壊された。

 信念を砕かれた自分では、これからの戦いに自信が持てない。

 今一度修行しなおして、再び勇者になる。


 そんな格好いいセリフを言い訳にして、彼は引退した。

 もちろん、戻る気などサラサラない。

 勇者らしい言葉を言い信じこませて、楽しく余生を過ごすつもりでいた。

 元より彼は正義や平和よりも、女を愛している。

 地位や名誉がなくなろうと、自分を慕ってくれる女性さえすれば満足だった。

 彼は軽い足取りで王城内を歩き、自身の部屋へ向かう。

 部屋では恋人たちがシクスズの帰りを待っている。

 一人や二人ではない。

 彼は魔王を倒す度に、国王に女性を要求していた。

 その結果、彼の恋人の数は二百を超えている。

 王城の自室で待機しているのは、その中でもよりお気に入りの娘たちだった。


「さぁ、戻ったよ」


 悠々とシクスズは扉を開けた。

 いつもなら女たちが甘い声とみだらな格好で出迎えてくれる。

 

「……え?」


 だが、それがなかった。

 部屋は静かで、がらんとしている。

 恋人たちの姿がないことに戸惑うシクスズ。

 彼の前に一人の女性が現れる。


「シクスズ様」

「ああ、なんだいたのか。ビックリしたよぉ」


 その女性もシクスズの恋人の一人。

 たくさんいて名前も覚えておらず、シクスズは適当に君と呼んでいる。


「他のみんなはどうしたんだい?」

「……皆、帰りました」

「え? 帰った?」

「はい。申し訳ありません。本日をもって、シクスズ様の恋人を辞めさせていただきます」


 女性は頭を下げる。

 その言葉に、行動に、シクスズは頭が追い付かない。


「……え?」

「他の者たちも同様です。それでは」

「ちょっ、待ってくれないか? えっと、一体どういうことなのかな?」

「お伝えした通りです。私たちはもう恋人ではありません」

「いやいや意味が分からないよ。どうして急に?

「……なぜでしょう。私にもよくわかりません、どうして……あなたの恋人になっていたのか」


 女性は冷たい視線を向ける。

 勇者シクスズが持つ聖剣には、女性を魅了する力がある。

 魂に宿ったその力は、シクスズの意志によって発動する。

 彼は気づいていなかった。

 無意識に、聖剣の力が漏れ出ていたことに。

 自分がモテるのは格好いいからだと、聖剣はおまけだと思っていたのだ。

 

 否、全ては聖剣の力である。


 聖剣が破壊されたことで、これまで発していた効果が消失した。

 それにより、女性たちのシクスズへの想いも薄れた。

 我に返り、彼が敗北したことを先に知った彼女たちは、逃げる様に王城を去った。


「そんな……じゃあ僕は……」

「さようなら、シクスズ様。今までお世話になりました」


 こうして、彼は一人になった。

 楽しい余生も何もない。

 大好きな女性に逃げられて……孤独を痛感する。

第二部開始前のおまけです!

面白い、続きが気になる方はぜひとも評価★をください!


よろしくお願いします!!!

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