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UNLIMITED  作者: しんた☆
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第1章 フィン・ハーパー 3

それから2年あまりの間。父は遠征には行かず、付きっ切りでフィンに召喚士としての知識と心構えを叩き込んだ。早朝の掃除にはじまり、筋トレ、召喚士としての座学に実践。幼い少年には厳しすぎると、ショーンやアンナがハラハラすることもあったが、フィンはあきらめなかった。


 傷だらけになって、気を失う様に眠った次の朝には、必ずアンナの特製シュガートーストが朝食に出た。砂糖の焦げた香ばしい香りとザクっという歯ざわりが最高だ。


「父上、いつか一緒に魔獣の討伐に行ってみたいです。」

「そうだな。もう少し体力がついて私の持つ一番大きなソードを自由に操れるようになったら、連れて行こう」

「ありがとうございます!」


 破顔する息子の頭に大きな手を乗せて、ギルバートはゆっくり頷いた。


「先は長いぞ。ゆっくり大きくなれ。今日の鍛錬のメニューを続けておけよ。私はそろそろ討伐チームに復帰する予定なんだ」

「父上、一度、父上が戦っているところを見たいです!」

「こらこら、遊びじゃないんだぞ。」


~~~~~~~~~~


 厳しかったけれど、朗らかで愛情もたっぷり注いでもらった。 父上が亡くなったなんて、今でも信じられない。討伐に出かける前、父上はいつも召喚した精霊と語り合ったりしていた。


「討伐するべき魔獣と戦うためには、精霊との信頼関係が何より大切なんだ。」


父上はいつもそんな風に語っていた。だから、あの悲しい知らせが来た時も、僕はクルンと遊んでいたんだ。シンライカンケイって、ぴんと来ないけど、クリンは大切な友達だし、クルンも大好きでいてくれるのが分かるから。


 父上の訃報は本当に青天の霹靂だった。ショックで茫然としていたら、今まで一度も家に戻って来なかった母上を名乗る女の人が、やってきたんだ。父上の死を聞いてとても取り乱していた。僕はそんなあの人に、なんて声を掛けたらいいのか分からなかった。


 僕を産んですぐに王都ヘイリーンの大聖堂に戻ってしまったあの人には、大きくなった僕は、見ず知らずの赤の他人。悲劇のヒロインのように、涙を流しながらはかなげな様子で家に入ってきたけど、中に入った途端、はあっと盛大なため息をついて、一つ一つ部屋を改めて見てまわったんだ。

 僕は、父上に了解をもらって召喚していた風と水の精霊に事情を話しているところだった。精霊たちは口々に僕を慰め、元気を出す様に慰めてくれた。だけど、それがあの人には気に入らなかったようだ。


「ギルバートが亡くなったというのに、何がそんなに楽しいの? ひどい子ね!そんなに召喚がしたいなら、知り合いの討伐チームに連絡してあげるわ。アンナ、すぐに荷物の用意を」


 ショーンによると、葬儀の後、あの人は金目の物を集めると、さっさと大聖堂に帰っていったんだそうだ。アンナとショーンからは、いつでも帰ってきてほしいと言ってもらったけど、あの人と手を組んでいるこの御者は、僕を馬車に乗せると、さっさと馬を走らせたんだ。



「坊主、お前は今日からここで下働きだ。せいぜいがんばりな」


 僕を放り出す様にして馬車から降ろすと、御者はさっさと元来た道を帰っていった。僕は馬車を見送ると、振り返って茫然とした。目の前にあるのは、討伐支援センターと書かれた施設だ。そういえば、父上からそんな施設があると聞いたことがあった。討伐の期間、そこで寝泊まりしているんだと。

僕を乗せていた馬車は、もう見えなくなっていた。前に進むしかないんだ。僕は覚悟を決めて、その中に入っていった。センターの中は、荒れ放題で、今も怖そうなおじさんがいっぱいいる。

 僕は、受付まで行くと名前と母上が書いた推薦書を差し出した。


「あら、まだ小さいのに。家庭の事情かしら。そっちのイスに座ってちょっと待ってね」


 受付のお姉さんは、ちらっと僕を見て、すぐに奥の控室にいる討伐チームのリーダーさんを呼びに行ってくれた。 僕は、言われた通り壁際のスツールに腰かけようとして、床に転がった。


「ああ、悪いなぁ。俺が座ってたイスだったんだ。」

「よぉ、ちっこいの。お前、何しに来たんだ。父ちゃんを探しに来たのかい?わははは」


 悪びれる様子もなく、男たちが笑っている。父上は、こんな連中と一緒に働いていたのか。連れてこられたのは自分の意志じゃない。とりあえず、チームリーダーさんに会ってみるしかないか。

 壁際に立って待っていると、受付のお姉さんが、リーダーさんを連れて戻ってきた。


「おい、こんな小さな子供になにができるんだよ。無茶言うなよ」

「だって、聖女様からの推薦状付きよ。聖女様がバックについてるなら、入れといてもいいんじゃない?」

「マジかよ。お前、名前は? 歳は?」


 受付のお姉さんと相談していたリーダーさんは、しゃがみ込んで聞いてきた。


「僕はフィン・ハーパー、5歳です」

「ハーパー?! すげえ、いい名前じゃないか。伝説の召喚士ギルバート・ハーパーを知ってるか?知らないだろうなぁ。」

「お前たち、うるさいぞ。明日の討伐に参加するものは部屋に戻れ!」


 こいつら、父上を知ってるのか。だけど、素直に息子ですなんて、言いたくない。唇をかみしめていると、リーダーさんが淡々と説明する。


「フィン。ここの討伐チームに参加できるのは、10歳からだ。悪いがしばらくは雑用係になってもらう。…」


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