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第八話


 一応は通れる形に整備された土の上を走り去っていく馬車。


 周りは森……なのだが、聳え立つ木々の大きさは、そこら辺で見る木々の五倍近くもありそうなくらい。葉の大きさも数も比例している為、昼でも太陽の光はかなり遮断されている。間隔の長さも比例していた。


 因みにこの一帯は天然林で、事情がない限り立ち入ることすら禁止されているのだとか。


「なんで馬車なの」

 

「不満か?」


「その子達と合流するまでは転移すればいいじゃない」


「こういうのは入りが重要なんじゃ。空気を壊すようなことを言うではない」









「研修?」


「そうじゃ。ある駆け出し冒険者パーティーの付き添い兼研修を行って欲しくてな」


「何で新人のお()りなんかしなきゃらないの? そこは危険な魔物の討伐とかでしょ」


 バリシアは広大な国土のせいで魔物の処理が追い付かない、魔物問題に見舞われている。


 単純にお()りなんかしたくないという思いもアイシャにはあるが、アイシャより実力が下の冒険者でも今回の内容は務まる筈だ。このような疑問を持つのは普通のことだろう。


「お主の言っていることは間違っていない。ただ今回はその新人というのが問題でな」


 メーパが手を上げるとポンッと一本の短杖が現れる。その短杖を持ち、目の前の何もない空間に文字を書き始めた。


「何しているの? 呪文?」


「まあそんなもんじゃ……っと。これはもういらんな」


 無慈悲に短杖は投げ捨てられる。


「見ておれ!」と幼女が昂揚しながら両手を合わせると、突如短杖でなぞっていた部分が光り、文字が現れた。 


 文字は光を強めながら中心に収束していき、全ての文字が重なると、


「バリシアのトップは国王じゃが、国王は国の支配であって国土は臣下達が分割して統治をおこなっている。ノースを除いた二国も枠組みは同じじゃ」


「ふーん……再現術式ってところ?」


 アイシャの予想に対しメーパは何も反応を起こさない。


 「図星ね」と、言いたい所だが、この見た目だけ老人がそんなに分かりやすい訳がない。良いモノを見たと感謝しながら、アイシャは本題の催促をした。


「国土の一部の支配を行っている臣下のことをバリシアでは酋長(しゅうちょう)と呼ぶ。昔の名残が今でも使われているのじゃ」


「……エンテでいう所の五大公爵家って感じかしら?」


 バリシアの隣国の一つ、エンテ。西と南の一部を支配している大国で、貴族制度が根強い国だ。


「そうじゃな。何じゃお主、エンテの出身か?」


「そう。エンテの中のクレヴネール公爵家が治める、クレヴネール領の生まれよ」


「クレヴネールと言えば、最近当主が変わったと聞いたが。前当主が病気で亡くなり、まだ若い長男が治めているのじゃろう?」


「……さあ?」


 茶化しているのか馬鹿にしているのか。幼女はわざとらしく椅子に座りながら転ぶふりをした。


「さあって何じゃ」


「私がクレヴネール領を離れた時後の話は知らないわよ。それよりもさっさと新人の正体を言いなさい」


 言っていることが本当はどうかは流石のメーパでも分からなかった。しかし意図的に避けようとしているのは目に見えて分かった。


 追及しながら「お主にも可愛い所あるんじゃな」と煽る選択肢も上がったが、これ以上閑話を挟むのは良くないと幼女は素直に従う事にする。


「あってからのお楽しみじゃ……と言いたいのじゃが……」


 一度視線を外してからアイシャの目を見つめ直すメーパ。


「……十人からなる酋長の内の二人。オドリエルの息子と、ギルの娘が今回の護衛兼研修の対象じゃ。それぞれの父親が二人共わしの弟子でのう、バリシア国家指定魔法使いとしての側面よりも、師匠という個人的な立場から二人の手助けをしてやりたくてな」


 今までとは違って何処か遠くを見つめているようだった。幼女は気持ちを整理する為咳ばらいをする。


「実を言うとわし、冒険者に大した興味ないし。今回の介入だって弟子から話を聞いて巻き込め……適当な者が見つかったと思ったからじゃったし」


「そこで言い切らないから貴方は余計にタチが悪いのよ」


 下手な口笛を吹いて誤魔化そうとするメーパ。誤魔化しきれないと判断したのか、転移魔法を急に発動し始めた。


「ち、因みにわしも参加する。流石にお主一人に任せられんからのう。だから新人冒険者のふりをして参加させてもらうわい」


「……意味が分からないのだけと?」


「十五歳の若々しい少女という設定でやるからのう」











「だからと言って、見た目が完全別人になるのは何なの?」


 馬車の中には二人の少女がいる。一人は銀髪の少女、アイシャだったが、もう一人はアイシャより少し若そうに見える金色の短髪を携えて、斥候のような野外用の軽装を身に着けた少女だった。


「外見なんて所詮付属品じゃ」


「口調も変えなさいよ」


「人間同じことを繰り返していると、それが普通になるのじゃ」


「貴方は人間なのかしら?」


「いつかは人間卒業してくれると嬉しいんじゃがな」


 こんな感じで意味のない会話と休憩を挟みながら目的地に向かう二人。結局目的地に着いた頃には、月は完全に上がり切っていた。


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