気付けなかった
光の聖剣アポロン。
その光に阻まれ、魔王たちは退く。
「勇者レイン? どうしてあなたがここにいるんですかねぇ~」
「そんなの決まっている。僕が勇者だからだ」
「……理由になってないぞ?」
「ははっ、君なら理解できるだろう? 同じ勇者なんだから」
わからなくもない。
誰かのピンチに駆け付ける。
それはまさに、勇者らしい。
「――リリスとサラが」
「大丈夫だよ。僕が来ているんだ。当然、彼女も一緒だよ」
リリスとサラにアンドラスの攻撃が迫る。
「潰れて死ねやゴミ共!」
「「っ――」」
「女性にそんな汚い言葉を使ってはいけませんよ?」
ゴーレムの拳が砕かれる。
強靭な鋼の鉱物も、彼女が持つ聖剣と怪力の前では無力だった。
巨大な十字架を片手に、彼女は降り立つ。
「悪いことはしていませんか?」
「フローレア様?」
「あの時の変な勇者!」
「あらあら、変なとは心外ですねぇ」
馬鹿にされてもニコやかに笑っている。
『最善』の勇者フローレアが、窮地の二人を救ってくれた。
「勇者だと? なんでお前らが邪魔をする!」
「あらあら? おバカさんなの? 勇者が魔王の邪魔をするなんて、当然のことでしょう?」
「……よかった」
「気を抜かないほうがいいよ、アレン。まだ彼らは元気だ」
「――! ああ」
フローレアがいるなら大丈夫だ。
俺もこっちに集中できる。
「……これは、いけませんねぇ」
「チッ、ここまでじゃん」
「引き時です。アンドラス! そろそろ戻りましょう」
「はぁ? まだオレの力は――ちっ、わかったよ」
まだ戦う気満々に見えたアンドラスが、突然シュンとなって落ち着く。
その変化に違和感を覚え、フローレアが首を傾げた。
「命拾いしたなクソガキとクソアマ! 次は踏みつぶしてやる」
「くっ……アンドラス」
「最後まで汚い言葉、反省がありませんね」
大罪の悪魔たちが撤収する。
追うこともできたが、この状況では無意味だ。
一先ず今は、皆の無事を喜ぼう。
「助かりました。フローレア様」
「いえいえ、間に合ってよかったです。あなたも、無事で何よりです」
「ぅ……助かったのじゃ。感謝する」
「ふふっ、どういたしまして」
フローレアに助けられたのが不服だったのだろう。
むすっとしながらも、ちゃんとお礼を口にするところに成長を感じる。
「本当に助かった。ありがとう、レイン」
「いいさ。君には大きな借りがあるからね」
「借り? 何か貸してたか?」
レインは呆れたように笑う。
「でもどうしてここに? 偶然ってわけじゃないだろ?」
「ああ、偶然じゃない。君たちを助けに……いいや、君たちの力を借りたくて来たんだよ」
「どういう意味だ? 何があった?」
「……アレン、王国を去った君にこんなことを頼むのは……」
レインは言いよどむ。
いつになく歯切れの悪い。
王国で何かあったのか?
「いいから話してくれ。助けられたんだ。今度はこっちが協力する」
「……僕たちと一緒に、戦ってほしい。このままじゃ人類は……いいや、世界の秩序は崩壊する」
大げさな言い回しに疑問が湧く。
具体的なことは口にしていない。
そこが余計に不気味で、不自然だった。
ただただ、レインの表情からは似合わない……絶望が感じられる。
「何があった?」
「……気づけなかった。ずっと近くにあったのに、僕たちは知らなかった」
「何に?」
「繋がっていたんだよ。王国と魔王たちは、ずっと前から結託していたんだ」
「なっ……」
王国が……魔王と?
衝撃に動揺を隠せない。
そんなこと、絶対にありえない。
いいや、あってはならないことだから。
「本当なのか?」
「ああ。君たちを襲った三名、いや四名か。彼らは王国と繋がっている。すでに陛下と大臣たちは……魔王の傀儡だ。王都にいた勇者の大半も……」
「……冗談だろ」
否、レインが言うんだ。
冗談であるはずがないだろう。
今や人類を代表する勇者が、こんなバカげた嘘をついてまで魔界に来るはずない。
つまり、すべて事実なんだ。
世界が震撼する。
空気が、大地が揺れる。
「もうすぐ始まる。過去最大の……侵略戦争が」
俺たちは立ち向かう。
勇者と魔王、その存在意義を問いただす戦いに。
これにて『絶望の分岐』編は完結です!
そしてここで、物語の【第一部】が終わりました!
短い期間で一気に投稿しましたが、ここまで読んで頂けて非常に嬉しいです!
突然ですがここで、一旦(私の)休憩を挟もうと思います。
第二部は来週中に開始予定です。
今しばらくお待ちいただければ幸いです。
また再三のお願いで恐縮ですが、この辺りで一度評価☆☆☆☆☆⇒★★★★★を頂けると嬉しいです!