表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

40/107

首を洗って待ってろ

 振り返った先に魔王がいた。

 涼しい顔は変わらず、堂々と俺の前に現れた。


「この部屋には特殊な鉱物を使用しているんです。そこから漂うわずかな香りは、女性を惑わせる効果があります」

「鉱物だと? そんなの聞いたことないな」

「当然でしょうね、私が作り出した新しい物質です」

「物質の生成……お前、錬金術師か」


 物質同士を合成させ、世界に存在しない新しい物質をも生み出す魔法の一種。

 アンドラスは錬金術の使い手、この部屋も奴が作りだした物質で出来ている。

 基本は自然物を元にしている。

 自然物だから、俺やリリスたちも感じられなかったのか。


「最初から、俺たちを一網打尽にするつもりだったのか」

「まさか、それならまっすぐ堂々と攻め込んでいましたよ。あなたはともかく、他の二人は数で圧倒すれば簡単に落とせます。こんな回りくどい方法を取ることにしたのは、あなたが私を信じなかったからです」

「信じていたら、どうしてたんだ?」

「もちろん協力していましたよ」


 アンドラスはニコやかにそう口にした。

 加護に反応はない。

 が、今ならハッキリと言える。


「嘘だな」

「なぜ? 加護は反応していないでしょう?」

「ああ……だから直感だよ。お前は嘘ばかりついている。加護すら騙すほど巧妙な嘘をつける……いや、それが『憤怒』の権能か?」


 アンドラスはニヤリと笑う。


「残念ですが違います。これも私の力……錬金術の副産物です」

「副産物……」

「ええ。しかし困った人ですね。加護さえかいくぐれば簡単だと思っていましたが、こうも疑り深い人物だったとは、想定外です」

「悪かったな。俺も、散々裏切られた後なんだ」


 勇者時代の裏切りの経験が、俺を疑り深くしたのならあまりいい気分じゃないな。

 でも、今は感謝しておこう。

 おかげで最悪の事態にはならなかった。


「洗脳じゃなくて惑わせてるだけなら、この部屋を出れば解決するな」

「ええ、もちろんですよ。ですが、できると思っているのですか? お二人がそんな状況で」


 リリスとセラが俺の身体に絡みついている。

 時間の経過によって、二人ともうっとりと顔を赤らめ理性を保てていない。

 毒や劇薬なら耐性があっただろうが、未知の物質となれば話は変わっている。

 初めての効果ゆえに、効き目も強く速い。


「大人しく殺されてください。心配しなくとも、そのお二人は丁重に私が管理いたします。どちらも貴重な力ですので」

「悪いがそれはできない。お前は、俺を侮り過ぎだぞ」


 もう勝ったつもりらしいが、考えが甘い。

 俺は勇者として、この程度の修羅場は何度も潜ってきている。

 これまでの絶望に比べたら、これくらいなんてことはない。

 頭もひどく冷静だ。

 落ち着いて、対処する。

 まずは――


「アテナ、サラに融合しろ」


 聖剣アテナを取り出し、サラに与える。

 肉体と融合することで、一時的にあらゆる耐性を手に入れる。

 未知の物質の特性であっても、聖剣は万能に作用する。


「……は、私は何を……」

「説明は後だ。リリスを俺から剥がして抑えておいてくれ」

「かしこまりました」

「アレン……」

「離れてください、リリス様」


 子供の状態じゃ、リリスでは力に抗えない。

 これで動けるようになった。


「さすがですね。では私も本気で――」

「遅いよ」

「なっ――」


 アンドラスの身体が純白の鎖で拘束される。

 魔王城の床や天井から根を生やすように、複数の鎖が生成されている。


「これは……」

「封縛の聖剣グレイプニル。あらゆる対象を封印する」

「封印の力? いつの間に」

「悠長にしゃべっている時間が仇となったな。お前を攻撃するタイミングならいくらでもあったんだ。詰めが甘いんだよ」


 アンドラスの表情が初めて変わる。

 穏やかだった笑みが消え、俺を静かに睨む。


「同盟の話はなしだ。俺たちは逆を望む」

「……戦う気ですか? 私たちと」

「そっちもそのつもりだろ?」


 もはや止められない。

開戦の狼煙はすでに上がっている。


「サラ、俺につかまれ」

「はい」


 サラが俺の身体に掴まり、リリスを脇に抱える。


「逃げる気ですか?」

「このまま倒してもいいが、それじゃ意味がない。お前を倒すのは、リリスだ」

「……その子供に私が倒されると? 甘く見られたものですね」


 アンドラスが苛立ちを見せる。

 ようやく少しだけ、二つ名らしい表情が見られた。

 対して俺は笑みを浮かべる。


「その封印は五日で解ける。五日後、お前はリリスに負ける」


 俺が必ずそうさせる。

 次に会う時、どちらかが世界から消えるだろう。

 俺は原初の聖剣を取り出し、結界に穴を空ける。


「五日後、戦争だ」


 そう言い残し、俺たちは去る。

 逃げ道はない。

 実は間違いだったなどと、撤回もできない。

 俺たちは完全に敵対した。


 『憤怒』の魔王アンドラス。

 五日後、リリスがその称号を奪うだろう。 

これにて『憤怒の魔王』編は完結です!

いかがだったでしょうか?

少しでも楽しんで頂けたなら幸いです。


この章が面白い!

続きが気になる!

そう思った方はぜひ、ページ下部の評価☆から★を頂ければ幸いです。

頑張って執筆するぞーというモチベ向上につながります!


評価をお願いします!!!!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新作投稿しました! URLをクリックすると見られます!

『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』

https://ncode.syosetu.com/n2188iz/

※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

第一巻1/10発売!!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000

【㊗】大物YouTuber二名とコラボした新作ラブコメ12/1発売!

詳細は画像をクリック!
https://d2l33iqw5tfm1m.cloudfront.net/book_image/97845752462850000000/ISBN978-4-575-24628-5-main02.jpg?w=1000
― 新着の感想 ―
[良い点] 乗っけから胡散臭ぇ~とは思ってたけど、予想通り分かり易い胡散臭さで安心。
[一言] サラがセラになってますよ〜
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ