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4/4改稿
また映像を見ているようだ。
剣を持って怪物と戦っている。こちらは既にボロボロで背後では人間が数人倒れている。対面にいる怪物もボロボロで周囲の景色からこれまで激闘を続けていたことが窺い知れる。その後両者一斉に動き、雷を纏わせた剣で斬りつけることでついに動かなくなる。
それを確認するとそのままこちらも力が抜け、倒れる。目線の先では女性がこちらに近づいてくるが……
「……夢か」
丁度そこで目が覚めてしまうが自分はそんな戦いをした記憶はない。夢だからとも思うが妙にリアルで剣に雷を纏わせている感覚も覚えており、しっくりとくる。
これまでも幾度となく映像が流れてくることがあった。もしかしたら先ほどの映像も夢ではなく誰かの記憶の一部なのかとも思うが誰かわからない。もしかしたら俺を吸収したスライムが俺以外の人間も吸収しており、その人の記憶などが流れ込んでいるのかもしれないが手がかりがないためわからない。
そんな風に考え事をしていると外で鐘の音が6つ聞こえる。朝の6時になったようだ。
今日は馬車での移動もあるためそろそろ準備を始めなければならない。一旦思考をやめて顔を洗ったり鎧を着たりと身支度を整えて部屋を出る。
(とりあえず北門に行って駅馬車がどれくらいの頻度で出ているか調べてから食事と消耗品の補充を行うか)
村から王都にくる際も駅馬車を使ってきた。北門で乗れることは知っているが王都から出る分はそれくらいの頻度で運行しているかわからない。それをまず確認する事にする。
6時を過ぎたぐらいの時間。日の出からあまり時間は立っていないがこのぐらいの時間には既に冒険者や商人も動き始めており、北門は賑わっている。
念のため極力目立たないようにフードを深くかぶり直し、目当ての駅馬車を探す。
どうやら目的地である隣町へ向かう馬車は1時間に一本しか出ておらず、つい先ほどその馬車も出てしまったらしい。
(終点の街もそこまで栄えているわけではないため仕方ないか。まぁ丁度いい。一時間の余裕があるわけだし当初の予定通り腹ごしらえをしてから消耗品の補充をしても大丈夫そうだな)
時間的に余裕があることだし早速隣の羊亭へ向かう。別に隣の羊亭にこだわることもないが他に飯屋をしらない。何より飯も美味い為、ついつい向かってしまう。
昨日の朝と違い、営業時間中ということもありお店の中にはそこそこお客さんがいる。
いつも通りカウンター席に座り、シーナが来てくれたタイミングで注文をする。
「いらっしゃい、イーライ君!」
「おはよう、今日もシーナのオススメでお願いしてもいいか?」
「オススメですね!少し待っててくださいね!」
そのまま奥の厨房に消えてから少しして料理を持ってシーナ出てくる。
「はい、お待たせしました!」
そういうと目の前にパンやソーセージ、豆などが乗った皿とスープを置いてくれる。今日も美味そうだ。
シーナがそのまま話しかけてきた為、早速食べながら話をする。
「この後どこかに出かけられるんですか?」
「今日はこの後馬車で隣町のダンジョンまで行く予定だからな。だから今日明日はそのまま隣町にいると思うからこれないと思う。悪いな」
「そういえばイーライ君は冒険者さんでしたもんね……じゃあよけれ「ねぇちゃん注文いいか」はーいすぐ行きます!じゃあ無理してケガしないようにしてくださいね!」
そんな話をしていると他のお客さんがシーナを呼ぶ声が聞こえてそのお客さんのところに行く。
その姿を見送った後朝食を食べることを再開する。ソーセージはパリッとしたはじける食感と香草の香りでとても美味しく、パンがすすむように少し濃いめに味付けされているようだ。付け合わせの豆もトマトソースと一緒に煮込まれており、こちらも美味しい。
今日の朝も美味しく食べることが出来、少しの間この料理がお預けになるかと思うと物悲しい。そんな気持ちになりつつシーナに声をかけて会計を済ませようとするとシーナがバスケットをもってくる。
「イーライ君!余計なお世話かもしれないですけどお弁当作ったのでお昼などに食べてください!」
そういって手渡してくれたバスケットを受け取り中を確認するとサンドイッチが入っていた。
思いがけないことにビックリしながらも返事をする。
「いいのか?」
「はい!いつも美味しそうにウチの料理を食べてくれているイーライ君だけ特別ですよ?その代わりちゃんとケガなく帰ってきてこのかごを返してくださいね!」
「ああ、ありがとう。ちゃんとこのかごを返しに来るよ。お代だけどいくらになる?」
「朝は銅貨5枚です!」
「え、お弁当あるのに安すぎないか?」
「そのお弁当は私が勝手に作っただけなので気にしないでください!」
「いや……さすがにそれは申し訳ない……」
「もー、じゃあこうしましょう!今回はお試しということでもし気に入っていただけたら次からはお弁当の代金も払ってもらうということで!」
「それでも……いやありがとう。じゃあ気に入ったら次からちゃんとお金払うことにするよ」
「はい!じゃあ気を付けて行ってきてくださいね!」
少し強引ではあったものの俺のことを思ってしてくれたこと。無碍に断ることもできない。妥協点として次からお代を払うということで今回は好意を受けることにする。
シーナに感謝しながら隣の羊亭を後にする。