②
4/4改稿
「いや!離してください!」
「いいじゃねえか。今から一発相手してくれよ」
「やめてください!手伝いがあるので帰してください!」
酔っ払ったおっさんが女の子を襲おうとしているようだ。
自分には関係ないし目立つ行動は控えたほうがいいだろうなと
考え、そのまま行こうとすると頭痛と共にある光景がよぎる。気を失っている時に見たあの女の子が襲われている光景だ。その光景を見ていると自分とは関係のないはずなのに怒りが湧いてくる。気づいた時には酔っ払ったおっさんに近づいていた。
「やめてください!」
「いいから来いって言ってるだろ!……なんだテメェ」
「嫌がってるし離してやれよ」
「関係ねぇだろ!ガキは引っ込んでろよ!」
そう言いながらいきなり殴りかかってくる。しかし俺でも目で捉えられるようなパンチ。躱すことができ、逆に相手の顔にカウンターを一発食らわせる。そのまま酔っぱらいのおっさんは壁まで飛び、伸びてしまう。
(酔っぱらいとはいえ雑魚過ぎないか?それに軽く殴ったはずなのに思いのほか吹っ飛んでいったような……)
威勢が良かった割に、あっけなく沈んだおっさんに対して拍子抜けしていると後ろから声をかけられる。
「あの…ありがとうございました!」
「あ、あぁ。大丈夫か?」
「はい!急いでいたので助かりました!」
「そっか、じゃあ俺はこれで……」
と歩き出そうとするとまだ何か話しかけてくる。
「あの!何かお礼させてもらえないですか……?」
「あ~……じゃあうまい飯屋とかこの辺りにあったりしないか?今腹が減ってて探してるとこなんだ」
「それならウチのお店に来ませんか?宿屋なんですけどもご飯もおいしいって食べにだけ来るお客様もいるんですよ!」
「あ〜…じゃあお願いしようかな」
「はい!近くなので一緒に行きましょう!ご馳走しますから!」
すごい気さくで元気な女の子なのか俺の手を取って先を歩く。路地は暗くて顔がはっきりと見えなかったが出たことで夕日に照らされた顔にビックリする。なぜならレーナにそっくりな少女が目の前にいたからだ。それと同時になぜか頭をズキッと痛みが走るが何とか我慢する。
「どうしました?大丈夫ですか?」
「あ、いや……」
思わず抱きしめそうになるがレーナのわけがない。何より髪の色がレーナの茶髪と違って珍しい黒髪をしている。しかしもう会えないと思っていたレーナにそっくりな少女を前に頭が真っ白になる。
「そういえばまだ自己紹介してなかったですね!私は隣の羊亭っていう宿屋の娘でシーナって言います!こう見えて私16歳なんですよ?」
ふふんと言って少し豊かな胸を張る。
「俺はイ…イール、冒険者で16歳だ」
「え!イールさんも16歳なんですか!?同い年ですね!」
と太陽のような可愛い笑顔で笑う。よくわからない相手だからと念のため偽名を答えたことへの罪悪感もあるがその笑顔を見ていると胸が苦しくなる。レーナと似ていることで死なせてしまった後悔などもあるがそれとは違う言葉にしづらいモヤモヤとした感情も湧いてくる。
と、そんな考え事に耽っていると、
「……-ルさん!イールさん!」
とシーナに呼びかけられて思考を切り替える。
「あぁ、すまない。考え事をしてた。」
「大丈夫ですか?それと着きました!ここがウチの宿です!さぁさぁ入りましょう!」
そのまま手を引かれてお店に入る。
中に入ると右手にレストランスペースがあり、カウンター席とテーブル席がおいてある。左手には階段があり、二階から上が宿のスペースになっているのだろう。
大きな通りから一本入っているが人の通りもあり、立地的にもよさそうな場所に建っているためかレストランスペースの客の入りも多く、繁盛しているようだ。
「おかあさん、ただいま!」
「おかえりシーナ。あれ、隣の人は誰だい?手なんて繋いじゃって」
ニヤニヤしながらおかあさんと呼ばれた金髪の女性がこちらを見てくる。母親なのだろうがあまり似てない。
そこでずっと俺の手を握っていたことに気づいたのか顔を真っ赤にしながら慌てて手を放す。
「こ、これはちがっくて…///もう!揶揄わないでよ!」
「あはは、ごめんごめん。それでその隣の人は?」
「この人はイールさんって言って路地で絡まれた時に助けてもらったからお礼したくてお店に連れてきたの!!」
そういいながらシーナは俺のことを紹介する。
「あんた大丈夫だったのかい!?いつも気を付けなさいって言ってるのにこの子は…イール君だったかい?本当にありがとうねぇ」
「もう!小言は後で聞くからイールさんを席に案内していい?」
「カウンター席なら空いてるからそこに座ってもらいな」
「はーい、じゃあ私が案内するからこっちに来てください!」
といい、強引にカウンター席へ連れていかれて席に座らされる。
「イールさんは何か食べたいものはある?何を選んでもウチのおとうさんの料理はおいしいんだからきっと満足するはずだよ!」
「あー、ご馳走になるわけだしシーナに任せるよ」
「今日は確か熊肉がたくさん入ってたはずだけど……熊肉料理でも大丈夫?」
「じゃあそれで頼む」
「はーい!飲み物はどうする?ミードでいい?」
「あぁ、頼む」
「じゃあおとうさんに伝えてくるからそこで待っててね!」
と忙しなく奥に消えていくがすぐにミードだけもって来てくれた。どうやら従業員は他におらず、シーナと母親が給仕を行いつつ、宿にお客さんが来ると受付を行ったりと忙しなく動いているようだ。その合間を縫って改めて感謝をされた。
それから少しするとエプロン姿になったシーナが料理を持ってやってくる。
「はい、お待たせ!熊肉の赤ワイン煮込みお待ちどうさまです!」
「ありがとう。いただきます」
お腹が凄くすいていたこともあるが料理もすごく美味しそうで我慢が出来ず、すぐに手を付けた。
メインの熊肉は赤ワインで長時間煮込んだのかフォークで触るとほろほろにほぐれ、口に含むと溶けるようになくなる。少し臭みがあるが脂は甘くとてもおいしい。付け合わせの野菜とパンも進む。あまりにも美味しくて夢中で食べているとあっという間になくなってしまった。あまりに美味しく、少し物足りなく感じるもののお礼で奢ってもらっている手前、お代わりするのも申し訳ないと我慢することにする。
食べ終わり帰ろうとしていることに気づいたのか仕事の合間にシーナがやってくる。
「どうでした?おとうさんが作った料理は」
「ああ、すごく美味しくてついつい夢中で食べちゃったよ。ありがとう。本当にお代はいらないのか?」
「お礼ですから大丈夫です!そういえば泊まる場所とかはもう決まってますか?」
「悪い、そっちは既にあてがあるから大丈夫だ」
「そうですか…」
と残念そうにしょんぼりとする。とりあえずしばらくは目を覚ました地下室を拠点にしようと考えている。しかしその姿に少し罪悪感を感じ、出口に向かいつつ口を開く。
「まぁでもご飯だけは食べに来てもいいか?」
「はい!ウチは朝と晩にやってますから来てくださいね!」
ついつい悲しませたくないと思ってしまい、そんなことを口にしてしまった。
(まぁ飯はすごい美味かったしいいか)
自分にそう言い聞かせそのままお店を後にする。




