酒祭り
僕の住む町である 中島市 三城町は、 美味しい日本酒が、造られる酒どころとして、全国的に有名らしい。
だけど、今の僕は中学生。お酒は20歳から。だから関係ないって思ってたんだけどねぇ。
事の始まりは、九月末のとある昼休み。給食が終り、睡魔に襲われる魔の五時間目までの一時の自由な時間をいつものように、僕は唯花とお喋りして過ごしていたんだ。
「 酒祭り?」
「 うん。毎年十月第二週の土日にあるの 私とミズキ それと高橋の3人で 行こうかなって。どう?」
と唯花は、ニンマリと笑った顔で言ってくる。
うわー、唯花。夏休みの映画に行った時の事知ってるから、高橋くんと僕がくっつかないとか思ってるんだ。
「 中学生が 行っても平気なの?」
確認の意味で訊きましたアピールと見せかけて、実は行かないよっての匂わせたつもりだ。
だって唯花が一緒でも、高橋くんと一緒に行くとか無理だよ!
映画とか買い物と違ってさ、何したらいいかよく分かんないだもん。お祭りだからって、騒ぎ過ぎて引かれちゃったら嫌だし、かと言って、大人しくしてるのも、同じくらい引かれるだろうし、だから行きたくない。あーでも、行かないと後悔するよねぇ?という僕の気持ちは、唯花には、お見通しなんだろう。あっさり切り返えされたし。
「 平気だから 誘ってるんだよ。ほら 三城駅 周辺に 食べ物の屋台もでるし 酒蔵めぐるスタンプラリーとかあって面白いんだから。ねっ行こ?」
と最後の駄目押しだ。 仕方ない。そこまで、言われちゃ敵わないな。
「わかったよ。行くよ」
「んふふふ。わかった。高橋には、私から話しとくね」
唯花は、椅子から立ち上がるやいなや、フフ〜ンと謎の鼻歌を歌いながら、高橋くんの所へと去っていった。
酒祭り当日。
「 やっぱり恥ずかしい」
本日のコーデは、白いカッターシャツの上に黒のパーカー、グレーのミニスカート、そして 黒のニーハイソックスという出で立ちだ。
いつも 膝より少し上くらいのスカートは、穿いても、ミニスカートは、穿かない。恥ずかしい。
ちなみに今朝、このスカートを穿く穿かないで、唯花とすったもんだを繰り広げてたんだ。そこに、茜姉さんまで加わったもんだから、結局穿くはめになっちゃった。
「……本当は生脚がよかったのに ミズキが露出減らしたいっていうから。絶対脚出したほうがいいのに」
唯花のおっさん的発言は、スルーし、僕は 唯花に早く行くよと促す。
高橋くんとは、三城駅のバス乗り場で、合流する事になっている。
早く行かないと、時間になってしまう。
「いつまで 私の後ろにいるつもり?観念して 出て来なさい」
バス乗り場に着いた僕は、唯花の後ろに 隠れてたんだけど 唯花に 無理矢理前へ 出される。
僕を見た高橋くんが 固まってる。やっぱり変じゃないか。
僕が そう思って 下を向いてると
「 あの その 似合ってる ミズキ に うん」
「 ありがと ね 今 ミズキって言ったよね?」
高橋くんは、しまったって顔してるけど なんか嬉しかったから
「 佐藤より いいかも ミズキって呼んでよ。そのかわり 僕も 健人くんって呼んでいい?」
「 おう いいぜ」
健人くんは、照れくさそうに 返事した。
その隣で 唯花が ガッツポーズをとってるのが 気になったけど。
それから 3人で 酒蔵をめぐるスタンプラリーに 挑戦した。
未成年なので 当然 お酒の試飲は、出来ないけど お酒の仕込みに使われるお水を飲めた。
同じお水でも 酒蔵によって 味が 違うような気がした。
酒蔵の中では、 お酒を使ったスイーツや手作りの 雑貨を売ったりしてるところもあったりした。スイーツは、少々高いので 買えなかったけど、手作りのストラップが 気に入ったので、買った。 ちょうど 携帯電話に付けてたのが壊れて困ってたし。
「そういや ミズキって もうすぐ誕生日だったよね 十月十日 だっけ ?」
「 うん そう …13歳になる 」
「 ほれ ちと 早いけど プレゼントじゃ 受け取ってくり」
「 うん ありがと」
少し 複雑な 気分で受け取る。
「 なんじゃ その顔は。ははーん 本来の年齢 気にしてる?ミズキは、13歳。OK?」
唯花は、グリグリ頭をなでまわしそう言う。
「 わかったからやーめーてー 髪ぐしゃぐしゃになるから 朝 せっかく苦労して 寝癖なおしたんだから」
「なら よろしい!」
唯花は、なでわますのを辞めてくれた。
トイレに行ってた健人くんが 戻ってくるなり、小さな 猫のマスコットを手のひらにぽてんと置く。
「ミズキが前に猫 好きって言ってたから やる」
「ありがと 大事にする」
僕は、笑って お礼を言った。
そのあと 僕達は、駅周辺の屋台で 買い食いしまくった。
ただ、楽しい時間は、あっという間に過ぎていく。もう帰る時間である。
「 今日は、楽しかったね」
「来年も 来ようねー」
唯花とそんな会話をかわして 帰ろうとすると 唯花が
「高橋。ミズキを、送ってけ」
と言ったので 健人くんと2人で帰った。
ただ、照れくさくて ほとんど喋れなかったけど。
「じゃ また 学校で」
「おう またな」
結局 挨拶して終わった。もう少し しゃべればよかったと 夜 布団の中でむちゃくちゃ後悔した。




