#53 夜の賄いで、鰹のたたきをみんなで
夜の賄いで、みんなに鰹のたたきを食べていただきますよ。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
※いつもより少し短めになりました。ごめんなさい( ̄ω ̄;)
さて、夜の賄いが出来上がり、食堂の従業員が揃うテーブルにはパスタや肉料理、カルパッチョにポトフ、パンが所狭しと並べられ、それらの中に鰹のたたき。
カットして皿に盛り、軽く塩を振って、玉ねぎとにんにくのスライスを添えている。
「ねぇ、これ何?」
メリアンが鰹のたたきを指差す。
「鰹だって。表面だけ焼いてあるんだってさ」
カリルが応える。
「え、鰹? この前クリームのパスタにも火が通ったの入ってたよね。オリーブオイルで煮たやつだっけ。あれとはまた違うの?」
「また違うんだよ」
壱が言う。
「俺たちの世界、と言うか国の食べ方。たたき、って言う調理法なんだ。表面だけに火を通してあるんだよ。口に合うと良いんだけどな。塩振ってあるから、好みで玉ねぎかにんにくと一緒に食べてみて」
「あらぁ、これ、にんにくは生なのね。あまり生で食べる事って無いからぁ」
マーガレットがやや驚いた様に言う。
「匂いが気になるかな。でも鰹のたたきには生のにんにくが合うんだ。玉ねぎでも美味しいよ」
「あらぁ、そうなの〜。じゃあにんにくと一緒に頂いてみるわね〜。乙女としては匂いは気にならない訳じゃ無いけど、やっぱり乙女は美味しいものに眼が無いのよねっ」
マーガレットは楽しそうな笑顔で言うと、早速鰹のたたきを1切れ小皿に取り、にんにくスライスを乗せ、大きな口を開けて放り込んだ。
カリルやメリアンたち、鰹のたたき未体験の従業員が固唾を飲んで見守る中、マーガレットは味わう様にゆっくりと口を動かして行く。そしてやがて感動した様に眼を見開くと、口に左手を添えた。
「……美味しいわぁ!」
「そうなの!?」
メリアンが意外そうな声を上げると、マーガレットは幾度と頷く。
「微かに鰹の臭みみたいなのが感じられはするのよぉ。でも焼いた所がとても香ばしくて、にんにくも凄く合っていて、苦手だった筈の臭みが良い味わいになっているのよぉ。これは凄いわぁ。この前のツナ? あれも美味しかったけどぉ、これもとても美味しいわぁ。イチたちの世界って凄いのねぇ。鰹にもいろいろな食べ方があるのねぇ……」
マーガレットが恍惚とした表情で眼を細めると、我も我もとあちらこちらから鰹のたたきにフォークが伸びた。壱もそれに混ざって、サユリと自分の分を確保する。
「はい、サユリも食べてみて。生のにんにく大丈夫?」
「問題無いカピ」
サユリの小皿に、にんにくスライスを乗せた鰹のたたきを置いてやる。サユリはまず鼻を近付ける。
「ふむ、確かにまずは香ばしいカピな」
「表面焼いてるから、多分その香り」
「けど、やはり良く嗅ぐと生臭さも残っているのだカピな」
「中は生だからね」
「ふむ」
しかしサユリは渋る様にそう言いながらも、にんにくごと鰹のたたきに齧り付く。ゆっくりと咀嚼し、焦らす様に間を開けて、大きく頷いた。
「マーガレットの言う通りだカピ。これはありだカピな。悪く無いカピ」
サユリの反応に、壱は安堵の息を吐いた。
「サユリがそう言ってくれるなら安心だな。実はこのたたき、もっと美味しく作る方法があるんだよ」
「ほう、それは興味深いカピな」
サユリが鋭く眼を細める。
「藁に火を付けて、その炎で表面を炙るんだ。この村、麦育ててるだろ。もうすぐ米も作るし。その藁を貰えて、環境さえあれば、もっと美味しいたたきが作れるよ」
「その環境とはどう言うものカピか」
「ええと、ドラム缶とか、いやこの村では見た事無いか。四方を囲った耐熱の空間で藁を燃やしたら良いのかな?」
「なら、裏庭に耐火煉瓦か石で組めば良いカピ。耐火煉瓦も作れるカピよ。少しならストックが陶製工房にあった筈カピ」
「そっか。じゃあじいちゃんに言って、陶製工房に聞いてみるかな。藁焼きのたたきは本当に美味しいよ。これとは比べ物にならないぐらい」
元の世界で行った高知料理の居酒屋で頂いた藁焼きのたたきの味を思い出し、壱は眼を細める。
壱たちの世界でも、そういう専門店でも無ければ、なかなか食べられないものだった。
「ほう、それは楽しみカピ」
サユリはまた鼻を鳴らす。これは嬉しい証拠と見た。
陶製工房と言えば、擂り鉢を作って貰わなければ。これも底の溝の彫り方などを調べて、紙に写して。
絵心がある方では無いが、どうにか出来るか?
藁を焼く場所はどうにかなるとして、鰹を炎の上に翳すのに、金属製の長い串が最低でも2本必要だ。
この村では、金属加工はある程度出来る様だが、材料の生成はされていない。ある程度のストックはあるのだろうか。まずは木製工房のロビンに相談してみよう。
ああ、木製工房と言えば、箸も作って貰わなくては。これはサイズを調べなければならない。ただの木の棒と言う訳には行かない。使いやすいサイズで無ければ。
ああもう、調べなければならないもの、作って貰いたいものがいっぱいだ。
「なぁイチ、鰹のたたき、もう無いのか?」
カリルの台詞にたたきの皿を見ると、たたきは勿論玉ねぎとにんにくも綺麗さっぱり無くなっていた。他の料理はまだあるのに。
ああ、結局1切れしか食べられなかったか。少し残念。だが、みんな気にいってくれた様で良かった。たたきはまた作れば良い。
と思っていると、壱の小皿に鰹のたたきが2切れ、玉ねぎとにんにくスライスが添えられて置かれていた。一体誰が。
みんなを見渡す。隣に座るマユリと眼が合うと、頷きながらにっこりと微笑まれた。たたきを指差し、眼で「これマユリが?」と聞くと、マユリはまた頷く。
「ありがとう」
小さく言うと、マユリは照れた様にまた笑った。気が利く女性なのだ。
「サユリは? あれから食べられた?」
サユリに聞くと、ふむ、と頷く。
「マユリに纏めて取って貰ったカピ。堪能したカピよ」
「だったら良かった」
壱はマユリがキープしてくれた分のたたきを平らげた。
さて、では他の料理を楽しもうとしようか。何にしようかな。壱はやや悩んだ末、まず、鶏のハーブ焼きに手を伸ばした。
ありがとうございました!
続きは少々お待ちくださいませ。




