#16 味噌までの道程は遠いのか
前のお話からもうちょこっとだけ続いてしまいましたが、ちゃんと時間は進みます。
どうぞよろしくお願いします!(* ̄▽ ̄)ノ
少しでもお楽しみいただけたら嬉しいです!
「なるほど、それがこの村の前身な訳か」
「そうカピ。それから我と3人で助け合って、森の恵みを頂いたり海の恵みを頂いたりしたカピ。そして、半年も経たぬうちに他の人間が現れたたカピ。不思議とまた、罪を犯して、罪は償ったカピが、その場所にいられなくなった者だったりしたカピ。我が見たところ、みんな魔法の素養がある者ばかりたっだカピ。科学的にその関連性は証明されていないカピが、元々持っている性質以外に、内に篭った魔法が罪に走らせるのかも知れないカピ。そこを自制できるかどうかは個人差があるだろうカピが。少なくとも逃げて来た女性は前科も何も無かったカピ。気性も穏やかだったカピ」
「そっか。それはそれで大変だよな」
壱が相槌を打つと、サユリは頷き、また口を開く。
「だから、この村では全員が、男も女も子どもも働かせるカピよ。勿論我の加護にはまた罪を犯させない様にする効果もあるカピ。けど、それを全て抑え込んでしまっては、個性を殺してしまう事になるカピ。なので、働かせる事で発散させ、罪の事などを考えさせない様にしているのだカピ。過去には男は仕事、女は家事と男の世話、そう考える男もいたカピが、そういう人間は結局村から出て行くカピよ。合わないし、誰にも世話して貰えないカピからな。家事も立派な仕事だカピが、時間的に家事だけだと足りないカピ。毎日家中隅々まで磨くのならともかくカピが」
「でも、中にはいたんじゃないか? 働くの嫌って人」
壱が聞くと、サユリは眉の代わりに眼を顰めた。
「男にも女にもいたカピよ。農業や酪農、いろんな仕事を紹介したカピが、どれも嫌だと言う者がカピ。「何で自分がそんな仕事をしなければならないんだ」と言ったカピ。女でも「結婚して専業主婦になって旦那さんのお世話したい、尽くしたい」と言う者がいたカピが、甘やかしては駄目なのだカピ。結婚したとしても、どちらかに寄り掛かっては駄目なのだカピ。依存性でも生まれたら、またそれが罪の元になるカピ。尽くしたいというのは特に危ないカピ。昨日、シェムスとボニーの一件があったカピ?」
「ああ、うん、シェムスさんの浮気がどうこうって」
「あれも、このシステムを取っているから、あの程度で済んだカピ。シェムスは女癖の悪さが元でトラブルに巻き込まれた結果罪を犯し、ボニーは激昂しやすい性格で暴力沙汰を起こして、それぞれ実刑を食らったカピ。我の加護が無ければ、仕事をしていなければ、もっと酷い事になっていたと思われるカピ。ミェムスの浮気も、ボニーの制裁もカピ」
「そして、サユリとじいちゃんが話を聞いてやると」
「そうカピ。それもガス抜きの一環カピ。基本は大丈夫カピよ。罪を犯したけども、反省して償って、本気でやり直したと思っている人間しかこの村にはいないカピ。あ、人間だけでは無かったカピね。メリアンはエルフだったカピ。他にドワーフとかもいるカピ」
「ドワーフ、聞いた事がある。背が低くて、力仕事とかが得意だって確か」
「概ね間違ってはいないカピ。勿論前科の無い人間もいるカピよ。この村で生まれた者もいるカピ。マユリがこの村生まれカピ」
シンプルな様でややこしい。壱はそんな印象を受けた。下手にこちらが構えるのは良く無い事だと解っている。だが、どこが逆鱗なのかが判らない。それは勿論人それぞれなのだから、今考えても仕方の無い事なのだろうが。
「村人には、普通に接して欲しいカピ。我の見たところ、壱は人の癇に障る様なタイプでは無い様だから、大丈夫カピ。さて、そろそろ寝るカピか。我も少し酔ってしまって、喋りすぎたカピ」
確かに饒舌だった。普段から口数が少ない訳では無いが、余計な事は喋らないイメージだったから。いや、話に要らない内容はほとんど無かった訳だが。
壱がベッドに入ると、サユリも壱の横に落ち着く。
「では、お休みカピ」
「お休み」
飲んだ白ワインは寝酒にちょうど良い量だった様で、壱は速やかに眠りに堕ちて行った。
朝8時。起床、洗顔、朝食。壱は茂造とサユリとともにそれらを済ませ、食堂の昼営業の仕込みに入る。
カリルとサントも時間通りに出勤して来た。
「おはようございまーっす!」
「おはようございます」
「はい、おはようさん。早速下拵えに掛かってくれるかの」
「はーい!」
カリルは元気に返事をし、サントは小さく頷く。
昼営業は、夜とメニューが違う。まずポトフが無い。だが昨日から仕掛けておいて出来たブイヨンを、コンソメにする作業がある。それが今夜のポトフになる。
パスタはあるが、味付けが違う。昼はペペロンチーノとパジルソース、カルボナーラの3種類。カルボナーラ以外にはその日によって様々な食材が入る。今日はペペロンチーノにはベーコンとマッシュルーム、バジルにはじゃがいもとサーモンが。
他には玉ねぎにじゃがいもとにんじん、ブロッコリ、カリフラワ、豆類、ベーコンなどが入った具沢山のミネストローネを出す。
スープはクラムチャウダーと1日ごとの日替わりである。
サントは早速パンを捏ね始め、昼のパスタ作りはカリルが。壱はすでに捌かれている肉や魚類を、茂造は野菜を切る。これはブイヨンからコンソメを作る分の材料も含む。
仕込みの途中でホール係の女の子たちが出勤して来て、ホールの掃除を始める。
「さぁて、そろそろ開店かの」
時計を見ると11時少し前だった。
「壱よ、昼のピークは1時ごろまでじゃ。儂らはそれから交代で昼飯を食べるでの。それまでは腹が減っても我慢してくれの」
「うん。大丈夫」
「よしよし」
茂造は満足げに頷く。茂造の中では、まだ壱は子どものイメージが少し残っている様だ。仕方が無い。過度に過保護などにされなければそれで良い。
そうしている内に、客が訪れた。
「あー腹減った! メリアンちゃん、今日のペペロンチーノの具は何? ベーコンとマッシュルーム? じゃあそれとパン。エールも飲みてぇけど、まだ仕事があるからなぁ!」
元気な客である。メリアンから正式なオーダーが入ると、壱はパスタを大鍋に入れる。フライパンにオリーブオイルとにんにくの薄切り、唐辛子を丸々入れて、火を点ける。
にんにくの良い香りが漂い、程よく色付いて来たら、ベーコンとマッシュルームを入れて、更に炒める。パスタの茹で汁を加え、煮詰めて行く。
塩胡椒で味を整えたら、茹で上がったパスタを入れて和える。
出来上がり。皿に盛り、パンと一緒に調理台に置くと、ホールに向かって声を張り上げた。
「ペペロンチーノ上がったよー!」
「は、はい!」
マユリが取りに来てくれる。手には開かれているオーダー帳。
「あ、あの、バジルのパスタ、ふたつと、カルボナーラ、ひとつ、パン3人分、注文、入りま、した」
「あ、バジル俺がやるよ。イチ、カルボナーラ頼むな!」
「おう」
マユリがオーダー帳をエプロンドレスのポケットに入れ、ペペロンチーノとパンを運んで行く。
壱はコンロに戻ると、大鍋にパスタを入れる。中にはカリルが入れたと思われる2人分が既に入れられていた。引き上げる時に間違えない様にしなくては。
次に調理台からボウルを取ると、卵を割り入れる。良く解し、擦り下ろしたハードタイプのチーズを入れて混ぜる。そこに既に火を通してあるベーコン、胡椒をたっぷり加える。
昼営業の時には、具材にはあらかじめ火を通しておく。昼はスピード勝負だからだ。比較的ゆっくり出来る夜とは違い、みんな急いで掻っ込んで仕事に戻って行く。
バジルのパスタに使うじゃがいとサーモンも、既に火が通っている。カリルはフライパンにバジルソースと具材を入れて、しっかり温まったところに茹でたパスタを入れた。
壱もカルボナーラの仕上げに移る。ソースが仕上がったボウルに茹で上がったパスタを入れ、良く和える。卵がダマにならない様に手早く。
皿に盛り、更に胡椒を降る。横ではパジルのパスタも完成していた。壱は3人分のパンを用意する。
「パスタとパン上がったぜー!」
「はーい!」
カリルが声を上げると、メリアンが元気な返事とともに姿を現した。
「あ、マーガレット手伝ってー ボクひとりじゃ全部は無理だー」
メリアンに続いて厨房に来たマーガレットに声を掛ける。
「はぁい。あ、オーダーよぉ。ミネストローネとぉ、バジルとぉ、パン2人前ねぇ」
「はいよっと!」
カリルがまたコンロに向かう。
「壱、ミネストローネとパン頼むな!」
「おう」
メリアンとマーガレットが料理を運んで行き、カリルが大鍋にパスタを入れる。茂造はボトフに掛かりきりで、サントは洗い物に精を出す。
壱は先にパンの用意をしながら、小さく息を吐いた。
俺、いつになったら味噌の試作が出来るんだろ。
そろそろ禁断症状が出そうだった。
ありがとうございました!
続きは少々お待ちくださいませ。




