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第四話「アスカレオン」


 話が終わったのでギルドを出るアイシャ。


 出ていく途中、複数の冒険者から恨みがましい目で見られていたが、彼らは殴り掛かったりと行動には起こさなかった。


 言葉や行動を見せれば今度は自分がやられると理解しているからだ。


「相も変わらずむさ苦しい街ね。この街もそろそろ潮時かしら」


 目的地を決めず、街を歩くアイシャ。もし冒険者がアイシャのこの言葉を聞いていたら歓喜で舞い上がっていただろう。


 アイテルの建物は密集しないように間隔を開けて建造されている。都市部とは真逆に広い土地をふんだんに使用しているのだ。


 だが今日のアイテルの空気は建物と違って全体が密集した暑苦しさを感じる。例えるなら戦の前だろうか。


「これ、一つ貰える?」


 道の邪魔にならないように端に置かれた露店。そこで売っていた黄色の果実にアイシャは目を付けた。


 店主をしていた老婆は「はい」と一言、そして一番大きなサイズの果実をアイシャに手渡した。


「お嬢さんもアスカレオンのゲーシャ様目当てに来たのかい?」


 代わりとして手渡すのはバリシア銅貨一枚。エスブリ大陸には共通の貨幣は存在してない。


「アスカレオン? 何それ」


「おや知らないのかい? 私達バリシアの生きる象徴さ。生で見れる機会はそう多くないから、ちゃんと目に焼き付けるんだよ」


 それだけ言うと対応を辞める老婆。アイシャは買った果実を一齧りし、賑やかな方へ足を進めた。


 数分後、辿り着いたのはアスカレオンの為に設営されたであろう簡易的な舞台。


 定位置の奪い合いは終わったのか、犇めき合う人々は仲良くその時を待っているようだ。


「いいご身分ね。アスカ何とかというのは。役者でも出てくるのかしら」


 アイシャは辛うじて見える程度の離れた場所まで移動する。群れの中に飛び込む気は無かった。


「この果物より興味が湧くといいんだけど」


 そんなことを考えていると、突如太鼓の音が爆音で鳴り出す。笛も鳴り始め、不規則で重なる不気味な音楽だったが、崩壊している訳ではない。


 寧ろ何処か完成されているように感じる。玄人向けといった感じだ。


 続けて舞台の脇から舞台の上空へ向けて赤、青、黄、黒それぞれの色を持ったの吐息のようなモノが放射された。


「あれは……」

「何だあれは!?」

「ーー魔法か?」


 放射された四種類は同じ地点で交わり、藍色の爆発を起こす。爆風が吹き、観客の中には悲鳴を上げる者もいた。


 オープニングセレモニーにしては好みが分かれそうな演出だ。冒険者のような普段から危険と隣り合わせな生業を持つ人は兎も角、多くの住民には刺激が強すぎる。実際中には失神している人もいた。


 会場がざわついていると一人の男が舞台へ上がる。成金さを隠していない高そうなモノばかりを身に着けていて、頭には動物の頭蓋骨を被っている。


「皆の衆! 我こそがアスカレオンの名を冠する者の一人、ゲーシャ=ヴァーミリオンであるッ!」


 ど太い男の大声だ。自己紹介から身分の二文字がひしひしと伝わって来る。


「今日は儀式の一環としてこの街に参った次第であるッ! そなた達の国に対する想い。必ず我が体現してみせようッ!」


 このまま演説が始まる。内容を簡単に言えばこの国の素晴らしさと自分達の尊さだ。民衆に洗脳をしているのだろう。


 洗脳と聞くと悪いように聞こえるが、勉強だって洗脳の一種であり、民を先導するのだって洗脳だ。


「あぁ、そなた達の顔をもっと見せてくれっ。その顔、一つ一つが我の心を動かすのだっ」


 ゲーシャは尊敬のまなざしを向ける、民衆を注視し始める。すると少し離れた場所にいる、一人の銀髪の少女が目に入った。


「そなたッ! 名を何と申す!?」


 演説を聞いて興味を無くし、この先の予定を考えていたアイシャ。自分の方に向けて飛んできた声に反応し、周りに自分以外がいないことを確認する。


「何? 私のことを言っているの?」


「そうだっ。なんと美しい美貌だ……わ、我の愛人となれッ!」


 民衆にどよめきが走る。アイシャのことを知らない一般人からしたら、平民が貴族にスカウトされているようなモノなのだ。


 ゲーシャとアイシャは親子くらいの歳の差があるが、上流階級の者からしたら普通のこと。それにアスカレオンの愛人ともなれば生涯安泰だろう。


 羨ましい。申し入れを受ける他ないだろう。


 そんな住民達の思いを真っ向からねじ伏せるように、アイシャは持っていた果実をゲーシャに向けて投げつけた。


「は? 気持ち悪っ」 


 思いもよらない攻撃に反応出来ず、果実はゲーシャの顔面へと激突して霧散する。


「アズカバンだが何だか知らないけど、アンタみたいな人間が上に立っているなんて、この国の住民に同情するわ」



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