情けない男
「ルメ・ペケノ!」
「ベント・モデラド!」
槍の男の『魔力妨害』が途絶え、ルーとオルタの魔法が発動した。
グローブの男は、たまらず距離をとる。
「……ソラン!しっかり、ソラン!」
セアが倒れているソランを揺らして声をかけている。
グローブの男が離れている隙に、僕もソランの元へ駆け付けた。
「ソラン!」
ソランは左手に槍が刺さり、顔と右手には攻撃の反動で出来た火傷が広がっている。
「無茶なことを!みんな無事に帰らないと意味ないだろ!」
「あぁ、ゼスタ。わかってるよ……」
ソランは苦しそうに返事をする。
酷かった火傷が少しずつ引いている。
「……あ、回復薬。」
セアがぽつりと呟いた。
そうだ、ソランは槍の男に突っ込む前に回復薬を飲んだ。
回復薬は回復魔法と違って効果出るのが少し遅い。
火傷することも見込んでの特攻だったのか。
「ソラン、すごいや。僕には思いつきそうにない。」
「そりゃ、ゼスタが強いからさ。僕はこんなことでもしないと戦えないから。……それより、この槍抜いてほしいな。」
「僕が強かったのなんて、町の中の子供の中での話だろ。町の外では、この通り。みんなに助けてもらわないと何もできない。」
そう言って、僕はソランの左手に刺さった槍に手をかける。
しかし、回復薬により傷を塞ごうとする力が、槍を固く締め付けていて抜けない。
「くっ、固いな。」
「……ゼスタ。どいて。」
セアはすっと立ち上がると、ブーツに風魔法を付加した。
そして、槍の束に足を添える。
「ちょっと、セア、まさか。」
「……えい!」
風魔法で強化された蹴りで、ソランの腕から槍が勢いよく飛び出た。
「がぁっ!痛い、痛いよ!セアぁ!もっとゆっくり抜いてよ!」
「……こういうのは、パッと終わらせたほうがいい。」
「……それに、これは危ないことしたお仕置き。」
セアはプイと前をむき、短剣を構え、風魔法を付加した。
ソランの槍の傷も少しずつ塞がってきている。
こっちはもう大丈夫そうだ。
「ルー!オルタ!こっちへ!ソランは大丈夫だ。」
ルーとオルタは盗賊たちを魔法で牽制しながら、僕たちのところまで下がる。
「ソランが動けるようになったら、撤退する。『アイオの歌』を使ったら、全力で走って。」
みんなが頷く。
「赤髪の少年が貴様の仲間の槍の奴を倒してしまったぞ。あいつはどうするんだ。」
ローグランはピクピクとする槍の男を指差し、グローブの男に聞く。
「どうするも何も、そこそこ使えると思ってのにガキに負けやがって。そんな情けない奴はほっとけばいい。俺があんたから借りた力を使えば十分だ。」
「……そうか。情けないから要らぬか。」
僕がソランを抱えて立ち上がるのを手伝っていると、ローグランと目があった。
僕がキッと睨むと、ローグランは口角を吊り上げて、壁にもたれ掛かっていた体を起こした。
ローグランはたじろぐ盗賊たちを一瞥して、フンッと鼻をならし、歩き出した。
「同感だ。」
ローグランの右手がグローブの男の腹を貫く。
「な、なんで……」
「同感だ、と言っただろう?貴様らが情けないから要らぬのだ。」
ローグランが腕をふるうと、グローブの男が投げとばされる。
「くそう、俺らが連れてくる冒険者が必要なんじゃねえのかよ。」
「冒険者を連れてくるごろつきなぞ、いくらでもいる。それに、『冒険者殺し』などと呼ばれているが、私は人間であれば、冒険者でも貴様らごろつきでもかまわんのだ。」
ローグランはグローブの男の方へ足を進める。
その腕は怪しいうごめいている。
「『魔力妨害』も、『魔王様の芽』も与えてやったのに子供に負けるようなごろつきなど要らぬだろう?冒険者を捕まえられぬなら、貴様ら自身の体を捧げよ。」
ローグランの腕から伸びた触手が、グローブの男を再び貫いた。




