スカウトお断り!
「うぅ……なんでワシがこんなこと……」
「文句を言わずに手を動かしてください」
リリスはサラと一緒に王城内の掃除をしていた。
嫌々箒で床を掃除する。
「ワシは魔王じゃぞ。魔王が城を掃除するってありえんじゃろ!」
「アレン様から甘やかさないように言われています。給料を払えないなら、その分自分も働くようにと」
「くっ……まじめな奴じゃ」
「アレン様は勇者です。本来ならばここいることすら――」
「ん?」
サラが先に気付き、遅れてリリスが気配を察知する。
悪魔ではなく人間二人。
本来ならば招かれざぬ客である。
「やぁ、二人とも」
「お久しぶりですね」
「レイン様、フローレア様」
「げっ!」
二人の勇者の登場に、リリスはあからさまに嫌そうな顔をする。
レインではなく、フローレアのことは未だに少し苦手なリリスだった。
フローレア当人は気にしておらず、変わらずニコニコしながらリリスとも顔を合わせている。
「な、何しにきたんじゃ!」
「アレンに用があってきたんだよ。彼は?」
「出かけております」
「そうか。じゃあ戻ってくるまで待たせてもらうよ」
レインがそう言うと、リリスはムスッとした表情で尋ねる。
「アレンに何のようじゃ? 伝言ならワシから伝えるぞ」
遠回しにさっさと立ち去れ、とリリスは言っている。
それに気づきながら、レインは首を横に振って否定し続ける。
「ちょっとした勧誘だよ」
「勧誘じゃと?」
「以前から話はしていてね? 彼に……王国へ戻ってきてもらおうと思ってるんだ」
「――なっ、なんじゃと?」
リリスは驚愕し、額から汗を流す。
◇◇◇
「はぁ……はぁ……」
「中々やるではないか。さすがは最強の勇者」
「そっちこそ。今ならお前でも、偽サタンに勝てるんじゃないか?」
激闘を終え、俺たちは武器を納める。
思った以上に全力を出したから、かなり披露してしまった。
けれどその分スッキリはしたし、ストレスの解消にはなかったかな。
「お二人とも、やり過ぎですよ」
「キスキルか」
「すみません。結界、助かりましたよ」
彼女は小さくため息をこぼす。
俺たちの戦いに周囲が巻き込まれぬよう、キスキルが結界を張ってくれていた。
止めても無駄だと判断し、戦わせるほうがいいと思ったのだろう。
「満足されましたか?」
「俺はな。勇者アレン、この後の予定はあるのか?」
「そうだな。結構時間経ったし、一度リリスのところへ戻るよ」
「そうか。暇になったらいつでも来い。相手をしてやる」
「こっちのセリフだ」
俺たちは拳を突き合わせる。
最強の勇者と最強の魔王、俺たちの間には、いつしか奇妙な友情が芽生えていた。
なんて、恥ずかしくて口には出せない。
俺はキスキルに視線を向ける。
「リリスに伝えることは?」
「元気にやっているならそれで十分です。また、こちらから会いに行くと」
「伝えます」
リリスもきっと喜ぶだろう。
ちゃんとサラの言うことを聞いているだろうか。
少し不安だから、早めに帰還しよう。
俺は空を飛び、ルシファーの城を出発する。
「……あ」
途中で気づく。
結局戦っただけで、バイト代貰ってないな。
「次に会った時に請求するか」
◇◇◇
リリスの城へと帰還する。
上空から落ち、玄関前にたどり着いた。
俺は玄関を開ける。
「ただい――」
「嫌じゃああああああああああああ」
「うおっ! リリス!?」
玄関を開けたら一秒もたたずリリスが抱き着いてきた。
なぜか大号泣している。
「嫌じゃ嫌じゃ! ワシのことを捨てないでくれ!」
「は? 何の話を……」
「やぁ、お帰りアレン」
「レイン、フローレアも」
二人の姿が魔王城にはあった。
このリリスの変化はレインたちの影響か?
俺はじとっとレインを見ながら言う。
「何をしたんだよ?」
「僕は何もしていないよ。ただ、君を勧誘していることを話しただけだよ」
「アレン! 王国に戻るんじゃろ? そんなの嫌じゃ!」
「ああ、その話か」
リリスが泣きながら抱き着いてきた意味は理解した。
おそらく誤解があることも。
誤解を解くため話始めようとすると、リリスが力いっぱいに俺の身体に抱き着いて離さない。
「約束守れんかったことがダメだったんじゃろ? ワシもっと頑張るのじゃ! ワシも働いてお金を稼ぐ! だからどこにも行かないでくれ。ワシの下から……いなくならないで……」
「リリス……」
久しぶりに見るな。
こんなにも弱々しくなったリリスは。
俺は微笑み、彼女の頭を撫でる。
「断ってるよ、とっくに」
「え?」
リリスは顔を上げる。
キョトンとして、涙と鼻水でぐちゃぐちゃの顔をこちらに向けた。
「前々からスカウトはされてた。その度に断ってるんだよ。レイン、また来たのか?」
「もちろん、君が首を縦に振るまで何度でも来るよ」
「懲りない奴だな。俺は戻る気はない。俺の居場所は……」
俺はリリスの頭に触れながら言う。
「ここにある」
「アレン……」
「……やれやれ、また振られてしまったか」
臭いセリフを吐きながら、レインは首を振る。
最初から断られるのはわかっていた癖に。
「気が変わったらいつでも歓迎するよ」
「そうだな。あんまりこっちの待遇が酷いなら、考えるかもな」
「ぜ、絶対ダメじゃ! アレンはワシのじゃ! 誰にも渡さんぞ!」
ガルルと唸りながら俺の腕に抱き着き、レインに威嚇するリリス。
いつからお前の物になったんだ、とツッコミたいところだが、今の俺は気分がいいからやめておこう。
「それにしてもリリス、そんなに俺と一緒にいたいのか?」
「うっ……」
彼女はビクッと震え、顔を真っ赤にする。
いつものように否定するか?
今回は違うらしい。
「あ、当たり前じゃろ」
恥ずかしがりながら、眼を逸らしながら……。
「アレンはワシのものなんじゃ」
改めて腕に抱き着く。
ここまで魔王に好かれた勇者は、長い歴史の中でも俺だけだろう。
悪くない気分だ。
「だから絶対! 誰からのスカウトもお断りじゃぞ!」
「はいはい。そうするよ」
【作者からのお願い】
新作投稿しました!
タイトルは――
『残虐非道な女王の中身はモノグサ少女でした ~魔女の呪いで少女にされて姉に国を乗っ取られた惨めな私、復讐とか面倒なのでこれを機会にセカンドライフを謳歌する~』
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