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勝者は決まる

「はぁ……はぁ……」

「っ、ここまでとは……」

「――どうした? もうギブアップか?」


 バラバラに崩れる魔王城の一角で、俺はアルマとディケルの相手をしていた。

 わずか数分の戦いだが、すでに決着は見えている。

 息も絶え絶えな二名が膝をつき、俺のことを見上げていた。


「情けないな。リリスのほうがまだ根性あるぞ」

「舐めやがって」

「挑発に乗ってはいけません。この男は強い……我々が束になっても……叶う相手ではありません」


 アルマは冷静に戦況を分析する。

 下ではサラが雑兵どもの相手をしている。

 アテナを有する今のサラには、魔王でも勇者でもない相手は不足だろう。

 当然俺にも、この二名では相手にならない。


「なぜ……攻撃を止めたのですか?」

「俺の役目は足止めだ」

「殺すつもりはないと?」

「ふざけてんのか! これは戦いだぞ!」

「そう、戦いだ。だから生殺与奪の権利は俺が握っている」


 俺は二人に冷たく言い放つ。

 生かすも殺すも、俺の気分次第であることをわからせる。


「死にたいなら勝手にすればいい。だがそれは、決着を待ってからもでいいだろう?」

「……まさか、あの子供が勝つと思っているのですか?」

「舐めすぎだぜ、ウチの魔王様を……気に入らねー野郎だが実力は本物だ。じゃなきゃ俺らがとっくに殺してる」

「ふっ、そっちこそ、うちの魔王様をなめるなよ」


 俺は笑みを浮かべる。

 この四日間の、激しい訓練を思い返す。

 彼女の成長速度は異常だった。

 秘めたる潜在能力は、俺に刃を届かせるほどに。


「あいつは未熟だが、それでも五分に限れば……最強に届く武器を持ってる」


 お前なら勝てる。

 だからリリス、臆さず行け。


  ◇◇◇

 

 『憤怒』の権能が発動したことで、蓄えられた怒りが爆発する。

 アンドラスが普段、いかなる時も冷静で穏やかな様相を保っていたのは、怒りを蓄えるためだった。

 戦いの場でその怒りを全て発揮するために。

 怒りっぽい自身の性格を無理やり捻じ曲げていた。

 彼は、本当は常に苛立っていた。

 部下たちの不甲斐なさに、思い通りにいかない戦況に。

 蓄えられた怒りは全て、彼の肉体へと回帰する。


「オレをなめやがった罰だ! 泣いてもゆるさねーぞぉ!」

「っ……この魔力は……」


 膨れ上がった魔力量は、かつての大魔王に匹敵する。

 リリスは集中をし直す。

 目の前の敵から目を離さないように。

 だが、突如としてアンドラスが視界から消えた。


「なっ――」

「こっちだ馬鹿が」

「ぐっ!」


 背後に回られ、拳が振り下ろされる。

 あまりの速さに反応が間に合わず、ほとんどノーガードで受けてしまう。

 吹き飛ぶリリスは壁に衝突し、倒れ込む。


「ぐ、がはっ!」

「どれだけ強力な力もなぁ~ 届かなきゃ無意味なんだぜぇ?」

 

 予想をはるかに上回るスピードに、リリスは反応できなかった。

 肉体にダメージが残る。

 が、こうしている間にも時間は過ぎる。

 リリスは即座に立ち上がり、攻撃に転ずる。


「黒劉!」

「馬鹿が! そんなのろい攻撃当たるわけねーだろうが!」


 アンドラスは黒い斬撃を回避した。

 そのまま直線的に突っ込み、リリスの眼前に迫る。

 

「死ね」

「まだじゃ!」


 拳が振り下ろされそうになった直前、リリスは周囲に黒劉を拡散する。

 目では追えないと判断した彼女は、全方位に攻撃することで対応しようとした。

 が、それでも……。


「――っと、あぶねーな。カウンター狙ってたのかよ」

「い、今のを……」


 躱された。

 明らかに回避不可能なタイミングにも関わらず、アンドラスは離れている。

 恐るべき反射速度。

 権能によって身体能力が異次元に強化されている。


「はぁ……っ……」

「なんだ限界か? でかい口を叩いてこの程度か。所詮はガキだなぁ」


 リリスは感覚的に理解していた。

 すでに時間は残されていない。

 事実、五分のリミッターまで残り十秒に差し掛かる。

 決定打のない現状、勝機は薄かった。

 大人バージョンも終わる。

 五分経過したら逃げに徹しろ。

 アレンの言葉が脳裏に過る。


「嫌じゃ……」


 それを彼女は否定する。

 

 負けたくない。

 勝ちたい……勝つために頑張ってきたんじゃ。

 諦めるもんか。

 最後の一秒まで絶対……諦めない!

 ワシは勝つんじゃ。

 お父様の理想を叶えるために。

 ワシのことを……信じてくれたアレンのためにも!


 負けられないという意地が彼女を奮い立たせる。

 五分、経過する。

 それでも立ち上がり前を向くリリスに、終焉の魔剣が応えた。


「え……」


 かの魔剣には大きく二つの効果がある。

 一つは、使用者に無際限の魔力を供給すること。

 もう一つは……使用者が持つ魂の強さを獣として具現化させること。

 後者の能力に関して、彼女は一度も成功していない。

 魔獣の具現化は、使用者が持つ魂の強さと、最強のイメージによって構築される。

 彼女がもつ最強のイメージ、それは……。


「なんだ……そいつらは……」

「お父様……アレン?」


 大魔王サタンと、最強の勇者アレン。

 二人の影が形を作る。

 彼女がこの能力を発現できなかった最大の要因は、彼女自身とイメージする対象との間に、大きすぎる力の差があったからである。

 今、この瞬間ようやく……力の距離は縮まった。


「そんな人形――で、は……」


 まさに刹那。

 二つの影は交錯し、アンドラスの身体を切り裂いた。

 最強の勇者と魔王のコンビ。

 それに敵う存在など、この世にはいない。

 故に、この結末は必然である。


「馬鹿……な……ぐああああああああああああああああああああああああああああああ」


 アンドラスが蓄えていた怒りのエネルギーが拡散する。

 と同時に、結界の制限時間に至る。

 漆黒の壁に亀裂が走り、拡散する力の波に押されて砕け散る。


「リリス!」

「あ……」


 結界の外で、アレンと視線が合った。

 様々な感情があふれ出る。

 そのすべてが、彼女を押し出す。


「アレン!」

「おっと! 突然飛び込んでくるなよ」


 彼女はアレンの胸に飛び込み、力いっぱいに抱き着く。

 大人から子供へと戻り、涙を流しながら。


「勝ったぞ! ワシが勝ったんじゃ!」

「ああ、よくやった」


 『憤怒』の魔王との決戦。


 勝者は――魔王リリス。


これにて『簒奪の決戦』編は完結です!

いかがだったでしょうか?

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そう思った方はぜひ、ページ下部の評価☆から★を頂ければ幸いです。

頑張って執筆するぞーというモチベ向上につながります!

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