虹の友情
ある森のとある広場に、四匹の動物が話していました。
「知ってるか? この森のどこかにお宝があるみたいだぜ?」
「でもどこにあるかわからないんでしょ?」
「だから、願いが叶うドングリ池に行って、場所を教えて貰うんだよ!」
「二人でどこかに行くのかしら?」
「キキッ!」
「リスちゃんも行きたいって言ってるわ」
「だったら、皆で探しに行かないか?」
虹が逆に現れる不思議な森で、密かに動物たちは何かをやろうと企んでいました。
☆
この森には言い伝えがありました。
森の奥の『ドングリ池に願いを言うと何でも叶う』という言い伝えでした。
それをどこからか聞き出したアライグマは、いつも皆で集まる『根っこ広場』と呼ばれる場所に友達のクマとキツネとリスを呼んで話したのです。
この根っこ広場は、注意しないと足を引っ掛けてしまうほど木の根がたくさんあることから、根っこ広場と呼ばれていました。
話を聞いたクマは、少し怖がりながらもアライグマに聞きました。
「アライ君。ボクはやっぱり行きたくないよ。その、森の奥は怖いんだ」
怖がりのクマは体を震えながらもアライグマに問いかけます。
「大きな体をしているのに、一番の怖がりだもんな!」
アライグマはクマに強く言うと、その言葉でも少し驚きました。
「アライ君。クマ君が怖がってるわよ?」
いつも言い合いになるとキツネのお姉さんが話しかけます。
「ワタシもお宝には興味があるけど、無理矢理クマ君を連れて行くのはどうかしら?」
「いいじゃん。もしかしたらそのドングリ池に行けば、その怖がりも直るかもしれないんだぜ?」
アライグマの提案に、少しクマも考えました。
「怖がりが直るの?」
「そうさ。クマは体は大きいのに怖がり。そんなの楽しく無いだろ!」
アライグマに悪気はありません。クマとは一緒の日に生まれ、この日までずっと共に過ごしてきました。
「わかったよ。ボクも一緒に行くよ」
「決まりだな! キツ姉さんはどうするんだ?」
「心配だもの。一緒に行くわよ」
「キキキッ!」
「リスちゃんも行くって言ってるわ」
「決まりだ。そうと決まれば行こうぜ!」
アライグマが右手を挙げて進もうとする。しかしクマはまだ歩けませんでした。
「どうしたんだ? 早く行こうぜ?」
「アライ君。あそこにはオバケが出るって噂だよ?」
「オバケだあ?」
根っこの広場は皆の広場。しかし森の奥は何が潜んでいるかわかりません。もしかしたら噂通りオバケがいるかもしれません。
「それに森の奥には……うわ!」
突然クマの足に大きな木の根っこが絡まり、転びました。キツネが近づき、慰めます。
「アライ君が転ぶのは知ってるけど、クマ君が転ぶのは珍しいわね」
「ふん! それより、オバケなんて出ないよ!」
「うう……。もし皆が怪我をしたらと思うと心配だよ」
泣きそうになりながらもクマは問い続けました。
そこにキツネが話しかけます。
「大丈夫よクマ君。私たち皆で協力すれば、オバケを退治できるかも知れないわよ?」
「キキィ!」
「リスちゃんも大丈夫って言ってるわ」
「……キツ姉さんが言うなら……」
転んだ時についた膝の泥を手で払い、立ち上がる。
「はあ。キツ姉さんの話は聞くんだな」
「ごめんよアライ君」
「いいさ。じゃあ行くんだな」
「……ボクの怖がりが直るなら」
そう言って、クマとアライグマとキツネとリスは、森の奥に進んでいきました。
☆
森の奥に進むと、そこには大きな川が流れていました。その流れはとても早く、凄まじい音が鳴っています。
「アライ君。やっぱり帰ろうよ!」
「またか!」
そう言ってアライグマはクマを叩きます。
「痛いよアライ君」
「軽く叩いただけだろ!」
「ダメよ。アライ君。友達を叩いたら」
いつもこうしてキツネはお姉さんとなり、喧嘩止めます。
「キツ姉さんはいつもオレ達の喧嘩を止めるけど、オレ達の事は怖くないのかよ」
アライグマは暴れん坊です。キツネと力を比べたら、アライグマが絶対に勝つでしょう。
クマも同じです。怖がりなクマですが、その大きな体はキツネよりも大きく、乗っただけで潰れてしまいます。
「怖いとは思わないわよ。だって皆、心の中は優しいもの」
「キキィ!」
リスは子供でいたずらが好きですが、キツネが大好きでいつも近くにいます。
「ふふ、リスちゃんも同じ事を思っているのね」
「リスの事も分かっていて、オレ達の事も分かっているなんて、ズルいよな!」
「そうかしら?」
「クマも見習えば、怖がりも減るんじゃないのか?」
突然クマに話しかけられ驚きます。
「ボクは別に……」
本当は知りたい。そう思ったクマですが、もちろんこの思いもキツネにはお見通しです。
「ふふ、簡単よ? 相手の目を見て、心を感じて、声を出すの。クマ君はいつも目を見ないで話すよね?」
クマは生まれつき怖がりで、いつもアライグマにからかわれていました。
クマはそのせいで怖がりが直らないと思い、それがどんどん大きくなって、今では目を見て話せなくなりました。
「ボクは……その……」
アライグマを見ようとするも、やはり目線は地面に行きます。
「はあ。早く直れば、もっと楽しいことができるのにな」
「悪いことはしてはダメよ?」
「わかってるよ」
川を沿って歩いて行くと、奥に何かが見えました。
「あれは……橋だ!」
とても強い勢いの川に唯一かけられた橋。それはとても古く、今でも壊れそうな橋でした。
「ボク、やっぱり帰りたいよ……」
「大丈夫だって! あの橋、見た目より丈夫だ!」
クマが震える中、それでも皆は歩くので、クマもあるくしかありません。
橋の目の前に到着し、橋の板の状態やロープを見ます。見た目は古そうですが、一人一人歩けば壊れることは無いかも知れません。
「先に行くぜ!」
「アライ君!」
止める暇も無く、アライグマはピョンと飛んで、橋を渡ります。
見た目よりも橋は安定していて、クマが乗っても大丈夫かも知れません。
「大丈夫よ。クマ君。君なら行けるわ」
キツネも応援し、クマは橋の前に立ちます。
橋はボロボロですが、隙間は殆どありません。
「クマ! 目を閉じて歩けば大丈夫だ!」
「無理だよ! だって……」
目を閉じると、そこには川の凄まじい音が鳴り響いていました。
「音が怖くて歩けないよ!」
「怖がりかよ! だったらオレが歌ってやる!」
そう言って、アライグマは大きく息を吸って、叫びます。
「くーまーはー。こーわーがーりー。だーけーどー。でーかーいー」
歌とも言えない大声に、キツネも少し呆れます。リスは耳をパタッと閉じています。
「キキィ」
「あれは歌では無いわね」
呆れていると、森からガサガサっと音を立てて、何かが飛んできました。
「なんだ今のは!」
飛んできたのは鳥でした。さっきの歌で驚き飛び出たのでしょう。
「あなたは?」
「私はコマドリよ。それよりさっきのは誰!」
「オレの歌だ! 悪いか!」
『ひどい!』
コマドリの通る声がアライグマに突き刺さり、アライグマは少しショックを受けました。
「歌って言うのは、こういうのだ! 『♪ー♪ー♪』」
声では無い音。それはきっとコマドリにしか出せない音で、その音はとても心地よかった。聞き入った皆は川の音など忘れて歌を聞いています。
歌が終わると、また川の音が聞こえました。
「待って、コマドリさん。もう一度歌ってくれませんか?」
「ん? 何で?」
「クマ君がこの橋を渡れなくて困っているの」
「橋を? 何をしに行くんだ?」
「オレ達はお宝を探しにドングリ池に行くんだ!」
「お宝……」
コマドリは少し考えました。
「そのお宝。私も連れて行ってくれる? 良いなら歌ってあげる」
「ああ! 頼む!」
「クマ君! コマドリさんが歌っている間に目を閉じて進むの!」
「う、うん」
そう言ってクマは目を閉じます。
「行くよー『♪ー♪ー♪ー』」
コマドリは歌い出し、川の音は不思議と聞こえなくなりました。
クマは深呼吸して歩きます。
一歩。また一歩。
何歩歩いたかはわかりません。
「クマ」
突如アライグマの声が近くで聞こえました。
「え、アライ君。迎えに来てくれたの?」
「馬鹿を言うな。クマがここまで来たんだよ」
クマは目を開けると、橋を渡りきってました。
「や、やったあ」
皆にとっては小さな事でもクマにとっては大きな一歩でした。
「ありがとう。コマドリさん」
「良いよ。じゃあ私達も行きましょう」
「キキ!」
そして二匹は橋を渡り、一羽は空を飛んで橋を越えました。
☆
橋を渡った先には、狭い通路がありました。
太陽の光があまり差し込まず、とても暗い道でした。
「怖いよ。アライ君」
「くっつくな。あつい!」
クマとアライグマはぴったりと歩き、キツネの頭にはリスが乗り、コマドリはその近くを飛んでいました。
「この変にはオバケが出るって聞いたよ」
コマドリの通る声がクマの耳に入った途端、アライグマに抱きつきます。
「わあああ! やっぱり出るんだ!」
「があああ! クマ! やめろ! 苦しい!」
「だ、大丈夫よ。きっと噂よ! 落ち着いて!」
クマがはっと気がつき、抱きついていたアライグマを見ます。
「わあ! ごめんよアライ君!」
「力は強いのに、どうして怖がりなんだよ……」
「力が……強いからだよ」
クマは理由があって怖がりになりました。
昔から力が強く、何でも壊してしまいます。
友達も傷つけるかも知れません。
だからクマは、物を持つときでも、怖がってしまうのです。
「そういう理由があったのね」
「へえ、私はこの声を歌に変えてから、楽しくなったよ?」
「声を歌に?」
「そう。最初は苦手な特徴でも、少し使い方を変えれば良くなるよ?」
「力を……違う使い方に……」
今まで持った物はすぐに壊れてしまいました。
しかしその力を別な使い方に変える方法とはなんだろうと考えました。
そんなクマが考えている中、突然リスが鳴き出します。
「キキイ!」
「どうしたのリスちゃん!」
「何か……見えるぞ!」
二つ赤く光る玉。
それは宙をゆらゆらと動き、不気味な動きをしていました。
「お、おば、おばけえええ!」
「そ、そんな! あり得ない!」
アライグマが叫び、その場でお尻をつきました。
キツネはあり得ないと何度も言って動けません。
「キュイキュイ」
「ダメだ。よく見えない!」
リスはキツネの後ろに隠れています。
コマドリは宙に浮く赤い玉を見るも、よく見えずにその場で動けません。
「……ボクにできること」
クマは。
クマは一歩歩きました。
橋を渡ったときと同じように。
クマはよく見ました。
相手と話すとき、いつも避けていた視線を、今度はしっかりと赤い光る玉を良く見ました。
クマは力を込めました。
物を壊すのではなく、友達を守るために力を使うと決めました。
クマは大声を上げました。
「そこにいるのは、誰ですか!」
その声は、森の奥まで強く響きました。
「えっと、ヘビです。食事中なのですが、何か用ですか?」
「ええ!」
全員がその場で転び、少し時間が経つと、今度は笑いがこみ上げてきました。
☆
「なるほど。ドングリ池に用があったのですね」
「はい。それで、ヘビさんはここに住んでいるのですか?」
「僕は色々な場所で色々な物を食べるのが好きなのです。食べ物を見るとこう……興奮して目が光ってしまうのです」
「そうなのですか……」
キツネとヘビが話している間に、アライグマはクマに近づきます。
「その、なんだ。見直したぜ」
「え……?」
「さっきのクマは、強かった。オレよりもな」
「アライ君」
「キキイ!」
言葉はキツネにしかわからないけれど、リスもその場で飛び跳ねています。どうやら同じと言いたいのでしょう。
「先ほどの声は歌にも通じるものがあったわ。今度一緒に歌わないかしら?」
「ボクが……歌……」
想像できない自分の姿に、クマは困ってしまいました。
「それにしても、キツネさんは先ほどのヘビさんの目に対してあり得ないと言ってましたが、どうしてオバケがいないと信じていたのですか?」
コマドリの通る声に、キツネが反応します。
「ふふ、根っこの広場には言い伝えがあるのよ?」
「言い伝え?」
「嘘を言うと、根っこの広場の木の根っこに足を引っかけ転ぶのよ」
「……あ! クマ、確か転んで!」
「キツ姉さん、知ってたの!」
「ふふ、言い伝えだから、信じてただけよ。でも、もう一つ分かったことはあったわ」
そう言って、キツネはアライグマを見ました。
「いつもクマ君にからかっていたアライグマ君は、本当はその怖がりを直したかったからよね?」
その言葉に、アライグマが顔を赤くする。
「そ、そんなことないぜ!」
「アライ君……」
「ち、違う! それは!」
照れるアライグマに、クマは少し泣き出した。
「ど、どうして泣きやがる! まだいじめて無いだろ!」
「うん! でも、いいんだ!」
嬉しいときも涙が出ると言うことをこのとき初めて知りました。
いつもはいじめられたときだけ。
でも、それ以外でも涙は出るのです。
「それで、ドングリ池はどこかしら?」
「それならさっき見ましたよ。あそこです」
ヘビが体をまっすぐにして、方角を刺します。
その先には……。
☆
「き、綺麗」
ドングリ池と呼ばれている池は、とても水が綺麗で、きらきらと輝いていました。
「キュイキュイ!」
リスが走り出し、池に飛び込みます。
「ああ、リスちゃん。もう……」
綺麗な水での水遊びは楽しいのでしょう。
そして、ふとアライグマは最初の予定を思い出しました。
「そうだ! お宝だ!」
「お宝?」
ヘビが質問をしました。
「オレ達はお宝の場所を探すために、このドングリ池に来たんだ!」
「お宝の場所を聞くために?」
「そう! おいクマ! オレ達も池に行くぞ!」
「う、うん!」
先ほどまでの怖がりはどこに行ったのでしょう。そうキツネが思いながらも近づいていきます。
「願いが叶う。私の願いは歌が上手に歌える事だけど、お願いは辞めておこうかしら」
「自分でやり遂げたい願いは、その方が良いかも知れませんね」
コマドリとヘビは池から少し離れた後ろの方で、クマ、アライグマ、キツネ、リスの姿を眺めます。
「えっと、どうすれば良いんだ?」
「分からないけど……えっと……」
「まずはリスちゃんを呼びましょう。リスちゃん。戻っておいで!」
「キキイ!」
パシャパシャと水しぶきを上げて戻ってきました。リスはキツネの頭に乗り、体を震わせて水を飛ばします。
「冷たい! もう、リスちゃんったら」
「はは、それで、この池に何をすれば……」
四匹は同時に池を眺めます。
すると池には、虹色に輝く輪が、皆を囲っている光景が映っていました。
「虹が、ボク達を……?」
「でもよく見ろよ。オレ達がいつも見ている虹は逆向きだぜ?」
そう言って全員が空を見ました。
見上げた空には虹がかかっていて、それが池にも映っていました。
ただし、池に映っている虹だけは逆に移っていて、クマたちを囲っている様に見えました。
「ふふ、そういうことね」
「キツ姉さん。何かわかったの?」
「ええ。お宝って、このことじゃ無いかしら?」
虹で囲まれた四匹の姿。それは何にも変えられないお宝であり、簡単に見つけることはできないモノだった。
四匹が互いに目を合わせ、笑い出す。
いつも一緒にいる友達だったけど、苦難を乗り越え、ようやく色々とわかり合えた瞬間だった。
「でも、キツ姉さん。どうしてお宝がこれって分かったの?」
笑顔を見せ、キツネは話し始めます。
「この森の名前は、『逆さ虹の森』よ? 普通の虹が見えるところはこの池の中の虹しか見えないもの」
了
初めてのイベント参加ということで、緊張しております。いとです。
私の思う童話像を描いてみたのですが、いかがでしたか?
いくつか考察点を設けた話や伏線を盛り込んだ話でもあるので、気がついていただければ嬉しいです。