バイトでもすれば?
復興が進んだこの一年、いろいろなことがあった。
魔王サタンの下に集まり、共に戦った戦友たちも一度はバラバラに散っていった。
そしてもう一度集まり、壊れた魔界を修復した。
今はもう、それぞれの居場所に戻っている。
ただ、中には戻らなかった奴らもいた。
というより、元の鞘に収まった二人だ。
「ネロ」
「あ! おはようっす! アレン兄さん、主様!」
サルの研究室へ向かう道中、偶然ネロに出くわした。
彼女は魔王城の玄関に向かっている。
俺は彼女に尋ねる。
「今からまた見回りか?」
「そうっすよ!」
「毎日よくやってくれているな。無給で」
「うっ……こっちを見ないでほしいのじゃ」
俺のジト目にリリスは目を逸らした。
俺が無給で働いているのと同じように、彼女にも給料は支払われていない。
にも拘らず、彼女は文句ひとつ言わず、毎日城下町を見回っている。
「立派だな、ネロは」
「そんなことないっすよー。ウチにできることはこれくらいっすからね」
戦いは終わり、世界平和になった。
ルシファーたちの協力もあり、生き残った悪魔たちを集めた集落をこの城の近辺に作り上げた。
彼らが去るのに合わせて、自分たちの領地へ戻った悪魔たちもいれば、この地に残っている悪魔もいる。
平和になろうとも、悪魔は気性の荒い種族だ。
小競り合いはどうしても起こる。
ネロは毎日見回って、悪さをする奴らがいないか、問題がないかを見守っている。
彼女のおかげで、大きな問題に発展する前に対処できた事例も少なくない。
「あまり無理しすぎるなよ」
「問題ないっすよ! これも修行の一環っすからね!」
「本当に熱心だな。こっちの上司にも見習ってほしいものだ」
「だ、誰のことかのう……」
「お前以外にいるか!」
「痛い痛い痛い! 痛いのじゃ! 頭をぐりぐりするな!」
しらばっくれるリリスには頭を両手でぐりぐりしてお仕置きだ。
そんな様子を見ていたネロは、小さくクスっと笑う。
「楽しそうっすね」
「どこがじゃ!」
「こっちは全然楽しくないぞ」
「ふふっ、仲良しで羨ましいっすよ」
そう言って彼女はステップを踏み、弾むように魔王城の外へと出ていく。
「行ってくるっす!」
「うむ! 夕飯までには帰って来るのじゃぞ!」
「気をつけてな」
「はいっす!」
俺とリリスは彼女を見送り、見えなくなるまで待つ。
それからサルの下へと歩き出す。
向かう先は地下にある研究施設。
元々彼女が使っていた場所らしく、今もそこで魔導具の研究を続けている。
そして一応、魔王リリスの参加の一人として、経済面も担当してくれているのだが……。
「サル、入るのじゃ」
研究所に入ると、難しそうな本や資料が積み上げられ、研究途中の魔導具はいくつもテーブルに並んでいた。
サルはというと、一番奥で魔導具と睨めっこ中だ。
俺たちのことにも気づいていない。
「おーい、サル! 聞いておるのか?」
「……」
「あれは聞こえてないな。仕方ない、リリス、耳を塞げ」
「了解じゃ」
気づかない時の荒業を使おう。
リリスが両手で耳を塞いだのを確認して、俺は目の前で思いっきり、両手を叩く。
拡散し響く音。
空気の振動は資料や本を揺らす。
「うっるさいなー! なに?」
「やっと気づいたか」
「毎回これやらんと気づかんのか? ぬしは」
「研究中に入ってくるそっちが悪いでしょ。で、アタシに何の用?」
あきらかに不機嫌なサルが不貞腐れながら尋ねてくる。
リリスが答える。
「ワシらは金がないのじゃ! なんとか金を集める方法を教えてくれ」
「そんなの自分たちで考えれば? アタシは関係ない」
「関係大有りじゃ! ぬしもワシの部下じゃろう! 城に残ったんじゃなからな!」
「他に研究設備がなかったから、あと研究対象がここにいるか。それ以外の理由はないよ」
別に部下に戻ったわけじゃないと一蹴する。
サルの言葉に嘘はなく、経理担当とか言ったが、あれもリリスが勝手に任命しただけだ。
一番お金を稼いだりするのが上手そうだからという雑な理由で。
「大体、お金なら貯めてるだろ? アタシの魔導具、売れてるんだから」
「そ、それはそうじゃな……助かっておる」
「じゃあ十分でしょ? 今以上に欲しいなら、もう自分たちでアルバイトでもすれば?」
「ワ、ワシにアルバイトなど無理じゃ!」
「知っている。だからさ、そこの優秀な部下に頼めばいいよ?」
「優秀な……部下」
二人の視線が、俺に向く。
「おい……」
それじゃ本末転倒だろ?
【作者からのお知らせ】
いつも本作を読んで頂きありがとうございます!
さて、いよいよノベル第一巻が5/19に発売されます!
改稿を重ね、新エピソードも書下ろし、より一層面白くなっておりますので、ぜひぜひお手にとってくれると嬉しいです!
よろしくお願いします!!






