表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
新約西遊記(仮)  作者: ペンネーム(仮)〜点鼻薬〜
1/1

〜銃と魔法と剣〜

メモ

目に映る全てが燃えている。


いつか訪れた人々の家や、牧場の家畜、木々や路上の花々。

少女が窓ガラス越しにいつも見ていた景色は、まるでそこにあったものが夢幻のように、その一切を真紅の焔に塗り潰されている。


「魔女を逃すな。落とし子を許すな。不浄な”それ”と関わったもの全てを燃やし、壊し尽くせ!」


外から断罪の声が聞こえる。自らの正義を信じきったものが発する鋼の剣のような声が、逃げ惑う人々の悲鳴や矯声を貫き、少女の耳に突き刺さる。


これは魔女狩りと呼ばれる、魔女とか変わった村を焼き討ちするこの国の正義の一つの形。

しかし、その不条理な刃も、感情が極端に薄い少女には喧騒を構成する音に過ぎず、その白黒の世界を彩る音にはなり得ない。そんな窓からの光景に無感動に背を向けようとした、その時。


「見つけたわ! スピカ こんなところにいたのね!」


星の名を冠する少女に声をかけたのは、外の焔のように、とても美しい赤い髪をした女性。


「微動だにしないから、人形か何かと思ったじゃない。早く屋敷から抜け出し、逃げるわよ、執行官の奴らがクルにも時間の問題だしねっ」


声をかけると同時に、女性は無抵抗のスピカを抱え上げ、駆け出す。


火の手が及び、崩れかけている屋敷の廊下は、崩れた瓦礫や家具、火の手により、障害物競争の体をなしているが、その女性のまるで重力を感じさせない走りで、それらをかわし、疾走する。

曲がり角でも落ちない速度はまるで舞踊で、瞬く間に屋敷の入り口にたどり着くと、その速度のまま、彼女は扉を蹴飛ばし、外に飛び出した。


「残念〜♪」


が、しかし、扉の先には、先ほど女性が執行官と呼んでいた、魔女殺しを生業とする処刑人に囲まれていた。


「やっと見つけたよ〜オーケンハイム♪。あなたが姿を消して以降、その消息を教会全体が血眼になって探したものだけど、まさかこんな東の最果てで隠居していたとはねぇ〜」


執行官のほとんどがフードで顔を隠す中、一人だけ顔を曝け出す、腰に刀をさした、白いツインテールの女性が、あざけるような口調で語りかける。


「雪のような白髪に腰に刺す日輪刀、あなたが枢機卿シュピーゲルね。随分有名なようじゃない。主に悪名の方でね。全く、いくら私が容姿端麗、完全無欠のパーフェクト美女だからって、こんな東の最果ての村までおかっけてくるなんて。ファンを通り越してストーカーっていうのよ、そういうのは」


「何をいうんですか〜”赤の魔法使い”、100年戦争を終結させた英雄様ぁ〜。あなたのためなら、僕ちゃんはたとえ地獄の果てだろうと、この足を運ぶつもりですよ〜。その忌々しい赤髪を切り裂き、至高の輝きを誇るサファイヤブルーの瞳を指し貫くためにならね」


と語り終わる時にはシュピーゲルと名乗る女性は、軽やかに、瞬く間に魔女の眼前に迫り、いつの間にか腰から抜いた日輪刀を振り抜く。


「っと、あぶなぁ」


と言いつつ、魔女もその動きを見切っていたように、眼前に迫る日輪刀をバックステップを刻むことで危なげもなくかわし、後退。距離を確保し、先ほどより、一足以上の間合いを確保、抱えていた少女をおろし、後ろに下がらせる。


「奇襲失敗かぁ〜」


「ったく、段取りが悪いったらありゃしない。会話の途中で人を襲っちゃいけないって、義務教育で教わらなかった?ぶっちゃけ、見た目だけならアイドルやってもいいくらいなのに、物騒すぎるのよ」


「う〜んアイドルかぁ〜。でも僕ちゃん人を切ることしか興味ないしなぁ〜。あ、そうだ!!、握手会ってやつで、くる人全員の手首より先を切っていいなら、やってもいいよ! どうどう!?」


「いいわけないやろ!! 全く見た目と言動がここまで一致していないといっそ清々しいわね(怒)。

全く、これは、魔女審判にかかった村人全員の首から先を切り落としたって言う逸話は本当のようね。

ねぇ、あなたはどうして枢機卿なんてやっているの?」


「うん?今の文脈でわかり切ったことじゃないの?僕ちゃんはね。切りたい時に人を切るの。でも正義のない刃に世界は寛容じゃない。追われる立場になると、切りたい時に切れないこともあるかもしれないからね。要は趣味と実益を兼ねた職業ってわけ♪」


「ったく狂気と合理性が見事に共存してやがる。ほんっと枢機卿ってやばい奴しかいないわね。あんたの組織の人事部、頭おかしいんじゃない?」


「僕ちゃんにアイドル勧誘した、君よりマシだよっっ」


再度の抜刀と跳躍、一度目の跳躍より一足分長い距離を詰めるが、それは間合いの外。しかし、先と違うのは白き日輪刀に輝きが集中していること。これは魔力と呼ばれる、超常の現象を引き起こす燃料。シュピーゲルと呼ばれる女は暗い紫紺に星屑の鏤められたような美しいそれを刀にまとい、先よりも数倍早い速度で剣を振り抜く。


「やばっ」


「ぜっころ剣術 壱の型 黒炎」


振り抜いたその刀の軌道から生じる、紫紺の炎の衝撃波が、刀と魔女の距離をゼロにする。その並の使い手なら確実にかわしきれない射程外からの一撃を、しかし、青い瞳の魔女はこれも間一髪でかわしきる。

対し、刀の少女もあらかじめかわされることを予測したように、更なる追撃。一刀目で踏み込んだ足を軸足に振り抜いた刀の返し刀で、更なる衝撃波を形成、魔女に叩き込むも、魔女はそれを上回る炎の衝撃波を即座に作り出し、相殺する。


「さすが”赤”、魔力の錬成速度は当代一と言う噂は本当みたいだね♪ しかし、なんかおっかしいなぁ。

今の攻撃ならわざわざ相殺せずとも、かわせばよかったはず。魔力が暴発する可能性も考えたら、かわす選択肢が君にとって最善だった。でも、かわさなかった理由は、きっとその後ろの少女を守るためかな?でも、そう、おかしいのはさ、紛いなりにも僕ちゃんとの命のやりとりの最中、互いの選択肢を削り合う一瞬の刹那に、君がその選択肢を選びとる速度が異常だったんだよ。

 ねぇ仮にも博愛主義者でもない君が、自分と他人の命を天秤にもかけず、真っ先にリスクをとり、他人を庇うなんてことがあるのかぁ?

 う〜ん、ねぇ君何でこんな最果てにいるの?その少女は何?」


「何もこうにも、ただの私の可愛いペットちゃんよ。それに私にとって、あんな魔術朝飯前、暴発なんてするわけないじゃない。私にとってはかわすも相殺するも同じく簡単。なら、可愛いペットちゃんを守るのが当然でしょ」


蒼き瞳の魔女の額に汗が落ちる。彼女の言葉は事実。息をするようの魔術を行使できる当代最高峰の魔女の彼女にとって、相殺するもかわすも同じく容易な行動である。しかし同時に、このスピカと呼ばれる少女に秘密があることも事実であった。魔女狩りを使命とする、目の前の彼女たちには決して知られてはならない事実が。


「ペットなら他にもいるよね。それを見捨ててまで、何でその少女を運んできたかってことを聞いてるんだけどねぇ〜。う〜〜〜〜〜〜ん。よし!!考えるのはやめた君もその子もきり刻んでしまえばみんな同じ死体!で、僕ちゃんが連れてきた処刑人もみんな殺せば、告げ口する奴もいない! 僕ちゃんは君の首を持ち帰って、見事仕事を達成してきましたって伝えて、みんなハッピー!!これでいこう!!」


「そのみんなにあなたに殺された私たちは入っていないようね。聞くまでもないけど。」


「当たり前じゃん。死人には幸せを感じる機能はないんだよ。義務教育で習わなかったのかな!!」


「其は流動を司る風。 あるべきところにあるべきものを運び、世界を運営する眼。 呼び出すは馬。 誰よりも早く疾走し主の命運を握るもの 目指すべきは西 運び屋の町 運命の導き手が存する場所。」


刀の少女が再び疾走する前、魔女は二人の間に、大きな炎の壁を現出。同時に詠唱し、緑の風で編まれた馬を呼び出す。


「スピカ この手紙を持って、馬に乗りなさい!そして決して手綱を離さないこと。そうすれば、あなたを救う導き手にきっと出会えるはずだから」


そういって、魔女は一枚の紙を渡す。しかし少女は動かない。生きながらえることに意味を感じていない少女は自ら能動的な行動を起こせない。


「お願いよ、スピカ手綱を握りなさい。あなたが過去、酷い目にあって感情を閉ざしてしまったこともわかる。わかるなんておこがましいかもしれない。同じ魔女だからこそ、人が異物にたいしどれだけ残酷になれるか知っている。でも、その上であえていうから聞きなさい。」


「生きて、生きて、生き抜き抜くの!今は嵐の中にいて、周りがよく見えず気づけないかもしれない。でもこの世界には美しいものがたくさんあるんだって、そう思えるまで生き続けなさい! 燃え盛る焔のように、限られた生を明一杯味わい尽くしなさい! きっと死の間際、死ねることに感謝する一生になるかもしれない。走馬灯にろくな思い出がないなんてこともあるかもしれない。でも生きて! 死ぬくらいしかやることがないなら、生きて!

あなたが今何も望めないから、代わりに私のこの思いを遂げて頂戴。


お願いよ、愛する私の星」


そういって魔女は少女に手綱をわたす。少女には魔女が何を言っているのかわからない。しかしその口上と笑顔が燃え盛る炎のように美しかったから、少女は渡された希望を手に取る。


「さぁ風よ吹きさり、星を運んで! 運命が導くその相手まで!」


少女をのせた馬が駆け出す、それと同時に炎の壁を闇が切り裂く


「お願い”予言の子” 私たちの希望。 どうか健やかに生きて頂戴。」


これが物語の始まり。一人の少女と少年が出会い。世界を変えていくまでの物語である。

















メモ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ