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M工業爆破計画

作者: 後藤章倫

 病床で目が覚めた。つまり入院した訳であって、何故入院する羽目に成ったのかと言うと原因は仕事である。

 そう言うと、仕事で怪我でもしたのか?と思われるだろうが、建設現場での仕事が主ではあるものの、事故や怪我で入院した訳では無い。という事は、何か病気に成ったのか?その通りである。

 どういう事かと言うと、自分は電気工事士であって現場で働く職人である。今でも技術の向上に努めているし、いかに早く、綺麗に、確実に仕事をこなす事を目指している。もちろん資格取得にも力を入れている。それが……


 会社の上層部にカミサマと呼ばれる人物が居る。

カミサマは、枯れ木に花を咲かせたり、天気を悉く言い当てたり、株価の上昇を読み会社に利益を与え、人の不平不満を聞き、それに対する教えを授け、誰からともなくカミサマと呼ばれていた。その様な事は全く無く。ひたすら我がままで在って、自分の考えが全てであり、違う意見なぞには耳を貸さず、己の持論を展開する事が当たり前であり、彼に捕まり何か言われても、答えは「イエス」と言うしか無い為に、誰も逆らえないという意味でカミサマと呼ばれている。 

 そのカミサマは仕事の事等全く分からず、自分の思い付き、閃きだけで周りを動かそうとする全く面倒くさい人なのです。

 いくら会社の上層部とはいえ、此の様に好き勝手やっていて、社長という人は何も言わないのか?という疑問が湧いてこられるでしょう。

 実は、そうなのです。社長はカミサマに意見出来ないのです。何故ならば社長は五年程前に女性問題が発覚し、社長夫人や会社までも巻き込んで、それはそれは大変な騒動に成りました。更に借金まで見つかり、この期に及んで、なんとその女性と逃げてしまったのです。

 その時は会社が潰れてしまってもおかしくない状況でしたが、カミサマが必死に駆け回り(当時はカミサマとは呼ばれていませんでしたが)頭を下げ資金を調達し、会社を立て直したという経緯があり、全ての事が治まり会社が軌道に乗り始めた頃、何事も無かったかの様に社長は

「嗚呼、彼処のうどんは旨かったなぁ」

等と訳の分からぬ事をほざきながら、知らん顔して、しれっと会社に復帰したものだから、もうカミサマには頭が上がらないのです。しかもカミサマは社長の実弟でもあるのです。


 業界で噂の、仕事が出来ず、口先だけの男である能代という人物が居る。

 能代は長年建設業に携わってはいたものの、仕事の事等全く分からず、適当に口先だけでモノを言う輩であり、つい先月、適当に言った事が取引先の逆鱗に触れ、大失態を招き会社へ大損害を与えてしまってクビになってフラフラしていた。

 能代は困っていた。このままでは生活は、ままならず早く職を探さねば成らぬのに、もう建設業界では自分の事は噂になっており、何処も相手にして貰えない。途方に暮れていたが、何度か仕事で会った事があるカミサマの事を思い出した。

 そうだ、M工業のあの人なら或いは、自分を雇ってくれるかもしれないと、能代はカミサマに会う事にした。

 カミサマと対面した能代は、この時とばかりに

「お若くなられましたね」

「いや~流石ですわ」

「仰る通りです」

「グローバルな考えに感服します」

「カルチャーショックですわ」

「私が取りに行きます」

「天才的ですねぇ~」

「有り、無しで言うたら有りですわ」

「やっぱり私も巨人です」

等と次から次へとカミサマを褒め称えた。そしてカミサマの一声で、会社は阿呆の能代を雇う事に成った。

 そうなのです。カミサマは馬鹿なのでした。


 能代は、変に燃えていた。有頂天に成っていた。前の職場で得た中途半端な知識をフル回転させ、誰も望まない事を必死にやっていた。

 そして何を勘違いしたのか公共工事の入札に参加していた。入札と聞いてピンときたらしい。何故なら普段からインターネットのオークションに参加しており、周りの人達へ、自分は落札王なのだと豪語していたようで、公共工事の入札なんて、この落札王が射止めてやる。と、全く意味の無い自信と共に、全くトンチンカンな公共工事の入札に参加し落札してしまったのだ。

 何故落札出来たかと言うと、相場よりも相当低い金額で入札しており、この時点で会社の赤字は確定していた。

 能代は興奮し直ぐにカミサマへ報告した。カミサマも馬鹿なので、この三千万円の仕事を取った能代を褒め称えた。

 本当に困った事をしてくれた事に全く気付いて無い二人。

 この工事は、どんなに低く見積もっても三千三百万円はかかる工事であって、三千五百万円以下で入札する阿呆は能代ただ一人だった。更に根本的に分かって無いのは、この工事は、土木工事であって、我が社は電気工事の会社であるという事である。

 つまり能代は、全く畑違いの仕事を始めから赤字確定の状態で取って来たのである。公平な入札に於いて我が社は、この金額で請け負います。任せてくださいと手を挙げて、それに対して県は、ほほう実に素晴らしい、この様な低予算でやれるのか、県の財政も苦しい中、これは助かる。お願いしますよ。

と仕事を託された訳である。

 今更、え?何?そんなにお金かかるの?そんなもん知らんかったし、じゃ無しで!さいならっきょ!

て、ケツを捲ったり出来る訳も無く。期限内にキチンと納めなければならない。

 この畑違いの仕事を、誰が先頭に立ってやっていくのか?頭に立つ者は施工管理技士という資格も必要である。もちろん能代は何も知らない

 悪い事に、私は一級施工管理技士である。が、それは電気工事のものであって土木工事の其れではない。

 カミサマも能代も社長までもその辺には疎く、一級持っているという理由のみで、この訳の分からぬ仕事の責任者に指名されてしまった。

 私は抵抗した。それはそうだろう、此処は電気工事の会社であって土木工事のノウハウ等持ち合わせておらず、職人達にしても電気工事士しか居ない。

当たり前である。その電気工事士達を引き連れて電気工事の知識をこれでもかと振り絞ったところで土木工事が出来る訳は無い。

 道具、機械、材料、知識その他全てにおいて全く違う事は誰の目にも明白であるのに、カミサマ、能代、社長の三人は一貫して考えを改めるつもりは無いらしい。

 私は、会社員であって会社の決定事項に従わねば成らず、大きく頭を悩ませながら工事に取り掛かる羽目になってしまった。

 あの阿呆能代は、またまたパソコンの画面に見入り、ネットオークションに参加するくらいの心構えで公共工事の入札事案を探している様子だった。


 仕方なく、これも仕事だと自分に言い聞かせ、分からない事柄を彼方此方に聞きに行ったり、調べたり、勉強したりしていた。すると自分の気力とは裏腹に身体が異常をきたしてきた。

 何となく目が霞む様に成った。疲れているのだろうと、だましだまし仕事を続けておると、日に日に目は見えなく成ってしまった。

 これはちょっとおかしいだろうと病院へ行くと、ストレスからくる眼精疲労という事だった。身体には知らず知らずのうちにストレスが蓄積されていたのである。

 しばらく休養を取ると目の具合は少し良くなったので仕事を再開した。すると今度は、耳が変に成った。耳の中に水が入っている様な感じで耳が聞こえ辛く成った。風呂で耳に水が入ったのだろうと思っていたが、少しも良くなる事はなく終いには、ほぼ耳が聞こえ無くなった。

 身体が強硬手段に出たのだ。外部との接触を断つ為に、視力、聴力を強制的にダウンさせたのである。そして入院と相成った次第。

 入院したにも関わらずカミサマ、能代、社長からは電話が入り、僅かな聴力で聞き取れたのは

「何時から仕事に来れるか?」

「皆、困っている」

「早く退院しろ」

といった心無い言葉だった。

 一体何の為に私は、こうして病床に横たわって居るのか?誰のせいで自由を奪われて居るのか?そして私の代わりをやろうという者は居ないのか?

 沸々と怒りが込み上げて来た。もうこんな会社には何の義理も無い。畜生、M工業め爆破してやる。そう強く決めた。


 一口に爆破と言っても様々な方法がある。扨、どうやって爆破してやろうか考えてみる。先ずは一番手軽にかつ効果的に爆破をやるなら、自分を爆破するという手段がある。自分を爆破?何を猿が

「俺の尻は青色じゃい」

と言って屁を放く様な事を言っておるのだ?と思われるでしょう。自分を爆破、つまり爆発させるのです。そう感情を爆発させます。最近ではこの様な行為を、キレるとも表現します。

 朝から酒を喰らい、髪の毛をモヒカン刈りにし、おっ立てます。車に乗り込み、そのままM工業の事務所へ突っ込み、金属バットを片手に車から降り、先ずは能代の頭を金属バットで叩き割る。頭から血が吹き出し能代はぶっ倒れる。能代を踏みつけて給湯室へ行き、煮えたぎるお湯の入ったヤカンを持ちカミサマの頭から垂らす。カミサマの頭の皮はただれて、眼球も飛び出す。社長の机の上に糞をして、引き出しに嘔吐し、事務所全てのパソコンをストンピングで破壊し、下半身を露出して回転しながら放尿、小便人間スプリンクラーと化し、若い事務員を裸にし酒盛りをする。

 嗚呼、気持ちよかー。と、これでスッキリする事間違い無しであるが、通報により駆けつけた屈強な警察官や国家テロ対策部隊等にボコボコにされ、逮捕され死刑になるのも間違い無しであるから、この方法はスマートでは無いと判断した。

 

 次に爆発物による爆破を考えてみる。いわゆるザ☆爆破!である。先ずは爆発物を手に入れる必要がある。ではどうやって爆発物を手に入れれば良いのか?

 爆発と言えば、ドッカーン的な、例えば打ち上げ花火とか?

「人生にドデカい花火打ち上げたる」

等と無謀な事を仰る方も居られるくらいだし、それならば、いそいそと花火師の処へ赴き

「斯く斯く然々、M工業を爆破したいので、とりあえず三尺玉あたりを一つ分けて貰えませんかね?アッハァ~ンOK?」

と交渉したらば

「なぬ?M工業を爆破するとな?オーイエーOKチンゲもボーボー、実は前々からM工業に対して恨みを抱いておったのよ。したら、そこの三尺玉を持って行きなさい。そして盛大に爆破させなさい」

と、相成る訳も無く、するってぇと花火は無理か?


 何か、もっとインスタント的に、こうコンビニ的に、しかも大爆発を起こす手段は無いものだろうか?

 有る。有るではないか、最近よく新聞やニュース等でカセットコンロが爆発して多数の負傷者が出たという事案を報じている。

 そうだカセットガスだ。こいつを密閉状態で引火してやれば大爆発が起きるではないか。よしよし。

しかし、爆発と共に更なるインパクトを与えられないものか?カセットガスがイケるのならば、カラースプレー缶でもヤレる筈。カラースプレー缶ならば爆発後の色による演出も醸し出す事が出来る。よし、カラースプレー缶でいこう。


 色によって、人は様々な感情を抱く。空色はスカイブルーとも呼ばれるように、爽やかな清々しい印象であって、黒色はダークで重い感じに、緑色には感情を落ち着ける効果があり、白色は心を無にするというか素直な気持ちになる。

 ここで大事なのは、スプレー缶爆弾が爆発した後にM工業の奴らに甚大な被害を印象付ける色を選択するという事。

 私だけが、M工業のストレスによって入院を強いられ、毎日五、六時間ものあいだ点滴なる治療により自由を奪われているという屈辱を思い知らせてやる。

 何色爆弾にしてやろうか?黄色はどうだ?爆発後、辺りは一面真っ黄色に成る。いや、これでは、どこか何となく、何かのアトラクション的になってしまう。では、ホラー映画のゾンビの体液の如く深緑色はどうだ?ビチョビチョに飛び散るゾンビの体液、気色悪い。いやいや、奴らには血の鉄槌を喰らわせてやりたい。だとすれば赤色だな。血が滴るが如き深紅に染めてやる。

 スプレー缶爆弾の色も決まった事だし、爆弾の設置場所を考えよう。スプレー缶爆弾を爆発させる為には熱源が必要である。M工業で熱源がある場所といえば給湯室だが、給湯室へ出入りしているのは、カミサマ、能代、社長等ではなく、女性事務員である。彼女達は爆破の対象では無い。しかも給湯室を爆破したところで私の気持ちは治まらない。M工業に、そしてあの三人にとって大打撃を与えなければ成らない。

 どうにか簡単に熱源を確保する手段はないものか?すると一つの考えがスッと浮かんだ。そうだ、超自然に其処に留まって居る事が出来、更に容易に手には入る熱源がある。

 それは、電気ポットである。電気ポットに水を入れずにスプレー缶だけを入れ通電させれば、ある一定時間放置後にスプレー缶が爆発する筈である。

 当然、電気ポットが事務所内に鎮座していても誰も不思議にはおもわない。しかし、電気ポットを机の上に放置すれば、早急に撤去を命じられるし、床に電気ポットがあるのも不自然極まりない。しかし大打撃は与えたい。となると事務所内での爆破には無理があるのかもしれない。

 ようやく退院の目処がつき、本日の検査結果次第で明日退院という運びになった。


 無事に退院する事が出来た私は、その足でM工業へ向かった。勿論、途中のホームセンターにて赤色のスプレー缶を購入した。

 事務所へ入り、カミサマと社長へ経緯を説明し、その原因が仕事によるストレスであった事も伝えたが、退院出来て良かった等と普通の対応をしていたが、さして気持ちがこもっている様には感じられなかった。

 すると横から阿呆の能代が

「じゃ、明日から仕事出来るね、なんなら今からやる?また入院したりしてなハハハハハ」

と信じられない言葉を平気で吐きやがった。

 怒りは絶頂を迎え、そのまま給湯室へ向かった。そして電気ポットを手に事務所を出た。

 何処を爆破するかは決めていた。我が社は電気工事の会社であるが、電材の問屋としても営業している為に同業者が頻繁に出入りしている。

 電気工事の職人が電材を求めてやって来た時に、電材が無かったらどうなるか?

 材料屋に材料が無いという事態。魚屋に魚が無い、本屋に本が無く、酒屋に酒が無い、パン屋には猿しか居ない。

 電材屋に電材が無いという事になり、そうなると電気工事の職人達は怒り狂い、発狂し、漏電しまくり、感電しまくり、停電しまくり、発電機等を用いエレクトリックパレードをしまくるのです。

 そんな事になれば、我が社M工業の信用はガタ落ちになり会社は潰れて終いかねないので、倉庫の在庫管理は重要な仕事なのである。

 もう爆破場所は一つである。色々な電材で溢れる倉庫のほぼ中央に電気ポットを置き、中に赤色のスプレー缶を忍ばせ通電し、しばらくの間、人が来ない事を確認して倉庫を出た。


 約三十分後、倉庫の周りが慌ただしく成った。スプレー缶爆弾が爆発したのだなと直ぐに分かった。

 何だ?何だ?と野次馬のふりをして倉庫へ行くと、見事に電材は真っ赤に染まっていた。そしてその殆どが破損していて全く使い物にならなく成っていた。

 M工業は大打撃だ。ざまぁみやがれと思っていると救急車がやって来た。倉庫の中から深紅に染まった中年男が担架に乗せられ運ばれて行った。

 普段、倉庫等には全く近付きもしないのに、偶々事務所に人が居ない時にお客が来て、渋々倉庫へ材料の確認に行った能代だった。

 阿呆だなぁと思ったし、一石二鳥だとも思った。私は、一人愉快痛快だった。

 世界中に聞こえるくらいの声で、嬉しさを爆発させた。


 翌朝目を覚ましたのは、病床の上だった。あっそうだ私は、入院したのだった。

 畜生、M工業め、爆破してやる。




           終

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