表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

44/107

怒りを発露して

「思った通り、城内の警備は手薄だな」

「そのようですね」

「アンドラスはあの部屋だ。近くに二体……アルマとディケルだな」

「いかがしますか? アレン様」


 ぞろぞろと魔王城にいた悪魔たちが集結している。

 上位悪魔は少数で、ほとんどが下級の悪魔だ。


「サラ、少しだけここを任せる」

「かしこまりました。ご武運を」

「ああ、いくぞリリス」

「うむ!」


 俺とリリスは上を目指す。

 魔王アンドラスがいる部屋を。


「い、行かせるな!」

「邪魔はいけませんよ」

「くっ、なんだこいつ……ただの人間が俺たちのじゃ――グエア!」


 一瞬にして接近した悪魔を切り捨てているサラ。

 周囲が戦慄する。

 彼女はすでに、聖剣アテナを自らの剣と融合させている。


「あなた方の相手は私です」


 雑兵の相手をサラに任せた俺とリリスは駆ける。

 あの程度の敵であれば、サラ一人でも十分に立ち回れるだろう。

 

「行くぞ、初撃は俺がやる。始まれば最後だ」

「うむ! 絶対勝つのじゃ」

「信じてるぞ」


 まさか、魔王を信じる日がくるなんてな。

 感慨深い。

 悪くない気分に浸りながら、俺たちはたどり着く。

 魔王アンドラスと、配下の悪魔二名を視界に捉えた。


「勇者アレン!」

「ここは通さねぇーぞ!」

「悪いが通るのは俺じゃない。道を開けろ」


 俺が抜いたのは暴風の聖剣オーディン。

 吹き荒れる突風を操り、魔王アンドラスの元まで道を作り出す。

 アルマとディケルは風に阻まれ侵入できない。


「いけ!」

「正面から来ますか。浅はかですね」

「それはどうかな?」


 リリスがペンダントの効果で変身し、アンドラスの元へ突っ込む。

 が、手前で急停止し、魔剣を抜く。

 狙いははなから攻撃じゃない。

 戦うための場を作ること、誰にも邪魔されず、二人だけで戦える空間を。

 

「閉ざせ――黒牢(こくろう)!」


 終焉の魔剣の能力を発動させ、漆黒の壁が二人を包んでいく。


「これは――」

「行ってくるのじゃ、アレン」

「ああ」


 頑張れ。

 声を届かせる前に、漆黒の結界は閉ざされた。

 でも、大丈夫だ。

 言葉にしなくても、俺のエールは届いている。

 彼女は必ず勝つ。

 それまで――


「邪魔はしてくれるなよ」

「てめぇ……」

「やってくれましたね」

 

  ◇◇◇


 終焉の魔剣。

 その力によって生成された結界は、全ての衝撃を無効化する。

 時間制限という縛りにより、発動中はいかなる攻撃も受けない。

 故に、脱出も侵入も不可能である。

 

「ここは……魔剣の空間ですね?」

「そうじゃ。ワシを倒さない限り、この結界からは出られんぞ」

「なるほど。実に簡単だ」


 結界に閉じ込められたアンドラスだが、一切動じていない。

 この程度のことは想定内だと、表情が告げている。

 対するリリスも冷静だった。

 

「一対一なら私に勝てると思っているのですか? だとしたら不愉快ですね」

「悪いのう。あまりおしゃべりをしている時間はないんじゃ」


 彼女の体内は、感覚で時間を把握している。

 すでに三十秒が経過していた。

 許された戦闘時間は五分、残り四分半。


「最初から本気じゃ」

 

 全力で攻め続ける。

 リリスは魔剣の力を完全開放させる。

 刃からあふれ出るどす黒いオーラは、あらゆるものを呑み込み消滅させる。

 魔力であって魔力ではない……終焉の魔剣が持つ能力。


「――黒劉(こくりゅう)


 リリスが魔剣を振ると、漆黒の斬撃が放たれる。

 アンドラスは防御態勢に入るが、直前で回避に切り替えた。

 彼の判断は正しい。

 もし仮に、今の攻撃を防御していた場合、その時点で決着はついていた。

 『黒劉』は全てを呑み込む破壊の力である。

 成長したリリスが放つ一撃は、魔法による防壁では防ぐことはできない。


「厄介な力ですね」

「まだじゃ!」


 リリスは続けて攻撃を仕掛ける。

 アレンとの訓練で身に着けた戦闘の感覚が告げている。

 格上の相手に対して、攻撃する隙を作ってはならない。

 考える時間を与えるな。

 繰り出される攻撃に対処させ続ければ、こちらに攻撃する余裕はなくなる。

 もちろん、相手は魔王アンドラスだ。

 攻撃をかわしながら反撃する程度は可能だろう。

 だが、この地形では存分に力を発揮できない。


 アンドラスは懐から鉱物を取り出し、空中に投げ捨てる。

 鉱物は複数の剣に変化し、射出されリリスを襲う。 

 だがこれをリリスはなんなく防御する。

 黒劉は攻撃だけでなく、防御にも転用可能な力だった。

 リリスの周囲に黒劉が渦巻いている。

 隙をつくり、防御を剝がさなければ彼女に攻撃は当てられない。


「ちっ……」


 アンドラスは優れた錬金術師である。

 彼の力をもってすれば、周囲の物質は全て武器となり得る。

 自然を味方につけることができれば、常に相手に対して有利に立ち回れるだろう。

 しかしここは結界の中、覆う壁は全て魔剣の力である。

 故に、錬金術で武器に変えることができない。

 この結界内に限り、彼は自身の特性をまったく活かすことができない。


「なるほど。これで私の能力を封じたわけですか」

「なんじゃ不満か?」

「ええ、不満ですよ。この程度で……オレを出し抜いたつもりでいんのがなあああああああああああああああああああああ」


 突如、アンドラスは激高した。

 これまで見せたどの怒りよりも激しく大きい。

 空気が振動する。

 アンドラスの細身な肉体が、徐々に大きく筋骨隆々に変化していった。


「これが憤怒の……」


 『憤怒』の権能。

 その効果は、蓄えた怒りを自身の力に変換する。


「覚悟しろよクソガキがぁ! ぐちゃぐちゃにしてやるぞ」

「……」


 リリスは直感する。

 ここからが本当の戦いになることを。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[一言] リリスかっこかわええ
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ