大いなる旅立ち。10
私は秀郷様に連れられて、京の都を回っていた。
『何も思い出せないや……。』
お寺の境内に寄りかかって溜息をついた。
『アヤメ殿、やはり記憶は戻らぬか??』
『は、はい。』
『そうか……。』
『でもやっぱり、記憶なんて戻らなくて良い。
私はのんびりと、将門様達と下総の国で穏やかに暮らせれば良い。』
『だが、本当の其方が戻るやも知れぬぞ??』
『でも……。
そうなったら、二度と後戻り出来ない気がして。』
私はこのままで良い。
この都に来てから良く分かった。
全てを取り戻すよりも、将門様や五月といつまでも一緒に居たい。
何か、全てが二度と戻らない様な気がして……。
『そうか、ではそろそろ将門殿も帰った来る頃だ。
今日はそろそろ戻ろう……。』
その時、私は何か得体の知れない気配を感じた。
『どうした??』
『ひ、秀郷様! 太刀を抜いて!!』
『な、なんだ!?』
『上よ!!』
お寺の欄干には、あの瀬田の大橋で退治した筈の大ムカデが這う様に現れた!
『ま、また出たかっ!!』
大ムカデは私達に猶予を与えずに攻撃を仕掛けて来た。
『くそ!! だがしかしお前の弱点はしっておるわっ!』
秀郷様は、太刀を舐めて斬りかかろうとする。
だが、大ムカデは尻尾で秀郷様ごと太刀を振り払った。
『ぐ、ぐうう……。』
『秀郷様っ!!』
大ムカデは、とどめを刺すべく、ゆっくりと此方へとやって来る。
『だ、だから儂は大ムカデの退治など嫌だったのだ!
恨むなら、院を恨めぇ!!』
『秀郷様、何をっ!?』
『儂にはもともと武勇など無いわっ!!
瀬田の大橋の時も、恥をかかぬ様に格好付けてたまでだ!
ああ! こんな事なら、安請け合いなどするもんでは無かったわぁ!!』
『でも、今それを言った所でムカデには分かりませんよ!?』
『わ、分かっておるわっ!!』
まるで私達のたじろぐ姿を楽しむ様に、大ムカデはじわじわと私達の方へと向かって来た。
逃げ様にも、秀郷様は受けた痛みで起き上がれなかった。
『仕方ないっ!!
儂はこれまでだ!! 早く逃げろっ!
もののけに喰われるのと、首を撥ねられるのはどっちが痛いかな?
どっちも嫌だがな……。』
『で、出来ないよ!!』
『早くしろ!!
儂だって嫌だよ!!
こんな所で死にたく無いわ!!』
秀郷様を見殺しになんて出来ない!!
でも、どうすれば。
眼をやると、そこには秀郷様の太刀が落ちていた。
私は、秀郷様を守りたい!!
私は、無意識に太刀を取った。
『や、止めよ!
早く逃げるのだ!!』
『嫌だっ! 私は秀郷様を守りたい!!』
その時だった。
私の全身が光輝く。
『こ、これは!?』
秀郷様が驚愕するのを他所目に、私は有り得ない程の高さを跳躍した。
『はあぁぁぁぁ!!』
私の一太刀で大ムカデは真っ二つに切り裂かれた。