ローグラン その6
私は忌々しい思い出の残る森の屋敷に戻ってきた。
療養のために静かな場所へと父は言っていた。しかし、これは誰の目から見ても厄介払いでしかなかった。
あの事件が起こるまでは、父と母の私に対する愛情は確かにあった。
しかし、それは『家を継ぐに値する周囲に自慢できる息子』だった私に対してだ。
四肢の殆どを失い、町の子供から見捨てられるような求心力のない私に対する愛情は持ち合わせていないらしい。
金と時間をかけて作りあげたものが壊れてしまった。その事実から目を背けるために、父は私を森の屋敷へと隔離したのだ。盗賊に攫われた現場である屋敷に。事実も記憶も、全てを押し込めて隠してしまった。
屋敷には父も母も来ない。
屋敷にひしめいていた、父のコレクションは既に運び出されていた。ただ、庭にいくつもある大きな像は、持ち出すことができなかったようだ。
森の屋敷には、週に一度、使用人が食料の芋を届けにくるだけだったが、それも最初のうちだけであった。父が止めさせたか、使用人が自ら止めてしまったか。真相はわからないが、屋敷を訪れる人間はついぞいなくなった。
日に日に、私の中には仄暗いものが積もっていくのを感じた。
楽しかった思い出はひとつずつ消え、世界に対する恨みにひとつずつ置き換わっていく。
生きるために屋敷の外を這いずり回り、食料を集めた。
世界への復讐のために、屋敷の書物を読みつくし、魔法の特訓を行った。
魔力が果てるまで魔法を使い続け、気絶する。目を覚ませば、森へ向かい食料を手に入れる。書物で魔法を探しては、習得できるまで血を吐き特訓する。そんな毎日をどれだけ続けたかわからない。
ろくに動かない体で森に出て、魔物と戦い何度死にかけたことだろうか。鍛えた魔法で何とか撃退し、食料を手に入れて命からがら屋敷に戻る。そうすると、庭にあるいくつもの像が、笑いながらこちらを見ているのだ。
母が信仰していた神々の像は、這いずり命からがら帰ってきた私を見下ろしながら満面の笑みを浮かべている。
盗賊のアジトで魔王様に祈り助かったことが理由か、母が信仰する神々への反抗が理由か、きっかけはどれでも良い。私は魔王様に祈ることで、心の崩壊から自分を守っていた。
そしてある日、この泥だらけの日々を打ち破る一冊の書物を見つけた。




