宴会での一戦
「…ゼスタ。吟遊詩人ってどういうこと…?」
剣を抜き、怒りながら近づいて来た彼女はセア。
セアは僕を睨みながら、剣を首に押し付けて聞いてきた。
「お、おい!セア!祝いの席だぞ!やめろ!」
そう言って近づいたラドのみぞおちに、セアは容赦なく蹴りを加える。その間も、僕に押し付けた剣はピクリとも動かない。
「…ラドは邪魔。」
崩れ落ちたラドに、シーナが慌てて駆け寄る。
「ちょっと、セア。なんなんですか!?」
セアはシーナの問いを無視して、僕に話しかける。
「…ゼスタ。セアはまだ一度もゼスタに剣で勝ってない。ゼスタはセアの目標だ。…なのに、吟遊詩人?剣の腕が伸びる可能性を捨ててしまうのか?勝ち逃げするのか?」
セアの目が潤む。
「…ゼスタ。セアと勝負だ。セアが勝ったら、今すぐ登録所に戻って戦士にしてもらう。…ゼスタが勝ったら言うことを聞く。」
セアはそう言って間合いをとり、僕に剣を抜くように促す。
「セア、今回のことだけは譲るつもりはないよ。僕が勝って納得してくれるなら、勝負を受けよう。」
僕が剣を抜き構えると、セアが素早く間合いを詰め、右手で片手剣を薙ぎはらう。
迫ってきた剣を弾くと、セアはその勢いを殺さずに回転して逆側から攻撃を仕掛けてきた。力の弱いセアは、相手の力を乗せて威力を増す技を使う。
何とか反応し、セアの切り返しを受け止める。その瞬間、セアが空いている左手を腰に回し短剣を抜き、流れるように僕の首を狙う。
セアを蹴って距離をとることで、ギリギリのところで避ける。
すぐに体制を整え剣を構えるが、蹴られてよろけたセアは、転がっていたラドに足をとられひっくり返ってしまった。
起き上がろうとするセアに剣を突きつける。
「僕の勝ちだね。」
「…やっぱり、ラド邪魔。」
セアはラドを一瞥し、頬を膨らませる。
ルーはほっと胸を撫で下ろしていた。
「じゃあ、セア。約束通り…」
「…わかった。ゼスタ。約束通り、セアはゼスタのお嫁さんになってあげる…」
「ちょっと!セア!ちょっと!そんな約束してないでしょ!」
ルーがセアの肩を掴み揺らしながら叫ぶ。
「…セアはゼスタの言うことを聞くって約束した。ゼスタはセアのような美少女をお嫁さんにしたいはず。何も問題ない。」
「あるわよ!ゼスタも何とか言って!」
さっきのピリッとした空気は失せてしまった。
青春か?いいぞ!もっとやれ。町の大人連中がからかい出す。
よくわからないけど、吟遊詩人はあきらめずに済みそうだ。
「ゼスタ。セアにもキチンと説明してあげて。」
ひとしきりセアと騒いだルーは、僕にそう言った。
「なーんか。全部ゼスタの説明不足が悪い気がしますよねー。」
シーナが悪態をつきながら料理を頬張る。
シーナの言う通りだ。僕は朝と同じように、セアにも吟遊詩人を選んだ理由を説明する。
色々あったが、町のみんな、仲間達は僕が吟遊詩人になったことを祝ってくれた。
ラドが目を覚ました頃、お祝いの料理は食べ尽くされていた。
朝ご飯を抜いてきたラドがあまりにも不憫だったので、ポケットに入っていた干し肉を一切れ渡す。
ラドは泣きながら干し肉をもくもくと噛んでいた。