バイト先は魔王城?
お金に困った俺たちは、頼れる仲間のサルカダナスに相談した。
結論。
アルバイトをすることになった。
なぜか俺が……。
「おかしいだろ。なんで俺なんだよ」
「じゃあリリスにやらせる? 無理でしょ?」
「……それは確かに」
「なんじゃとぉー!」
子供みたいにプンプンと怒るリリスを見て、俺はため息をこぼす。
サルの言う通り、こいつにアルバイトは無理そうだ。
まず普通に働く発想がなさそうだし。
「仕方ない。自分の給料は自分で稼ぐしかないか……」
「頼んだぞ! ワシのために!」
「お前もちょっとは何か見つけて働け!」
「痛い痛い痛い! 痛いのじゃ!」
すぐ調子にのるリリスの頭をぐりぐりして、とりあえずストレスを発散する。
子供にやったら虐待だが、こいつはいいだろ。
魔王だしな、一応は。
◇◇◇
俺は魔王城を出るために玄関へ向かっていた。
ちょうどそこで彼女とすれ違う。
「アレン様」
「サラ」
勇者時代から俺の専属メイドをしてくれているサラ。
リリスの城でも変わらず俺の傍にいてくれる。
「どこへ行かれるのですか?」
「ああ、アルバイトしに」
「アルバイト?」
キョトンとするサラに事情を説明した。
「そのようなこと、アレン様がする必要はありません。私が代わりに行きます」
「ダメだ。サラにはこの城の管理を任せてるだろ? 今でも十分に働いてくれているんだ。ありがとな、サラ」
「アレン様……」
彼女は頬を赤らめる。
嬉しそうな笑顔は、見ているとこっちも嬉しくなる。
「平和になって、めっきり戦いもなくなったからな。戦い以外の働き方も考えないといけない。平和と引き換えに勇者は廃業だ」
「そんなことはありません。アレン様はいつまでも、誇り高き勇者です」
「ありがとう。だったら尚更、勇者として働かないとな」
俺はサラに手を振って、玄関から外に出る。
サラは去って行く俺に頭を下げた。
「いってらっしゃいませ、アレン様」
「ああ、ちょっと見てくるよ。魔王たちが悪さをしていないか」
◇◇◇
最初に向かったのは、『怠惰』の魔王ベルフェゴールの領地だ。
「ここも大分復興が進んだなー」
壊れた建物は、王城を中心にして徐々に建て替えられている。
せっせと働く悪魔たち。
手を取り合い、汗を流す様子は、人間の街と変わらない。
そして聞こえてくる愚痴……。
「くそっ、俺たちばかりに働かせて! あのグータラ魔王が!」
「仕方ねーよ。また負けたし」
「くっ……次こそは勝って、あいつに首輪つけて飼い慣らしてやる!」
「相変わらずみたいだな」
文句を口にしながら働く悪魔たちを横目に、俺は魔王が眠る城へと足を運んだ。
変わらずのザル警備。
簡単に外から入れるし、誰も引き留めない。
こんなんで大丈夫かと心配になるが、ここの魔王は意外としっかりしている。
俺が来たことにも気づいている。
気づいた上で、たぶんベッドでくつろいでいるはずだ。
俺は部屋の扉を開けた。
案の定、ベッドでゴロゴロしている姿が目に映る。
「――やっときましたかー」
「久しぶりだな、フィー」
このベッドで無防備に寝転がる子供こそが大罪の魔王の一柱。
一見少女に見えるほど可愛らしい容姿だが、性別は男だ。
「全然遊びにきてくれないから寂しかったですよ。こんなにも待たせるなんて意地悪な兄さんですね」
いろいろあって、俺はフィーに兄さんと呼ばれるようになった。
今では違和感もなくなり、フィーのゆったりした話し方も相まって耳心地がいい。
「待たせて悪かった。近況も兼ねて話そうか」
「そうですね」
俺はベッドに座り、フィーも俺の隣にちょこんと座る。
お互いの近況を話し合い、復興はどこも順調そうで安心する。
そして本題。
アルバイトの件も伝えた。
「なるほどー。だったらボクのお願いを聞いてください」
「なんだ?」
「こうして……こうです」
フィーは俺の膝に頭を乗せた。
その状態で俺の手を取り、自分の頭の上に乗せる。
要するに、膝枕してフィーの頭を撫でればいいのか。
「こんなんでいいのか?」
「はい。幸せですよ」
俺が頭をなでると、フィーは気持ちよさそうな顔をする。
満足しているならよし。
「あんまりのんびりしてると、また部下たちが暴れるぞ? さっきも文句言いながら、お前に首輪つけて飼い慣らしてやるとか言ってたし」
「それは嫌ですね。自由にお昼寝もできないですから」
「心配なのはそこかよ」
フィーらしいな。
「でも、兄さんならいいですよ」
「え?」
「首輪をつけて……ボクのこと飼ってみませんか?」
フィーは瞳をきらめかせ、撫でていた俺の手を握り、自分の頬に触れさせる。
柔らかくて、吸い込まれそうになる。
「……勘弁してくれ。ペットなら一人で十分だ」
「ははっ、それは残念です」
誰がペットじゃ!
と、ここにリリスがいたらそう言っただろうな。
【作者からのお知らせ】
いつも本作を読んで頂きありがとうございます!
いよいよノベル第一巻が5/19に発売されます!
明後日ですよ!
改稿を重ね、新エピソードも書下ろし、より一層面白くなっておりますので、ぜひぜひお手にとってくれると嬉しいです!
よろしくお願いします!!