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【WEB版】パワハラ限界勇者、魔王軍から好待遇でスカウトされる ~勇者ランキング1位なのに手取りがゴミ過ぎて生活できません~【第一巻5/19発売】  作者: 日之影ソラ
『魔王のスカウト』編

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親子の別れ

 神の数だけ聖剣は存在する。

 現代においても、神の数など知られていない。

 下界の命は、天界に足を踏み入れることが許されていないから。

 だが、この聖剣の整列が物語る。

 この世に存在する神の数を。


「これは……」

「お前ならわかるはず。このすべてが聖剣であることが……どれ一つ、同じものはないことが」


 数にして七千本。

 異なる聖剣が俺たちを囲む。

 幻影ではない、作り物でもない。

 全てが本物で、全てが俺の支配下にある。


「イブを解放したことで、俺は過去未来全ての時間軸に存在する聖剣を呼び出せる。現時点で所有者が不在のものに限り、俺の支配下で操れる」

「馬鹿な。全ての聖剣を操るなど……それではまるで――」

「神、か?」


 俺の言葉に衝撃を受けたように、サタンは険しい表情を向ける。

 まさに神のような力。

 その表現に間違いはない。

 神意解放とは神の力の顕現だ。

 今の俺は、生命の母イブの依代になっている。


「……ふ、ふふ、そうか。神もイブから生まれた……ならばイブこそ、神の原点。余が最も憎むべき相手……」


 サタンは狂気に満ちた表情で奮い立つ。

 漆黒のエネルギーが噴水のように湧きだし、周囲を破壊していく。


「喜ばしいことだ! この場で神の意志を砕けるのだから!」


 サタンは黒劉を凝縮し、再び無数の黒い剣を生成する。

 俺が召喚した聖剣の数に対抗して、今度は視界を埋めるほどの本数を生成していた。

 それを一斉に放つ。

 剣の雨というより、滝に近いだろう。

 無論、一振りで弾けるような数と威力ではない。

 だが今の俺には、届かない。


 迫りくる漆黒の剣を、召喚した無数の聖剣で相殺する。

 俺も一斉に操り、剣が届く前に撃ち落とす。


「無駄だ。所詮作りものじゃ、本物の聖剣には勝てない」

「決めつけるな! 余に一度敗れた分際で!」

「負けたからわかる。見えてくるものがある。お前は偽者だ。サタンでもなければ、魔王ですらない。奴らが残したただの……怨念だ」


 力と意識の寄せ集め。

 そこに自我と呼べるものは本来存在せず、交じり合った意識が言葉を放ち、行動を起こしている。

 一貫性などあるはずがない。

 奴に個はなく、破壊衝動に従っているだけなのだから。

 俺にはもう、奴が恐ろしい敵には見えない。

 ただの、悲しい怪物だ。

 聖剣が、サタンが作った漆黒の剣を全て撃ち落とした。


「もう、終わりにしよう」


 サタンは言っていた。

 原初の聖剣ならば、強大な力を持つ魔王を完全に倒すことができる。

 本来であれば輪廻の輪に戻れない彼らを、正しき流れに戻すこともできる。

 彼らの本音はわからない。

 声が聞こえるわけじゃない。

 それでも、苦しんでいるはずだ。

 意志が混ざり合い、自分であって自分でない者となり果て、破壊衝動しか信じるものがない。

 魔王としての信念も、目的も失っている。

 俺は勇者として、哀れな魂を解放する義務がある。


 無数の聖剣が原初の聖剣に集まっていく。

 一振り一振りが光の粒子となり、イブに吸収されていく。

 サタンは駄々をこねる子供のように、俺に向けて攻撃を続けた。

 しかし届かない。

 集まる聖剣の光に阻害され、漆黒の力は俺に届くことなく消滅する。


「なぜだなぜだなぜだ! 余が負けるというのか? なぜ!」

「――決まってる」


 七千本の聖剣が一つに合わさる。

 今から放たれる一振りに抗える者など存在しない。

 最強にして最高の一撃を、上段に構えて。


「俺が最強の――勇者だからだ」


 振り下ろす。

 勇者とは悪しき魔王を打ち滅ぼす者。

 その一振りは距離も時間も飛び越えて、斬撃はサタンに届く。

 防御の概念をも突破する一撃に、偽りの魔剣は砕け散る。

 斬られたサタンの身体から、大量の血と力があふれ出ていく。

 勢いよく飛び出したのはおそらく、取り込んでいた大罪の権能だろう。

 次なる相応しい相手の元へ行ったか。

 果たして、次は誰の手に渡るだろうか。

 仰向けに倒れたサタンに、俺はゆっくりと歩み寄る。

 今の尚、力があふれ出ている。

 一体化していた異なる魂たちが解放されている。

 おそらく最後まで残るのは、もっとも大きく強いあの男の魂だろう。


「アレン!」

「――! リリス?」


 突然後ろからリリスの声がして、急いで振り返る。

 彼女は俺の元へと走っていた。

 ペンダントの効果は消え、幼い姿で必死に。


「どうしてここ?」

「ルシファーが言ったんじゃ。お前は行くべきじゃと」

「あいつ……」


 こうなることを予想していたのか?

 悔しいけど、ナイスなタイミングだよ。


「ふっ」

「勝ったんじゃな?」

「ああ、戦いは終わったよ」

「……アレン!」


 リリスは勢いよく俺に抱き着いてくる。


「よかったのじゃ。本当に……」

「心配かけて悪かったな」


 俺の胸の中で涙するリリス。

 彼女の頭を優しく撫でてあげる。


「次にいなくなればクビじゃからな」

「ははっ、それは困るな」


 俺は笑いながら聖剣を地面に刺し、倒れているサタンに目を向ける。

 もはやほとんど力は感じない。

 だが、まだ残っているはずだ。


「……お父様……」

「……リリス」

「――!」


 名を呼ばれ、葛藤する彼女の背中を押す。


「大丈夫、今ここにあるのはお前の父親だけだ」

「え……? どういう……ことじゃ?」

「集まっていた魔王の魂が消えて行ってる。最後に残るのは、一番強い魂。つまりは大魔王サタンだ」


 難しい話でよくわからないだろう。

 それでも、彼女は俺の言葉を真剣に聞き、信じてくれた。

 理屈は理解できなくとも、ここにいるのが自らの父であると。


「お父様!」

「……大きく、なったなぁ……」

「ぅう……うむ」


 リリスはサタンの隣で膝をつく。

 かつての父親の顔を見せたサタンは、リリスの顔を見て微笑む。


「強く……なるんだぞ? 長生き……してくれ」

「うむ。するのじゃ、絶対……お父様はしばらく、のんびり休んでいるとよいのじゃ」

「ああ……そうするよ」


 サタンは僅かに首を動かし、視線を俺に向ける。

 今まで感じていた敵意は完全に消えていた。

 娘を見る眼と同じように、サタンは俺と視線を合わせて言う。


「娘を……頼む」

「ああ、任せてくれ」

「……ありが、とう」


 大魔王から勇者へ、感謝の言葉が響く。

 そのままサタンの身体は光を放ち、泡のように消えて行く。

 これで世に留まることはない。 

 いつかまた、別の誰かになって生きるだろう。

 願わくばその時は、俺たちも違った形で出会えたらいいな。

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