エンディング 開園するパンダ
最終回です。
柏天動物園には、連日たくさんの客が波のように押し寄せていた。
市が全面的にバックアップした広報活動は輪のように広がり、いまでは市内、県内だけでなく、全国各地からの来場者が集まるようになったのだ。
施設は全体的に新しくなり、飼育される動物も、以前より明るく元気になった。
来援した人々は笑顔で、その動物たちを眺めて楽しむ。動物たちの愛らしさは、日ごろの鬱憤を晴れさせる不思議な力があった。
ある檻のまえに、ひと際大勢の客が集まっていた。
「全然こっちみなーい」
子どもが不満そうに背中を見せる動物に文句を言う。その動物は、ごろんと寝返りを打つことで、うつぶせになり、決して顔をみせまいとした。
「動物園専属アイドルの西木恋姫ちゃんでーす。今日はみんなに動物さんをもーと好きになってもらえるようにおねーさんがいろいろ解説してあげるね!」
園内の中心には、特設ステージが設置されており、若い女性がマイクパフォーマンスを演じていた。ステージの下には、子どもが数人もの珍しそうに集まっているなか、ひとりだけ大男が本気で応援していた。彼をみて、子どもの親たちは心配そうにしている。
そんな様子を横目で見ながら、二人の少女は、人混みのできた件の檻の前にたどり着いた。 金髪の少女が頭の後ろで腕を組んで、感嘆の声をあげた。
「すごい人気だな、こりゃ。今日はうちの親たちもふたりっきりでデートしてんだけど、はぐれてなきゃいいな」
相方の少女は意外そうに言う。
「その外見で両親思いなの?っていうか、よく初恋の男が自分の母親と再婚したこと、受け止めれたわよね」
金髪の少女は頭をかく。
「ま、代わりも見つかったからな。ライバルはこの通りたくさんいるみたいだけど」
でも、と付け加える。
「一番手ごわいライバルはお前なんだろうけどな」
「余計なお世話」
相方の少女は、ずんずんと、人をかき分けて檻の前にたどり着いた。金髪の少女は呆れて溜息をつく。
少女は、檻の前に立つと、白と黒で彩られた獣を愛らしそうに眺めた。すると、まるで視線に気が付いたように、獣は、ごろりと寝転がると、少女と目を合わせた。
「尾上君……?私が、わかるの?」
白黒の獣は、起き上がった。周りの客らが色めき立ち、歓声をあげる。獣は、遊び道具のタイヤを持ちあがると、檻越しの少女の前に、どんっと置いた。
もしかすると……。
少女は妄想して、笑った。
「それは、指輪じゃなくて、タイヤだよ」
馬鹿だなあ、と少女の独り言は、賑やかな客たちの声にかき消されたのだった。
PANDA バッドヘッドボーイ&ヘッドバットガール
完。
お疲れさまでした。




