第1章 フィン・ハーパー 9
それから何度かブルーノは討伐に参加したが、なかなか認めてもらえるところまでにはいけないみたいだった。僕は、相変わらず掃除をしながら体を鍛えていたんだけど、ある日、討伐がないというので、ブルーノに剣の相手をしてほしいと頼んでみた。
「僕は、ちゃんと教えてもらったことがないから、どうやったらいいか分からないんだ。だけど、ちょっとでも役に立ちたい。」
「仕方ないな。朝飯を食べたら鍛錬場に行くぞ」
「うん!ありがとう」
実際、鍛錬場で剣を持たせてもらったら、思った以上に重くて身体が振り回される。ほんとにこんな重い物を振り回しているの? 毎日の掃除で鍛錬しているつもりだったから、ちょっとショックだった。剣の持ち方、振りかざし方、身のこなしなどを、討伐のない日を選んで、ちょっとずつ教えてもらって、形だけは戦えるようになった。
「よお、お前たち、がんばってるじゃないか。一度、おじさんと手合わせしてくれないか?二人対一人でいいぜ」
「ええ。これでも俺は討伐隊に参加してるんだぜ?」
「だけど、こっちの坊主は素人だろ? お前が助けながらになるからきついんじゃないか?」
おじさんはにやっと笑っていた。だけど、討伐隊に参加する人じゃないから、一般の人だろうか。
「仕方ないなぁ。 フィン、足手まといになるんじゃないぞ」
「うん、分かった」
僕は重い剣を握り締めて体制を整えた。
「行くぞ!」
気が付いたときには、ブルーノが突っ込んでいた。え、うそ。どう戦うかも分からないのに。案の定、おじさんにかわされて転がっている。
「なんだ? 威勢がいいのは最初だけか?」
「チクショー」
じわっと立ち上がって、再び突っ込んでいく。僕はハラハラしながら傍観者のように見ているだけだ。どうすればいいんだろう。
「突っ込んでくるだけが能じゃないだろ?」
おじさんは、すっかりブルーノに集中している。僕はおじさんの背中側にいるのに。
「ちくしょー!」
ブルーノが叫ぶのに合わせて僕は思い切って一歩踏み出した。
「えーい!」
「うわ、いてて」
「勝負あったな。ブルーノ、フィンチームの勝ちだ」
いつの間に来ていたのか、リーダーさんが声を上げた。おじさんは、呆気にとられていたが、頭を掻いて笑っている。
「ははは、参ったなぁ。こりゃ確かに、坊主たちの勝ちだ」
「やったー!」
「おい、こんなことで喜ぶなよ。2対1じゃ、こっちに有利過ぎる」
ブルーノはちょっと不満気だったけど、勝ちは勝ちだよね。だけど、少し教えてもらっただけで、剣の持ち方、動かし方が大分わかるようになった。それに、こうやって実戦で練習した方が、仲間の動きに合わせて戦えるから、分かり易い。また、実戦してみたいなぁ。
「おまえ、また試合してほしいって思ってるんだろう。じゃあ、俺と勝負して、一回でも勝てたら、他の人とも試合すればいい。このセンターの中では、俺が一番若い騎士だからな」
「うん、分かった!」
そんなことがあってから、僕はブルーノに教えてもらいながら、剣の腕を磨いていた。毎日同じことの繰り返しだったけど、そのどれもが、自分を鍛えるための鍛錬だからがんばれた。
そして、9歳になったある日、フロアの掃除をしていたら、カウンターと壁の隙間に錆びた剣が刺さっているのに気が付いた。リーダーさんに調べてもらったけど、誰の物か分からない。
「じゃあ、僕が剣の練習をするときに使ってもいい?」
「ああ、だれも所有者がいないんなら、使えばいい。どうせここまで錆びちまったら、使い物にはならないだろう」
掃除を終えた僕は、さっそくその剣を持って構えてみる。ずっしりと重みがあって、剣の練習には申し分ない。ブルーノが討伐に出かけた日は、鍛錬場で素振りを繰り返した。初めは重くてふらふらしていたけど、だんだん重さに慣れて、自由に動かせるようになってきた。
ある日、練習中に、塀に剣を打ち付けてしまった時、気が付いた。剣の錆びが少しだけ削れて、きれいな銀色の輝きが見えていることに。
そう言えば昔、父上が錆落としをしていたことがあった。あのやり方なら、剣をよみがえらせることが出来るんじゃないだろうか?センターの奥にある作業場に行くと、使いかけて捨てられた紙やすりがたくさん落ちている。掃除の度に捨てていたけど、それを有効活用させてもらおう。
それからの僕の一日は、掃除、鍛錬、錆落としの繰り返しになった。ブルーノやレオナールさんには、あきれられていたけど、やっているうちに剣にも愛着がわいてきた。きっと元の姿に蘇らせてあげるからね!