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ダンジョンと呼ばれていた地下街が本当にダンジョンだったんですが…

作者: 島 一守

 「世の中には二種類の人間が人間がいる」


 この言い回しを初めて使った人というのは誰なんだろうと思うときがある。「二種類”しか”いない」と早とちりする人間と、そうでない人間。そんな風にYesかNoで分けられるものであればどういったことにでも使える言い回しだ。いや、正確には「早とちり以前に言葉を理解できない無能」という枠があるのかもしれないが、個人的な意見を述べるのであればそいつらを”人間”の枠に入れてやるのは酷な話だろう。


 なぜそんな事をぼんやりと考えているかと言えば「セットのポテトが少ない事に文句を言う人間とそうでない人間」の前者に、かれこれ10分ほどグチグチと人格否定をされているからだ。クレーマーという人間は二つに分けるまでもなく「世間から相手にされない寂しい人間である」と俺は認識している。なぜなら店員に文句を言うより、友人や家族に「ポテトがとっても少なかったの! ひどいと思わない!?」と話を盛りに盛って愚痴れば、上辺だけの共感や同情を受けられるからだ。まぁ、周囲が正常な人間ならば、結局は孤立していくことになるだろうけれど。


堀口ほりぐち君、お疲れ様。災難だったね」

「お疲れ様です。いつもの事なので慣れましたよ」


 先ほどのネチネチとクレームを入れるババ……もとい”奥様”は、いつも俺に突っかかってくる。おそらく旦那にも相手にされない、子供も反抗期という残念な家庭環境が原因だろう。しかし、構って欲しくていじわるするのは小学生で卒業しておいて欲しかったものだ。今からでは性格も変えられないほどに偏屈になっているだろうから、人生から卒業するまであのままなんだろう。


「面倒な人の相手もこなせるから助かる」と言われるが、うまくいなしているという訳ではない。この世界があと数年で終わると理解しているから何も感じないだけだ。

 世界の終わり、それが発覚したのは高校二年の、もうすぐ訪れる夏休みにわくわくしていた頃だった「月が地球に落下してきている」そのニュースは連日放送され、色々な学者や政治家がかわるがわる見解を述べていた。

 しかしそれも長くは続かず、もしくは誰かの意図なのかもしれないが、深夜のラジオ番組で使われる程度のゴシップネタ扱いとなった。一連の流れを直に見ていた俺としては、大きな違和感と世間に対する不信感のみが残った。

 その違和感と不信感は膨らみ続け、俺はネットの中に答えを求め何日も彷徨った。今思えばそれは迫り来る滅亡から目を背けるためであったし、進路の悩みもその時だけは忘れる事ができた。つまりただの現実逃避だったわけだ。


 そういった中見つけた納得できる答えが「世の中には二種類の人間が居る。それは終末を理解できる人間と、そうでない人間だ」というものだ。

 実際に俺の周囲にも理解していない、というよりは感知できないと言ったほうがいいだろうか。そのような人間はいた。むしろそういった人のほうが多数派で、話として”月の話”を振れば答えるが、それ以外の時は全く気にしていない、もしくは記憶に無いようなそぶりを見せるのだ。

 どういったそぶりか、それは”理解している人間”を見たほうが分かりやすい。話をした後、しばらくしても不安げに空を眺めたりする相手は”こっち側”だ。


 そしてその”納得できるが確証の無い答え”がほぼ事実であると確信できる数字があった。それは進学率だ。

 勉強というのは将来への投資だ。ならば進学率というのは投資家の率とも言えるだろう。未来がないとなれば投資するバカはいない。つまり”認識できる人間”は進学しないという選択肢を取る可能性が高いと言える。勉強するくらいなら最期の時を好き勝手生きたいと思うだろうからね。

 事実その通りになり、俺の一年上の学年は進学率が65%程度にまで落ち込んだ。通っていた高校は進学校と呼ぶに十分な学校であり、通常であれば97%程度の進学率だったのだから、かなりの影響があったと言っていい。もちろん直撃の学年だったからというのも大きく、俺の学年であれば進学率は78%まで回復していた。

 この数字から読み取れる事は「認識できる人間は2割程度、もしくは認識できているが様々な理由から進学する者を含めればもう少し多い」という事だ。なるほど、この程度の視聴者しか取れないのであればテレビで報道しないのも納得だ。

 テレビと言えば進学率の低さを問題視した大学が、二年の三学期時点で推薦入学生徒を決定する制度を始めたとかなんとか言っていたな。それだったら俺も進学したかもしれない。高三の一年間を受験ではなく遊びに使えるなら悪い話ではない。まぁ俺の学力で推薦が取れたかどうかは別だけど。


 そんなわけで俺自身も”認識できる側の人間”であるために、進学する事無く今はファーストフード店でバイトしながら好き勝手生きるフリーターをやっている。地下ダンジョンと称される地下街は多くの買い物客や学生が訪れる。仕事は少し他の店舗より忙しいし、ちょっと変わったお客様に当たってしまう事も「まれによくある」というやつだ。

 しかし、それでも空が見えないというのは俺の精神衛生上都合が良かった。日々少しづつ大きくなってゆく月が一日中見える地上店舗は耐えられる気がしなかった。


 それに今日はクレームババアが居たけれど、女子高生二人が俺の事を「イケメン」と噂しているのが聞こえたので機嫌よく仕事ができた。立ち聞きしたわけじゃないよ? ただその子の声がよく通っていて聞こえてしまっただけなんだ。店から出る時ももう一人の発育のいい……ええ、胸の発育の話。男だからそこに目がいくのはしかたないよね。まぁその発育のいい、うん二回言うのは大事な事だから。あとショートカットでちょっと目つきの悪い、キツめの顔した女子高生にじっと見られて、今日はいい日だななんて思っていたくらいだ。


「お先に失礼します、お疲れ様でした~」


 時刻は午後三時、交代で入った夕方勤務の大学生に、少し大学生活なんかの話をしたあと帰路につく。話を聞いてしまうと、進学も悪くなかったな、と思う。けれど授業に出て、バイトして、遊びに行ってとなかなか忙しいようだ。バイトも今は夏休みだから多く入っているようだけど、やっぱり普段はお小遣いに余裕が無いらしく羨ましがられる。

 どんなにお金があったって、月が落ちてくれば全て無駄になるのだけどね。


 そういえば掲示板では月の落下を止める方法を真剣に議論していたな。核ミサイルで砕く方法とか、レーザービームを当てて軌道を変える方法とか、もしくは落下自体はあきらめて落下地点の裏側にシェルターを作るとか。

 こんな所で議論されているような事は既にお偉いさん達が済ませているだろうし、どの方法も質量が地球の四分の一もある衛星にとっては、何の影響ももたらさないであろう事は多少の物理知識があれば分かる事だろう。手段としては宇宙へ逃げるしかないし、全人類を逃がす事など不可能。さらに言えば逃げたところでどこに移り住むというのだろうか。もはやその方法すらもとりあえず生き延びる、問題の先送り程度のもので解決法とは言いがたい。


 いつもの帰り道、そんな事を思い耽る俺を残し、地下街の雑踏が遠くに聞こえて、俺だけが置いてけぼりになっているように感じた。「はぁ……」と小さいため息と共にドアノブに手をかける。考えても仕方がない事、けれど”理解している側”であれば逃れられない思考の袋小路だ。反対側の人間であれば、どれだけ楽だっただろうか。けれどもそれは叶わぬ望みだし、時間は止まらない。今日もまた一歩と終末に向かって歩むしかないのだ。



 そして一歩踏み出した先、そこにはいつも通りの帰り道とはかけ離れた光景が広がっていた。



 なんと表現するべきか、黄色い岩でできた通路と壁、それを照らすのは簡素な棒切れに灯る炎。石の種類なんかは分からないけれど、ピラミッドに使われている石のように見える。もちろんピラミッドなんてテレビで見た事しかないけれど、テレビ越しに見るピラミッドの内部のようだと感じた。

 通路はそこそこ広く、幅は目測5メートル程度か? 明かりに松明があるので見通しは悪くないけれど先は丁字路のようで、左右に分かれていて何があるのか見通せない。


「……いや冷静に観察している場合じゃないな」


 誰かに話しかけるわけではないが、言葉にすることで少し落ち着けた。俺は元来た道を帰ろうとクルリと、キレの良いダンスのごとく回れ右をした。


「あぁ、うんうん。パターンだよね、ゲームとかでは。いやちょっとまて! なんで通ってきたドアがないんだよ!!」


 今度の独り言も落ち着くためだったのだが、むしろそれは現実の再確認になってしまい失敗に終った。一人ボケ一人ツッコミ、そういえば漫才をボケとツッコミ一人ずつに分けて放送して番組があったな。あれ面白い時と意味不明な時があるんだよな。などという現実逃避も、今はあまり有効だとは言いがたかった。


 戻る事ができない、ならば進むしかあるまい。ゆうに10分ほどウロウロとその場を小さく回りながら考えた結論は、誰もが思いつくものだった。まぁ、俺が天才的な発想に至るとは俺自身思っていないのでそれはいい。ただ10分も考えるフリをしていたかっただけなのだから。そう、それは高三の進路調査の時に真っ白な調査票を放置して、ネットで情報収集していた時と同じだ。


 「なんで俺がこんな目に」なんて呟きながらも、とりあえず進む事にしたが、この先がどうなっているかは分からない。とりあえず松明を1本抜き取って持っていこうと思い立つ。最近やっているゲームでも松明は重要だったからね。松明に手を伸ばしたとき違和感に気付く。この炎熱くない。

 考えてみればおかしい。こんな密閉された空間に、松明が見えるだけで8本ほどあるのだ。ならばこの部屋はストーブを焚いたように暑くなるはずだし、何より空気が薄くなっているはずだ。なのに炎は消えるどころか、息苦しさを感じる事もない。


 『見覚えの無いドアがあってね、それをくぐると遺跡に繋がってるんだって。それでそのまま迷って行方不明になった人が、例の神隠し事件の被害者なんじゃないかって噂なの』


 ふと昼時に来た女子高生の噂話を思い出す。例の発育のいい子ではなく、その友人で声の良く通る方の子が言っていた噂話。ドアをくぐると遺跡、そして最近よく小説のネタにされる、神隠し被害者が異世界で冒険する内容。「いや、まさか……」と言いたくなるが、今まさにその状況だ。

 もしその噂が事実だったとしたら、それは俺が異世界に迷い込んでしまった事になる。そしてこの熱くない松明は魔法の松明? 魔法で照らすなら松明よりランプ型の方が使いやすそうなのに……雰囲気重視なんだろうか。


「考えても仕方ないか」


 諦めと松明を握り締め進む事にした。最初の丁字路、右に曲がるか、もしくは左? その前にここが異世界だとするならば、モンスターの出現なんて事もあるよな? ここは警戒して、そっと壁の影から先を覗いてみよう。

 そ~っと顔を出した先、右へと続く通路には同じように松明が等間隔に並べらていた。とりあえず敵らしきものは居ないようだ。ってよく考えたら頭出したら、そこを撃たれるのがFPSゲームの常識だろう。鏡で確認するとか、もしくは一瞬だけ顔を出して引っ込めるのが、ゲーマーとしての最適解のはずだった。まぁ今回は運が良かったので助かったけれど、今後はもっと気をつけよう。


 では次は左側……と後ろを振り向いた時、ソレはすでにこちらに向かってきていた。

 黒い髪、金色の瞳、そしてガッチリと筋肉で覆われた太い腕。それだけでなく、上下皮製であろう服越しにも分かるほどの全身の筋肉。例えるならレスラーのような体型。もちろんレスリングを生で観た事がないのでテレビ情報だ。その男、いや多分男? 男だと思うけどどうなんだろう? はのっしのっしとこちらにゆっくり近づいてきている。

 なぜ男かどうか悩んだか、それは彼? おそらく彼? 多分十中八九彼と呼ぶべきソレが、頭髪と同じく立派なタテガミを生やし、かつ鼻と口の部分の骨格が出っ張っており、いわゆるマズルと呼ばれるそれになっている。そして耳は側頭部より少し上にぴょこっと出ているのだ。

 分かりにくいな、つまりは獅子型の獣人であるって事だ。はじめからこう言えばよかったんだけど、異世界疑惑があるとは言え、いきなり「わ~! 獅子獣人さんだ~! もふもふさせて~!」なんてなるわけがない! あっ、獅子型ならばタテガミがある時点で男確定か。


 その金色に輝く目は俺を完全に捉えており、あと数十メートルという所まで迫っていた。

 この場合俺がとるべき行動はどれか。1番、友好的である事を信じて助けを求める。2番、「食べないでくださ~い」と懇願こんがんしてみる。3番、逃げる。うん、3番しかないでしょ!


 俺は現実逃避の三択クイズを早々に切り上げ、全力で右の道へと走り出す。同時に獅子獣人は追いかける。そりゃそうだ、完全に俺をロックオンしているのだから、逃げたら追う、それが自然というものだ。つまり俺は、今日の晩御飯にぴったりだと認識されているようだ。


 道は幾度か折れ曲がっており、その先もずっと松明が用意されていて明るかった。地面も障害物やデコボコが無く走りやすい。これで宝箱があって、さらに追いかけられてる状況じゃなければ楽しめただろうな。そんな事を考えるのも辛くなってきた。高校卒業してからは部活もなくて、家でゲーム三昧だったからかなり体が鈍っていたようだ。いまや神速の堀口なんて呼ばれた頃が懐かしい。


 そんな俺を追う獣人もかなり足が速いようで、じりじりと差を詰められてしまう。しかし小回りは効かないようで、通路を曲がる時の若干の減速のおかげで追いつかれずにいる。それにしてもあの筋肉質で見るからに重そうな身体なのに、なぜもここまで速いのか。それが獣人というものだと言われればそこまでだが。


 しかしこのままではいずれ疲れて走れなくなる。そうすれば俺はあの獣人の晩御飯へ一直線だ。何か逃げ切れる方法を……そうだ!こういう遺跡って言うのは罠や隠し通路がつき物だよな!どこか怪しそうな場所、壁にある隠しスイッチとか何か無いのか!?

 走りながらも壁を見るも、何かそれらしき物は見当たらない。そりゃそうだ、隠しスイッチが見ただけで分かるならそれは隠しスイッチじゃないしな! とりあえず行動あるのみ! 手当たり次第触ってみよう! 鬼が出るか蛇が出るか! この言い回しってどっちにしろダメっぽいけどな!


 触れた先、石積みの中のちょうど手のひらに納まりそうな、少し膨らんでいる石。男ならなんとなく惹かれてしまう、控えめな膨らみを持つ石だった。その石に触れると青白い光を放ち、周囲の石積みが人が一人入れる程度の範囲で、ゴロゴロと音をたて崩れ去った。


 先は松明もなく全く先が見えない。先に何が待ち受けるか、それを考えると足がすくむ。けれどこのまま進まなければどの道アウトだ。俺はその先に何か解決の糸口があると信じ飛び込んだ。



 暗い遺跡の中、それは今までとは打って変わって、地面は苔生し、壁は一部崩壊して石が転がっている。とても走れるような環境ではなかった。けれど進むしかない。できる限り先まで見通せるよう、松明をかかげ進む。


「そういえば、ゲームでは明るい所には敵が沸かないけど、暗いところは敵だらけだったりするんだよな」


 そんな思考を読んだのか、もしくは「ご要望にお答えしてお相手しましょう」などと考えているのか……。何かがこちらへとやって来るのが松明の明かりにぼんやりと浮かび上がる。それは白く、カランカランと音を立て、ゆっくりとこちらへ向かってくる。


「げっ!スケルトン!?」


 思わず声が出たが、それが非常にマズい事態に繋がると気付き、さっと口を押さえた。まぁ今さら遅かったんだけど。

 俺の声で獲物がいる事に確信を持った骨のモンスター、スケルトンは先ほどまでのノロマな動きが嘘のように襲い掛かってくる。最悪の状況だが、救いがあるとすればゲームと違い、この骨っこ達の攻撃手段が弓でない事だろう。しかも剣を持っているわけでもない。ならば攻撃手段は噛みつき攻撃か? それはゾンビの……なんて考えると出てきそうなので止めておこう。ゾンビになんて追いかけられたら今日の晩御飯が喉を通らなくなりそうだ。無事に晩御飯にありつけるか、もしくは俺が晩御飯になってなければの話だけれど。


「さて、前には自走式骨っこ、後ろにはおっきな猫。コレは詰みというヤツなのでは?」などと冷静に考える暇は与えてくれそうに無い。けれど先ほどのスケルトンの動き『俺の声を聞いて動き出した』その事から、少なくともこいつらは目は良くないと考えられる。そしてどういう原理かは分からないけれど、本当に骨のみでできている。腐敗した筋や、何か接着剤のようなものがくっ付いているようではない。つまり、かなり脆いのではないだろうか?その二つの仮定から導かれるのは「レスラーみたいな獣人相手するよりも、こっちの方が勝ち目あるかも」という答えである。


「一か八かやってみるしかない」そう自身を奮い立たせ、何本か抜けてしまっている歯をカタカタといわせながら向かってくる、カルシウムのカタマリと対峙する。

「狙うはそこっ!」直線的な、能の無い動きのスケルトンをするりと軸足の回転でかわし、そのスネを蹴り飛ばす。見事にクリーンヒットした脛骨けいこつは獣人が迫っているであろう方向に飛んでゆき、闇にその姿を消した。


 足の骨を失ったスケルトンはと言えば、バランスを崩し倒れ、まるでパズルのように全身の骨がバラバラに散らばった。俺はと言うと上手く蹴り上げられたのは良かったものの、ボールと違いその骨の予想外の硬さに、まるで箪笥たんすに足の小指をぶつけた時のように、片足で跳ね回り痛みと戦っていた。


「痛ってぇ……けど勝てたみたいだ」少しの安堵、けれどすぐに獣人が迫っている事を思い出し、足の痛みに耐えながらも先を目指し歩きだした。しかし……。


「嘘だろ……」


 その先に待ち構えるのはゾンビ……で無かったのは不幸中の幸いか、再びスケルトンであった。しかもそれは一体ではなく、明かりに照らされている分だけで3体。これは戦える数じゃない。さっきの作戦で戦うにしても、蹴りを入れる間に他の2体に襲われる。その上一撃入れるだけで俺の足は悲鳴を上げている。それに状況から考えて、見えている3体だけではないだろう。さて問題です、明らかに攻撃力の高そうな獣人1体と、何体居るかも分からないスケルトン、相手するならどっち!? はい、どっちも相手したくないですし、相手したら死んでしまいます!


 とりあえず先のスケルトン戦でわかった事、おそらく相手は目が悪い。いや、眼球がない骨なんだから当然なのかもしれないが、その分音で位置を特定しているようだ。耳もないのにどういうことだろう? 骨伝導というやつだろうか。ともかく音を立てず、ゆっくりと、熊に遭った時の対処法のように、じわりじわりと目をそらさず、えっとあと何か注意する事あったっけ? とりあえず後ろへ、後ずさりするんだったような気がする。

 そろり、そろり。スケルトンに居場所を確定させないよう音を立てず引き下がる。そしてスケルトンの姿が松明の明かりの範囲から抜けようとしていた時、ぽふっと背中に、何かふわふわなモノが当たる感覚がした。


 おそるおそる振り向けば……そこには先ほどのスケルトンの骨をかじりながら俺を睨む獅子獣人の姿があった。ここは「取って来いをできるとは実は犬獣人さんですか?」なんて冗談でごまかすか、もしくは「もう晩御飯を召し上がったようで、おなかいっぱいですよね?」とかそういう流れで……。


「食べないでくださ~い!」


 考えている事は全て吹き飛んだ。全力の懇願こんがんと共に頭を抱えてうずくまる俺。


「大声を出さんでも食べんわ!」


 そう言って俺の首根っこを掴み、ヒョイと背に隠す。


「そこでじっとしとれ。今こいつらを片してやるからの」


 その言葉と共にスケルトンの居る闇へと姿を消す獣人。そして聞こえるカランカランという骨の音。そして次第にバキバキと、まるで角材でもへし折るような、聞くだけで自身の骨が砕かれているようで、全身がムズムズしてくる殺戮の音が聞こえてくる。

 何をしているかは想像は付く、というか想像もしたくない。闇の中では骨たちを砕いているのだろう。


「終ったぞ、後はお前だけだ」

「食べないで……ください……」

「だから食べたりせんと言ってろう」


 先ほどと違う骨を齧りながら戻ってきた獣人は、涙目になりながら哀願あいがんする俺に、あきれたように答える。いや「後はお前だけ」とか「まだ食べ足りない」と言ってるようなもんじゃないですか……。


「そう怯えるでない。俺はここの管理をしているレオンだ。ときたまやってくるお前みたいなヤツを、元の場所へ返す仕事をしている。しかし、お前のようにすばしっこいヤツは久々だったぞ。手こずらせよってに。それに我があるじと同じ能力ちからを持っているとはな」

「え? 元の場所に返す仕事? 元の世界に帰れるの? それに能力ちからって何?」


 なにやら意味ありげなことを言う獣人に、恐怖心よりも興味がまさってきた。もちろんこの獣人が敵でないと分かったからというのも大きいけれど。それにしても、その怖い顔だったら普通は逃げると思うんですよ。しかもものすごい足速いし。あ、だから普通の人なら追いつけるから、元の場所に返すのも苦労しないって事なのかな。


「気になる事は歩きながら話そう。ここは明かりだけでなく結界も張ってない場所だからな、長居できる場所じゃない」


 獣人は俺の持っていた松明を受け取り、俺の手を引き、来た道を戻りながら話をしてくれた。

 どうやらこのダンジョンは異世界ではなかったらしい。しかし魔法で拡張された空間であり、実在する地下街とは別の空間、亜空間とでもいう場所だと言う。そしてその亜空間は全て把握されておらず、レオンのあるじはその亜空間同士を繋ぐ能力ちからを持ち、ダンジョンの整備を行っているとのことだった。

 そして同じ能力ちからを持つらしい俺は、スケルトンの居た亜空間を繋いでしまい、危機に陥ったとの事だった。つまりあんな危ない目にあったのは、俺の自業自得だとレオンは言いたいようだ。それならそうと、最初から言ってくれればよかったのに。


「普通のヤツなら他の空間と繋ぐ事なんてできないからな。安全なダンジョンで鬼ごっこなんて、ちょっとした思い出にもなるだろうに」


 思い出じゃなくトラウマになるからやめて欲しい。というか、たまに言葉遣いが変な感じがするのは獣人特有の喋り方なんだろうか。


 「それじゃお前を元場所、チカガイへ返す。特別な能力ちからを持つお前がまた迷い込まないように、ちょっとしたお守りを持たせてやろう。直接亜空間へ迷い込んだら助けられねえからな」


 そう言ってレオンは自身のタテガミを一部切り、俺の手首に巻いてくれた。それは滑らかな毛質で、三つ編みにされた黒いミサンガのようであった。


「外の世界は色々とあるらしいが、スケルトンにすら立ち向かったお前だ。最期の時までお前らしく、何事にも折れず生きていけるだろう。もしまた迷ったら、俺のところまで来い。話くらいは聞いてやる」


 彼はニッと笑い、そこで俺の意識は途切れた。



 ◆ ◇ ◆ ◇ ◆



 俺は地下街の噴水広場のベンチで気が付いた。周りはすでに人もまばらになっており、水の流れる音だけが心地よく響いている。


「えっ?夢オチ?」


 そう呟きまだ少し眠い目をこする。その手首には黒いミサンガが巻かれていた。

ゲーム三昧っていいですよね。島 一守です。

最後まで読んでいただきありがとうございます。

つながるひろがる短編集?第6弾ですね。

死に設定になりつつあった月の話がメインになってます。前半だけ。

そして前回に引き続き「三分除毛」で出てきた人が主役ですね。


今回は斜に構え毒を吐く主人公が人生とダンジョンに迷うお話ですね。

人生に迷ってる感はあんま無いかもーと今にしては思いますけど

漠然とした不安って目に見える不安に置き換えて押さえ込んでる人って多くないですか?

そうでもないですかね?まぁ俺自身はあんまり不安がないというか

「どうせ人間いずれ死ぬんだし悩んでる時間もったいないじゃ~ん?」

な思考してるので「どーとでもなれー☆」と全てを諦める事にしてます。


そんな人が書くキャラだからこんな性格になっちゃったんだろうなぁ。

さてさて次回ですが、9月26日(水)に投稿予定です。

内容はもうネタが尽きたのでどうしようか唸りたいと思います。

もしかすると最後の総仕上げって事でエッセイでも書くかも?

予定は未定。未定ってことは無いかもしれない。


ではでは、次回もよろしくおねがいしま~す!  (カズモリ)

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― 新着の感想 ―
[良い点] 「なろう」トップの新着短編コーナーから参りました。 本作のみ拝読しました。 異世界に迷い込んでからの疾走感が気持ち良いです。 序盤との緩急が良いアクセントになっていると思いました。 迷い…
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