敗北
「くそっ!やりやがったな!」
グローブの男は、僕にターゲットを変える。
大剣の男の時のように、オルタの奇襲も通じない。
魔法が効かない今、単純な戦闘力はこちらが劣っている。
グローブの男は僕の刺突を軽く払い、下段蹴りを放つ。
脛を強く蹴られ、痛みで一瞬止まったところに、腹部に膝げりを重ねられた。
「ぐうっ!」
腹部にダメージを受け、息をまともに吸えず、距離をとった。
グローブの男は余裕そうな顔をしている。
「きゃー!」
叫び声のする方では、先程、魔法で倒し損ねた連中がルーをとり押さえている。
「やめろー!!」
僕の声も虚しく、男たちはルーに一撃を加えて気絶させた。
そのまま、男たちはルーを担いで馬車へと向かう。
馬車の方では、ソランが槍の男に苦戦していた。
セアはまだソランに回復してもらえず、車輪に持たれかかっている。
ルーを馬車へと放り込んだ連中は、次にセアを馬車へと引きずり込んだ。
「まずは女のガキ2人だな。お前らもすぐにボコボコにして捕まえてやるよ。なぁに、心配するな。俺たちはお前らを売って金にするだけだ。殺しはしねえよ。仲間が殺られたぶん、取り分が増えてラッキーかもなあ。」
「ふざけるな!」
「まぁ、売った後はどうなるか知らんがな。金払いはいいんだが、頭のおかしいヤツなんだ。」
「やめろ!やめろぉ!」
グローブの男に斬りかかるが、大振りの攻撃があたるはずもなく、顔に蹴りを入れられる。
地面に突っ伏し、砂が口に入る。
「はっはっはーっ!」
グローブの男は楽しそうに笑っている。
馬車に集まった連中も、既に観戦に徹している。
「ん、ゼスタ。大丈夫?」
オルタは泣きそうな声で聞いてくる。
「大丈夫。早くしないと、ルーが!セアが!」
「他人の心配している場合か?もう一人の坊やも、もうダメみたいだぜ。おい!大事な商品を殺すなよ!」
ソランの方を見ると、槍の男に柄でいたぶられている。
既に抵抗する力も残っていないようだ。
ちくしょう。
このまま捕まるのか。
「さあ、その妖精を寄越しな。」
「オルタ!飛べ!君だけでも逃げてくれ!」
僕はそう叫ぶと、グローブの男に剣を投げつけた。
グローブの男が剣を弾いた隙に、オルタを上空へ投げる。
槍の男が魔力妨害を発動させていない間は、オルタは飛べる。
そのことに、盗賊たちは気づいていないようだ。
オルタは上空へと飛び上がり、近くの森まで一直線に逃げていった。
「てめぇ!余計なマネしやがって!」
グローブの男に顔を蹴りあげられ、意識が飛びかける。
男に頭を持ち上げられる。
「…?なんだ?」
朦朧とする意識の中で、遠くから狼の遠吠えが聞こえる。
「ちぃっ!ヤマオオカミか?面倒くせえ。」
狼の遠吠えは徐々にこちらに向かってくる。
「もったいねえが、この男のガキどもを囮にしてずらかるぞ!ヤマオオカミの奴ら、死体よりも生きた獲物を狙いやがるからな。」
グローブの男の合図で、盗賊たちは馬車を引いて撤退を始める。
ルーとセアが連れ去られてしまった。早く助けに行かないと。
オルタはなんとか逃がせたが、ソランは大丈夫だろうか?
動かない体を必死に起こそうとするが上手くいかない。
剣は投げてしまった。これからヤマオオカミと戦えるだろうか。
ヤマオオカミの群れの足音と荒い息が迫ってきた。
僕はそれ以上意識を保つことができず、視界が暗転した。




