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第二話「あり方」


 自然と生き物が調和している場所、エスプリ大陸。


 北は雪積る山岳が聳え、南には広大な森と海が広がる。東は灼熱の砂漠と荒野が、西には大陸に住む人間の過半数が存在する密集地域で、エスプリ大陸には四つの国が存在している。


 南一部地域と東全域を支配する大国、バリシア。広大な国土を持つ国だが、その分直面している問題の多い国でもある。


 その一つが魔物問題。


 魔物というのは生き物の中で人間に悪影響を及ぼすと判断された生き物のことを指し、エスプリ大陸全域に魔物は生息している。


 バリシア王国は国土が巨大であることと同時に人口密度が低い。その為魔物を狩ることを生業としている冒険者の数が相対的に少なく、魔物の処理が追い付いていないのだ。


 魔物問題、それは増えすぎた魔物による農作物の被害や、家畜、人間の捕食等被害のこと。


 冒険者は身分関係なくなれるある意味開放的な職業、危険視や野蛮と揶揄されることがあるが、ことバリシア王国にとってはかけがえのない存在だった。


 色濃い木々や蒸し暑い気候を持つ、バリシア王国南部の街アイテル。街の中あるひと際大きな建物には冒険者ギルドと書かれており、内部の熱気が外まで漏れ出ているようだ。


「ちょっとアンタ! その依頼私が目を付けていたんだけと!?」


「予約制度なんかねぇーだろ女。薬草でも摘んでこいやぁ」


 冒険者達の言い争いが建物の中で響く。


 ギルドの一階は大広間のように開放的な造りになっていて、机や椅子が置かれている。奥には冒険者が受けることの出来るクエストが掲示板に張り出されており、カウンターには冒険者の対応を行うギルド職員がいた。


「お二人共仲良くしてください!」


 女性職員の一人が仲裁に入る。


「あ? お前には関係無いだろ」


「そーよ! それに悪いのはコイツだから、私に言うのはお門違いよ!」


「……マナーが守れない方は除名処分となりますが」


「……」


「……チッ」


 言い争っていた二人の冒険者が散っていき、ホッと溜息を吐く職員。これ以上火種が大きくならなくて良かったという思いは勿論だが、本当に除名するようなことになったら怒られるのは自分だったからだ。


 魔物問題により冒険者の数が足りない現状、除名処分は出来るだけ控えなければならない。


 除名処分のハードルが下がると冒険者の人間性の平均も下がるが、本当にしょうがないというのが実情だ。


「皆さんがもっと紳士的になれば……。身分出身関係ない以上、そういう人が来やすいというのは分かっていますが、問題を起こされるとギルドの評判が下がってしまいます……」


 世知辛い世の中だ。問題を悪化させない為には、別の問題を黙認する必要がある。


 職員はカウンターに戻ろうとするが、ギルドの入り口の方から何やら声が聞こえてくる。


「誰か! 治癒魔法使える奴はいるか!?」


 職員が騒ぎに近づいてみると、そこには気を失って横たわっている右手首を失った男と、美しい一人の少女が立っていた。










「アイシャさん……」


「何かしら」


「いい加減にしてくださいっ!」

 

 ギルド二階に造られた応接間。ソファ二つが机を真ん中に向かい合っていて、それぞれのソファには女性が座っている。机の上にはティーカップと菓子が置かれていて、アイシャと呼ばれた少女は、怒鳴られたにも関わらず、優雅にティーカップを口に運んだ。


「関係無しに人の手首を切り落とすなんて……ただの通り魔ですよ!? 犯罪者ですっ!」


「声がデカい子は嫌われるわよ?」


「誰のせいですか!?」


「貴方のせいよ。殺しては無いし、気絶したのを運んできただけ感謝して欲しいんだけど。手首なんか治癒魔法かければ治るでしょ」


「部位欠損を治すには第六章の治癒魔法が必要です!!! 第六章の使い手が其処ら中にいると思っているんですか!?」


 身体を乗り出して訴える女性職員。それに対しアイシャはティーカップに入っているお茶を女性職員の顔目掛けてぶちかける。


「……え?」


「少しは落ち着いたらどう? 貴方如きじゃ私に対してどうにも出来ないこと分かっているでしょう?」


 顔を伝い液体が落ちる。呆然としたまま、女性職員はソファに座り直して俯いた。


「……この件は上に報告します」


「お好きに。報告した所で何か起きるとは思えないけどね」


 話は終わったと立ち上がり扉へ向かうアイシャ。ドアノブに手をかけた所で、背後から声がかかる。


「何故貴方はそんな酷いことを平気にやれるんですか……?」


 震えている職員の声に、振り向いて不気味な笑顔を向けるアイシャ。


「私は好きに生きている。好きなモノを好きと言って、嫌いなモノを嫌いと言う。貴方のように我慢する生活をしていないだけよ。憧れるかしら?」


 今度こそ退出するアイシャ。自分以外居なくなった空間に向けて、職員は答えを独り言にした。


「……いいえ。私にはそんな生活耐えられないでしょう」





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