屋敷の主人
屋敷の中から出て来た眼鏡をかけた線の細い男は、グローブの男と槍の男を睨み付けた。
「貴様ら、私の神が傷ついたらどうするのだ?」
男が近づくと、グローブの男と槍の男の魔法が弾けて消える。
あいつも『魔力妨害』を?
眼鏡の男が二人の手を掴み、一瞬で組伏せる。
「ぐっ。す、すまねえ、ローグランの旦那」
「あのガキ共が仲間をやっちまったから、つい……」
グローブの男と槍の男は苦悶の表情で膝をつきながら、ローグランと呼ばれた男に許しを乞う。
あの二人が簡単に押さえ付けられている。
何者だ?
ルーとセアは売られるためにこの屋敷に運ばれたはずだ。
それなら、あのローグランという男が買い手というわけか。
眼鏡の男が、どこを見ているのかわからない目をして、こちらに顔を向ける。
その異常な気配に、僕は全身の毛穴から汗が吹き出る。
一つ、疑問に思っていたことがある。
盗賊たちは、なぜ僕たちを掴まえて売って金を稼ぐ回りくどいやり方をするのだろう。
盗賊なんだから、直接金払いの良い買い手から奪えば手間をかけずに済むのではないか。
でも、この光景を見れば答えは一目瞭然だ。
盗賊たちはローグランに勝てない。
ローグランと戦って金品を奪うより、冒険者を捕獲して売る方が圧倒的に安全なんだ。
「ねぇ、ゼスタ。グローブのあいつが言ってたの。『冒険者殺し』の根っこにいるのは、この屋敷の主人だって。多分、あいつがそう。」
ルーの口から出た言葉、『冒険者殺し』……たしか行商が言ってたやつだ。
「あいつが金を出して冒険者を買うから、いろんな犯罪者が冒険者を捕まえる。そうしてできた噂が、正体不明の『冒険者殺し』らしいわ。」
「……正直、盗賊たちより強いやつだとは思わなかった。これってまたピンチ?」
セアのいう通り、グローブの男と槍の男でも切り抜けられるかわからないのに、それを上回るやつがいるなんて……逃げ切れるのか?
「なぁ、ローグランの旦那。俺たちはあのガキ共をあんたに売りにきたんだ。ちょっと最後の最後で抵抗されちまったけどよ。今度はあの像に攻撃が当たらねえように捕まえるから許してくれよ。」
「ふん、まぁいい。人間を捕らえてくるうちは金を払ってやる。お前らはどうせその為にしか動かんのだろう?だが少しでも我が神の像を傷つけてみろ、バラバラにしてやるからな。」
神の像?
僕たちの後ろにある像を見る。
目から出た触手が左半身を覆い、さまざまな首をぶら下げた異形の像がある。
この像以外はことごとく破壊されている。
ローグランの神とは、この像のことを言っているのだろう。
ローグランと呼ばれた男は、取り敢えずこちらに攻撃してくる気配はない。
つまらなそうに、扉にもたれ掛かり、この場を盗賊たちに任せるようだ。
「みんな、像を傷つけるのは僕たちにとっても危なそうだ。気を付けて。」
ソランの警告に、一同頷く。
今、最も危険なのは、ローグランと対峙すること。
そう誰もが直感する不気味な雰囲気が眼鏡の男にはあった。
さっきの会話からすると、ローグランと盗賊たちは仲間ではない。
利害関係で繋がっているだけだ。
おそらく、僕たちがこの像を背にしている限り、盗賊たちも迂闊に魔法を使えないだろう。
まだ生き延びれる可能性はあるかもしれない。
「やることは変わらない。みんな、生きて脱出しよう。」
こちらを睨みながら立ち上がる男たちを見据え、僕たちは武器を構えた。




