猛特訓だ!
勇者アレンと魔王リリス。
彼らが魔王城から脱出し、部屋に一人残された魔王アンドラス。
純白の鎖に繋がれた彼は、その場から動けない。
聖剣グレイプニルの封印は限定的である。
期間を短く、範囲を狭く、制約を緩く設定することで効果を向上させることができる。
アンドラスは五日間、魔王城から出ることができない。
という封印を受けた。
故に時間が経過すれば、純白の鎖は透明化し、城内であれば動けるようになる。
「……」
ぱちんと指を鳴らし、部屋に展開した結界を消す。
その直後、部屋に部下の悪魔たちが入ってくる。
「ご無事ですか魔王様!」
「こいつはぁ……」
リリスの魔王城に現れた二人の悪魔である。
破壊された部屋の壁を見て、戦闘の気配を感じ取る。
アルマが尋ねる。
「追いますか?」
「……」
「魔王様?」
「――少し、黙りなさい」
一瞬、寒気を感じた。
二人の悪魔は同時に、心臓を掴まれるような感覚に襲われる。
アンドラスから漏れ出た怒りの波動が、彼らを震撼させた。
「まさか……逃げられるとは思いませんでしたね」
予想外。
否、予想以上であった。
勇者アレンの秘めたる力は、大罪の魔王にも匹敵する。
それを実感したが故に、追跡を避けた。
仮に今、自由の身だったとしても、彼は動かなかっただろう。
このまま戦っても勝利は不確かである。
「やはりほしいですね。大魔王の血……」
勇者アレンを確実に殺すため、彼はリリスを狙っていた。
大魔王の血族にして、その力の一端を受け継ぐ悪魔。
潜在能力は間違いなく、大罪の魔王に匹敵すると彼は予想していた。
リリスを手に入れ使役すれば、勇者アレンに対して有利に立ち回れる。
故に、彼は逃げない。
「五日後が楽しみです」
そのチャンスを、敵自らが与えてくれるという。
逃すはずがなかった。
◇◇◇
サラとリリスを抱え空中を駆ける。
即座に魔王城を離脱した後、そのままの速度を保ってアンドラスの領土を抜ける。
魔王アンドラスは魔王城に縛ってある。
限定的だが、聖剣グレイプニルの封印は絶対だ。
彼が追ってくることはないだろう。
配下の悪魔も、今のところ追ってくる気配はない。
「ぅ……あれ、なんでワシ、空におるんじゃ?」
リリスが目覚める。
奴の部屋から脱出したことで、女性を惑わす効果から解放されたようだ。
「アレン? どうなっておるのじゃ?」
「説明は帰ってからだ。先に言っておくが覚悟しておけ。今日から五日間……片時も休めると思うなよ」
「え、よ、よくわからんが……わかったのじゃ」
いつもなら嫌そうな顔をするリリスだけど、この時は違った。
俺から切迫した雰囲気が伝わったのだろう。
「サラにも動いてもらうぞ」
「なんなりとご命令ください。私はアレン様について行きます」
「ありがとう」
おそらくこれが最大の試練。
俺たちが目的を達するための、初めての分水嶺だ。
◇◇◇
魔王城に無事帰還した俺たちは、そうそうに二人に事情を説明した。
途中から目覚めていたサラは大体把握している。
惑わされ続けていたリリスは、部屋にいた頃の記憶が曖昧だった。
「――すまなかったのじゃ! ワシが変な攻撃にやられてしまったばかりに」
「謝るな。気づけなかった俺も間抜けだ。いや……今回はアンドラスが一枚上手だった。それだけのことだ」
「う、うむ……」
落ち込むリリスに俺は言う。
「アンドラスに施した封印は五日間しか持たない。奴が自由になれば間違いなく、最大戦力を持って俺たちの城に攻めこんでくる。そうなれば最悪、城を奪われる可能性もある」
「こ、この城は誰にも渡さんのじゃ! まだ……お母様も来てくれてはおらん」
「わかってる。俺もいる。ただで渡すつもりはないが、防衛戦が不利なのは事実だ。こっちは人数も少ないからな」
「三人じゃからのう……」
「いや、数ならもう少し増やせる。そこはサラ、お前に任せる」
俺はサラに視線を送る。
目と目が合い、何かを察したのか彼女は頷く。
「かしこまりました。すぐに出発いたします」
俺が用件を伝える前に、何を求めているのか理解してくれたらしい。
さすが、俺の一番の理解者だ。
「アテナはそのまま持っていてくれ。大丈夫だと思うが、戦闘はなるべく避けろ」
「承知いたしました。では……」
「ああ、頼んだ。無事に帰ってきてくれ」
「かしこまりました」
サラは深々とお辞儀をして、俺たちに背を向けて駆け出す。
「サラはどこに行ったのじゃ?」
「戦力集めだよ。彼女に任せておけば問題ない。俺たちは特訓に集中するぞ」
「う、うむ! 頑張るのじゃ」
「よし、じゃあさっそく戦闘訓練をする。俺と全力で戦うんだ。ただし、使っていいのは魔剣の力だけだ」
俺は原初の聖剣を生成し、右手に握る。
「魔剣だけ? 魔法はなしか?」
「時間が限られているからな。しまりなく修行しても中途半端な強さしか得られない。魔剣の力を最大限発揮できるようになれ。時間がない。さっさと始めるぞ」
「わ、わかったのじゃ!」
彼女はペンダントの力を発動させる。
大人バージョンになると同時に、魔剣を抜く。
彼女の持つ魔剣、大魔王から継承した終焉の魔剣は、俺の聖剣と同じく彼女の魂に宿っている。
その強度や性能は、彼女自身の能力に大きく左右される。
ここで示す能力は、現時点での強さの限界ではなく、彼女のうちに秘められた潜在能力も含まれる。
魔剣の力を十二分に発揮できるようになれば、彼女の潜在能力を引き出し、魔王アンドラスにも対抗できるはずだ。
そのために――
「構えろ、リリス」
「――!」
とことん追い込む。
強者と戦う恐怖を知り、それに打ち勝つ強さを身に着けるまで。
俺の最強を彼女に叩き込むんだ。
ブクマ、評価はモチベーション維持向上につながります。
現時点でも構いませんので、ページ下部の☆☆☆☆☆から評価して頂けると嬉しいです!
お好きな★を入れてください。
よろしくお願いします!!