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第六話


「そこまでですっ!」


 アイシャとゲーシャの間に突如光の柱が現れる。柱は段々と収束していき、最終的に残ったのは、二人の人間。片方はギルド職員のアヴェリー、もう片方はローブと魔女帽子を身に着けた、金色長髪の幼女だ。


「これ以上の戦闘行為は取り返しがつきません! お二人共武器を下ろして下さいっ!」


 アヴェリーは、焦燥を隠さず訴える。これはアヴェリーだけの気持ちではない。民衆の代弁でもあった。


「やけに凝ったご登場ね。カッコいいわ、褒めてあげる」


「心にも無いこと言わないで下さい!」


「我の邪魔をする気か……貴様からーー」


「待ってくださいゲーシャ様っ! せめて話だけでも聞いて下さいっ! このままではアスカレオンの名に泥が付きますっ! 何とか……何とか心を落ち着かせてーー」


「黙れ小娘がッ! 貴様如きがアスカレオンを語るなッ!」


 片方からはからかわれて、片方は話を聞いてくれない。


 自分に彼女らを抑えつける力があれば……アヴェリーは唇を噛んだ。


「全く……獣の躾がなっておらんのう……のう弟子三十一号」


「師匠、十七号ですっ! ああ、もうっ! 何で私がこんな目に」


 幼女の見た目をして口調は老人臭いモノ。そして漏れる空気が只者ではないことを教えていた。


「ねぇ幼女の方、力の制御が出来ないくらいに耄碌しているって認識でいいわけ?」


「たわけ。これはわざとじゃ。お主のような猛獣にぶら下げた餌とでも思っておれ」


「へぇ? じゃあ私に何を提供してくれるの?」


「え、ちょっと勝手に……まあいいか」


 アヴェリーは諦めた。というか任せるべきだと判断した。猛獣を飼いならしてくれる、そう思う程度には師匠と読んだ幼女のことを信頼していたからだ。


 そうなると残るのはアスカレオン、ゲーシャだ。


「ゲーシャ様っ! この一件は他のアスカレオン、そしてバリシアにまでも飛び火するでしょう! アスカレオンともあろうお方が、一人の冒険者相手に敗北した、と」


「我はまだ負けていないッ!」


「貴方様がどう思うかではないのです! 民衆がどう思うかなのです! 先の戦い、明らかに貴方が押されていました。もし私達が介入しなければ、最悪貴方様は死んでいたでしょうっ! それが分からないなんて戯言(ざれごと)、言わないですよね!?」


 激しい権幕だった。例え尊敬されるべきアスカレオンであろうとも、事態を認められないのはただの腰抜け。この国のことを考えているからこそ、伝えなければいないのだ。


「彼女、アイシャさんはこちらで何とかします。ですから一旦抑えてください。決して貴方様の名誉を傷つけるような致しません。来るべき再戦のその時まで、剣を向けるのではなく、剣を祖国に捧げてください」 


 自分だってこんなこと言いたくはないし、そんな資格だってないことも理解している。


 アスカレオン、バリシアの象徴。その称号は重過ぎる。彼らの行動一つで戦争を起こしてしまうくらいには。


 アスカレオンが一介の冒険者に敗北したことで戦争、なんて笑えない冗談すら現実となる可能性もあった、


 バリシアは北を支配する雪国ノースと戦闘状態にある。アイテルは南部にある為戦争の火は届いていないが、今も兵士が死んでいる。

 

 戦争の良し悪しに興味は無いが、戦争となる可能性が目前で行われているのに止めないという選択肢は選べない。


 アヴェリーは覚悟を決めていた。仮に切り殺されることになったとしても、可能性を摘めるのなら妥協だと思うくらいには。


「……クソが」


 剣を鞘に納め、部下の元へ戻っていくゲーシャ。つまり、そういうことだ。


「ーーありがとうございますっ!」


「勘違いするな。我はアスカレオンが一人、ゲーシャ=ヴァーミリオン。国の為に命を捧げる戦士である。ただその役目を全うするだけだ」


「……アスカレオンに敬意を」


 部下と一緒に去っていくゲーシャの背中を見つめるアヴェリー。もし自分が彼の立場だったら同じ判断を下せただろうか?


 感傷に浸るアヴェリーに近づく一人の小さな影。アヴェリーは自身の衣服を引っ張られる感覚を覚える。

 

「弟子六十六号、感動している所悪いのじゃが、後は任せたぞ」


「ん? もうお話は終わったのーー」


 疑問を投げかけようと振り向いた彼女の先には、今まさに転移を行うとしている幼女の姿があった。しかもアイシャも共に転移しようとしていたのだ。


「じゃあのぉーー」「さようなら、お茶の匂いがする職員さん」


「あ!? ちょっと待って……」


 光の柱が再び天へと上る。眩しさが消え、目を開けるようになる頃には、既にアイシャと幼女の姿はそこに無い。


「ーークソ共がぁぁぁぁぁぁ!!!」


その日、一番の絶叫がアイテルの街に響いた。


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