意外と好条件かも?
書籍化決定しました!!
ガラクタまみれの地で、せっせと物を運ぶ。
岩を退け、砕けたガラスを掃除して、少しずつ懐かしい床が顔を出す。
「はぁ……疲れたのじゃ」
「休憩してる暇はないぞ? まだ半分も終わってないんだからな」
「うぅ……まぁ特訓よりマシじゃのう」
世界を破壊した戦いから一週間が経過した。
俺たちはリリスの魔王城に戻り、破壊されめちゃくちゃにされた城の掃除をしている。
これが本当に大変で、リリスじゃないが俺も音をあげそうだ。
戦っているほうがずっと楽でいい。
「手が止まっていますよ、アレン様」
「お、悪い。サラは凄いな。文句ひとつ言わずにテキパキと」
「メイドですので、掃除は得意です」
サラがいてくれて本当によかった。
的確に指示を出し、俺たちの倍以上のスピードで瓦礫を片付けている。
掃除なんて、気が向いた時しかしてこなかったけど、今まで彼女に任せっきりだったことが恥ずかしく思える。
もっとも、サラにそれを言ったところでこう言うだろう。
これが私の仕事です。
「はぁ……なんでアタシまで」
「当然じゃないっすか! ウチらは主様の部下っすからね!」
「研究したいんだけど」
「片付けが終わったら存分にすればいいっすよ! ほらほら、手を動かす!」
サルとネロも一緒に魔王城へ帰ってきた。
大規模攻撃で無事だった研究室も、後の襲撃で完全に破壊されている。
フィーのところにも居場所がなくなったサルを俺たちが引っ張り戻した。
ネロはずっと帰りたいと思っていたから、喜んで戻ってきたよ。
他のメンツはというと……。
「アレン様、そういえば今朝レイン様から連絡がございましたよ」
「お、本当か? なんだって?」
「少ないですが王国の跡地で生き残った人々を見つけたそうです」
「そうか! 生きてる人がいてくれたかぁ」
レインとフローレア。
二人の勇者は王国の跡地へ向かい、人間の生き残りがいないか探していた。
どうやら無事に見つけることができたらしい。
「これから王国再建のために動くそうです」
「そうか。再建するなら、あの二人が国王と姫か? 案外しっくりくるな」
「ええ、以前からずっとお似合いのお二人です」
あの二人には人をまとめ、惹きつける魅力もある。
きっといい国になるだろう。
俺も人類の一人として、こっちが落ち着いたら手伝いに行くか。
すると俺とサラが話しているところへ、リリスもやってくる。
「ルシファーたちから連絡はなかったのか?」
「いえ、今のところは」
「そうか」
少しがっかりするリリス。
ルシファーの元には母親のキスキルもいる。
心配なのだろう。
「あいつらなら大丈夫だ」
ルシファーを含む大罪の魔王たちも、自分たちの領地へ戻り生き残りを集めている。
人間より悪魔のほうが頑丈だ。
あれだけの攻撃を受けたとはいえ、必ず生きている者はいる。
一人でも多く助け、集める。
生き残りの捜索が終われば、一度集まって今後の方針を決める会議をする予定だ。
こんな状況だからこそ大罪会議は必要になる。
他の権能が誰に渡ったのか。
再び大罪を集め、今度こそ魔界を統治する。
「どうせすぐに会える。それまでに、城を綺麗にしておこう」
「そうじゃのう」
奇跡的というか、これも運命なのか。
魔界のほとんどが破壊されてしまった中で、唯一リリスの城だけが原型を留めていた。
破壊されてはいたが修繕できる程度だった。
辺境にあったから届かなかったのか。
それとも奴の中にあったサタンの意識が、懐かしき場所を守ろうと避けたのか。
どちらにしろ、今後はここが俺たち全員の拠点になるだろう。
「なんだが不思議じゃのう……みんなここから出て行ってしまって……少し前まで、ワシ一人だけじゃったのに。今度はここに、みんなが集まるんじゃな」
「そうなるな」
ルシファーもベルゼビュートもフィーも、元はこの城にいた。
バラバラになったかつての仲間が、再び城に集結する。
独りぼっちだった悲しい少女はもういない。
目を瞑れば想像できる。
賑やかに、楽しそうに語り合う姿を。
「夢みたいじゃ」
「ちゃんと現実だぞ」
「うむ。これもアレンと出会えたからじゃ。あの出会いがなければ、きっとワシはまだ一人ぼっちじゃった。寂しくて……死んでおったかもしれんのう」
「大袈裟だなぁ」
俺にはわかる。
リリスならきっと、俺がいなくても必死に足掻いたはずだ。
百年……人間なら孤独に心が壊れる時間を、寂しさに耐えながら過ごしていたのだから。
彼女は最初から、強い心を持っていたのだろう。
「そういえば、リリスが俺を招待してくれたんだっけ」
「うむ。スカウトするためにのう」
「今さらだけど凄いことするよな。勇者を裏切らせようなんて」
「だってそれしか方法が見つからんかったのじゃ」
「だからっていきなり呼び出すか? 一応これでも『最強』って呼ばれてたんだぞ」
ぶっ飛んだことをする奴だよ。
でも、そのおかげでリリスと出会えた。
結果的に裏切りにあって、王国に戻れなくなったからとは言え……。
「あの時の選択に間違いはなかった。お前の誘いに乗って正解だったよ」
「じゃろ? ワシはよい上司じゃ」
「よく言うな。あの時に指定した条件、ほぼ全部満たされてないけど? いつになったら守ってくれるんだ?」
「そ、それは……もう少し待ってほしいのじゃ」
自身なさげに目を逸らす。
パワハラに限界を迎えていた俺は、彼女の提示した条件を飲んでリリスの元についた。
あの頃の俺は、ただ快適に仕事ができて、休みがあって、無茶な命令がされなかればよかった。
よくよく思い返すと、王国時代とリリスの元に来てからって、そこまで状況は変わっていない。
休みはないし、仕事は多いし、無茶苦茶な内容ばかり。
それでも不思議と、満足していた。
充実していたんだ。
ここでの暮らしが……。
「楽しかった。心から」
「何を終ったようなこと言っておるのじゃ。これから先は長いぞ?」
「……そうだな。長いな」
俺は一体、何歳まで生きられるだろうか。
わからないけど、終わりの瞬間が訪れるまで精一杯生きよう。
今を楽しみ続けよう。
幸いなことに、俺の人生は充実している。
一人の幼い魔王と出会って。
「これからも頑張ってもらうからのう?」
「そっちもな。立派な魔王になれ。じゃないと俺が楽をできない」
好待遇にはまだ届きそうにない。
それでもいい。
ここが俺の居場所だから。
これから勇者になる未来の誰かへ。
もし機会があれば、魔王の勧誘を聞いてみるといい。
意外と、好条件かもしれないぞ?