働け、戦え?
フィーのところで彼の頼みを聞き、お金を貰った。
膝枕をしながら頭を撫でてあげただけだ。
果たしてこれを、アルバイトと呼んでいいのだろうか?
なんだかよくないことをして手に入れたお金っぽいが、お金はお金だ。
有難く受け取っておこう。
「でもまだ心もとないな。ちょうどいい、近況報告も兼ねて他の魔王たちの様子も見に行ってみるか」
暴食の魔王ベルゼビュート。
傲慢の魔王ルシファー。
二人の魔王であり戦友は、リリスの城を出てから会っていない。
お互い大群を率いる王だ。
忙しくて顔を出す暇もないのだろう。
「まずはベルゼビュートのほうから行くか」
なんとなく、ルシファーは最後がいい気がした。
俺は空を飛び、ベルゼビュートが支配する領域へと移動する。
彼も生き残った悪魔たちを引き連れ領地に戻った。
あれからそれなりの期間が経過しているし、城下町の復興も進んでいるだろう。
と、予想して城に到着すると、さっそく怒号が飛ぶ。
「おら! きびきび働きやがれ! この調子じゃいつまで経っても元通りにはならねーぞぉ!」
ベルゼビュートの命令に背筋が伸び、悪魔たちはせっせと魔王城の復興に勤しんでいた。
「相変わらずスパルタだな」
「ん? アレンか」
ベルゼビュートが俺の存在に気付く。
張りつめていた表情がわずかに緩み、肩の力が抜けるのがわかった。
「久しぶり。元気そうだな」
「何しにきやがった?」
「アルバイトだよ」
「は?」
ベルゼビュートにも事情を説明した。
すると彼は盛大に呆れる。
「はぁ……世界を救った大勇者様が、金に困って魔王のところにバイトしに来るかよ。世も末だな」
「それだけ平和になったってことだ。あと文句はリリスに言ってくれ」
「ったく、そんじゃ働いてもらうぜ? 覚悟はいいな?」
「ああ、膝枕以外で頼む」
さすがにこんなゴツイ悪魔を膝に乗せたくないぞ。
「あん? そんなもん頼むわけねーだろ? 労働つったら力仕事だ」
「……なるほど」
一時間後――
俺は巨大な鉱物で作られた壁を持ち上げ、指定の場所まで運ぶ。
「さすが最強の勇者様だな。お前一人増えるだけで作業効率がぐんと上がる」
「褒めてくれてどうも……本気で働かせやがって」
「お前が望んだことだろうが。文句言ってねーできびきび働け。勇者をこき使うってのも悪くねぇ気分だな」
「悪魔か……いま悪魔か」
小さくため息をこぼしながら、俺はせっせと働く。
どうやら城下町の復興を優先して、魔王城の復興は後回しになっていたらしい。
城は領地の象徴だ。
いつまでもボロボロのまま放置は恰好がつかない。
そういえば、一時期リリスの城に滞在していた頃も、自分のことより周りのことを優先して動いていたな。
口調や所作は乱暴だけど、魔王の中で一番まともで優しい奴なんじゃないか?
指示するだけじゃなくて、ちゃんと自分も働いているし。
部下から信頼されるわけだよ。
「リリスにも見習ってほしいな」
「……リリスはどうしてる?」
「普段通りだよ。ピーピー文句言いながら騒いでる」
「はっ、楽しそうじゃねーか」
ベルゼビュートは呆れ笑いをしながら運んでいた荷物を置く。
彼は改まって俺に視線を向けた。
「アレン、戻ったらリリスに伝えとけ」
「何を?」
「お前はまだまだ大魔王には遠いんだ。さっさとオレらに認められるくらいの大魔王になれ。じゃねーと、オレがその座をぶんどっちまうぞってな」
「……自分で伝えればいいのに」
恥ずかしがり屋な奴だ。
おそらく大魔王サタンの部下で一番、リリスのことを心配しているのは彼だろう。
◇◇◇
「はぁ……疲れた」
まっとうに労働して疲れがグッとくる。
こんな状態でルシファーの下に行くのは気が引けるが、どうなっているか興味がある。
ルシファー領に入る。
すでに復興の大部分は進み、魔王城は綺麗になっていた。
こちらは城の復興を優先したようだ。
「あいつらしいな」
「――待っていたぞ! 勇者アレン!」
魔王城の敷地に踏み入った途端、まさかのルシファー本人が出迎えてくれた。
彼は城の屋根上に立ち、俺のことを見下ろす。
「久しぶりだな、ルシファー」
「面倒な挨拶は必要ない。お前の事情はすでに把握している。金に困っているそうだな」
「なんで知ってるんだよ……事実だけど」
「それならちょうどいい。この俺と戦って貰おう!」
「は?」
直後、ルシファーが突っ込んでくる。
冗談ではなく本気だ。
突き出した拳には紫色の稲妻が纏われている。
「おい! 何考えてるんだ!」
「戦いだ! 本気でくるがいい」
「なんで戦う必要があるんだよ!」
「決まっている。お前が勇者で、俺が魔王だからだ!」
ルシファーは構わず攻撃を繰り返す。
たまらず俺も原初の聖剣を抜き応戦する。
「こいつ……」
以前よりも格段に力が増している?
「一人だけ強くなったと思うな? 気を抜けばお前とて一瞬で落ちるぞ」
「っ、なんでこんなことするんだ? 戦う必要なんてないだろ? 俺たちは敵じゃない。世界は平和になったんだ」
「だからなんだ? 戦いは支配や憎悪だけで起こるものではないだろう。俺はただ、本気のお前と戦いたい。それだけだ」
「ルシファー……」
これは争いではなく、戦いである。
魔王と勇者、出会えば争い傷つけあう定め。
どちらかが滅ぶまで殺し合う。
だがそれは、少し前までの常識だ。
「ったく、しょうがないな。なまった身体を叩き起こすにはちょうどいい相手だ」
「ふっ、そのままの寝ぼけていてはつまらんな」
俺たちは拳を、刃を交える。
笑いながら。
そこに、明確な意味なんて必要なかった。
【作者からのお知らせ】
いつも本作を読んで頂きありがとうございます!
ついにノベル第一巻が本日に発売されました!
新エピソードもあります。
というか半分くらいは書下ろしですので、ぜひぜひ買って読んでくださいね!!
よろしくお願いします!!