初戦闘
「ねぇ、ゼスタ。吟遊詩人になったらどんな効果があるの?」
「登録所の職員さんが言うには、攻撃力も魔力も伸びにくくなるみたいだ、代わりに専用スキルが多いらしい。この辺は、僧侶と同じだね。でも、問題は…」
「スキルを教える人間がいない…か。僧侶は回復系の代名詞みたいなもんだから、どこでもスキル獲得できるが、吟遊詩人はそもそも俺達の町にはいもしない。」
「そう。だからスキルのない僕は、成長しにくいだけの一般人だね。」
吟遊詩人の能力について確認しながら道を行くと、木の影からモンスターが飛び出してきた。
蛇型のモンスターだ。
「おっ。あいつなら倒せるだろう。ルー、ゼスタ、やってみろ。」
「記念すべき一匹目ね。任せて!」
ルーが走りだし、魔法を使う。
「ルメ・ペケノ!」
ルーの指から火の玉が飛び、蛇に向かう。
蛇はしっぽを払うと、火の玉を弾き飛ばした。
「うぇっ?効かない!?」
魔法が通じなかったルーは短刀を抜き、そのまま蛇の胴体に斬りかかる。
ギンッという音とともにルーの攻撃は弾かれる。
「かっ、かったーーーい!」
ルーは手が痺れたのか、涙目になりながら蛇から距離をとる。
「ちょっと!兄さん?本当にこいつ倒せるの!?」
「俺が大丈夫って言ってるんだから大丈夫だ。ゼスタ、いってみろ。」
ルーに代わり、今度は僕が前に出る。
胴体に一太刀浴びせるが、ルーの時と同様、弾かれてしまう。
「胴体は無理か。それなら…」
蛇の正面にまわり、剣を真っ直ぐに刺突の構えをとる。
「口に直接攻撃してやる!」
蛇が噛みついてきたところを狙い、咥内に剣を突き立てる。
ギンッ。
「かてぇー!口の中も硬いのか!」
カウンターを狙ったせいで手の痺れも大きい。
怯んだ隙に蛇が足に巻きついてきた。
「しまっ…!」
「ゼスターっっ!」
「ゼスタ!水だ!水魔法を使え!」
ラドが叫ぶ。
「くっ!メノス・アウガ!」
蛇の口に水球を撃ち込むと、怯んで巻きつけていた体を離した。
蛇は濡れた箇所がひび割れのようになっている。そこを剣で突くと、先ほどまでとは違い硬いながらも剣が通り血が吹き出す。
ルーが飛び込み、蛇の濡れた頭に短刀を突き立てた。
蛇はしばらくのたうちまわり、動かなくなった。
「はぁ、やられるかと思った。」
「にぃさぁん。知ってたなら最初から言ってよぉ。」
「悪いな。町から離れたモンスターのレベルを知っておいてもらいたかったんだ。」
倒したモンスターはツチヨロイヘビというらしい。
土が変化した体の硬さには手こずるが、水に弱いことさえ知っていれば簡単に攻略できる。
「ツチヨロイヘビみたいな奴は弱点があるから楽に倒せる。というよりは、弱点があったから、お前らでも倒せるってのが正しいな。」
「じゃあ兄さん、弱点のない奴は?」
「出たら逃げる。弱点があっても、俺達が知らなければ逃げる。以上!」
「もっとも、戦士になって一年も修行した奴はツチヨロイヘビでも斬れるし、魔法使いが修行すれば火の魔法でも黒焦げにできる。」
「今は倒せるモンスターだけ倒して強くなれってことね。」
ルーもあのモンスターを簡単に倒せるようになるんだろう。
僕も早くスキルを手に入れなければ、ルーに後れをとってしまう。
こうして、町の外で最初の洗礼を受けた僕達は先を急いだ。