街道の英雄
旅をするにあたり、冒険者や行商が接地するモンスター避けの魔方陣は重宝する。
旅の途中はできる限り魔方陣を夜営のポイントとすることで、モンスターの気配に怯えず体力を回復擂ることができる。
魔方陣の見つからなかった日は、交代で見張りをしながらの仮眠となり、体力は回復できても、たかが知れている。
この日も、僕たちは夜営のポイントとなる魔方陣を探していた。
日も傾き始めたころ、ラドから教わった、行商たちが魔方陣を設置した時につける目印を見つけた。
街道から少し逸れて、草を掻き分けると、この旅で何度も世話になった見慣れたモンスター避けの魔方陣が出てくる。
いつもと違うのは、既に魔方陣を使用している先客がいたことだ。
念のため、オルタは花の中に隠れてもらい、先客に挨拶をする。
「こんばんは。」
「おや、冒険者か?」
先客は4人。身なりから判断すると、行商と護衛の戦士、魔法使い、僧侶といったところだろうか。馬と大きな荷物も見える。
「はい、ご一緒しても良いですか?」
「ええ。ここの魔方陣は荷物の多い行商向けだから、場所も十分あるわ。」
ルーが魔方陣の相席を求めると、僧侶らしき女性が快諾した。他のメンバーも異論はないようだ。
僕たちは魔方陣に入り、夜営の準備をしながら、先客である行商たちとぽつぽつと話をする。
旅の途中で、行商の魔方陣には幾度となく世話になったが、実際に町の外で行商や他の冒険者と出会うのは初めてだ。
冒険者のうち、戦士の男性と僧侶の女性が気さくに話しかけてくれる。
「ずいぶん若く見えるな。」
「みんな15才です。」
「保護者はいないの?まさかあなたたちだけなんて言わないわよね?」
「僕たちだけです。極力危ない戦闘は避けてるんですけど、やっぱり僕らくらいの年齢の冒険者は少ないんですか?」
「そりゃあ強くなってから冒険に出るか、強い冒険者についていくのがセオリーだからな。」
「それに、最近はきな臭い話も多いみたいだし。私たちみたいな行商の護衛以外で遠出する冒険者もめっきり減ったわ。」
旅の途中、他の冒険者一行に全く出会わないのは、そのような原因があるのだろうか。
ふと、昨日出会った両替商 ディーブラウのことを思い出す。
「昨日、一人旅をしているという両替商に会いました。一人旅できるってことは、この辺りは比較的安全なのかと思ったんですが。」
「一人旅をしている両替商?君たち、『街道の英雄』に会ったのかね!」
先ほどまで、あまり口を開かなかった行商が突然声をあげる。
「『街道の英雄』?」
「ああ、この大陸を一人で駆け回り、訪れる町の経済を安定させている。他にも、人間に害をなす大型モンスターを何度も葬ったこともあるらしい。街道を行き交いながら人びとに繁栄をもたらすため、『街道の英雄』なんて呼ばれている。」
傑物の気配を醸し出していた老人は、英雄とされる人物だったようだ。
「雨宿り中に偶然出会ったんです。短い間でしたが。」
「羨ましいな。私は『街道の英雄』に憧れて行商になったんだ。本当は同じ両替商になろうとしたんだが、同業者だとライバルになってしまうから、万が一会えた時に握手をしてもらえない気がしてな。」
僕たちがディーブラウに会ったことを知ると、行商の男は、その幸運にあやかりたいと、いろいろと良くしてくれた。
そして、行商として仕入れた様々な情報を教えてくれた。
まずは、『街道の英雄』がこの付近に訪れているという噂。これは、実際に僕たちも会ったので、間違いない。何をしているのか、様々な噂が飛び交っているが真相は誰も知らない。先日は、エーカの町での目撃情報が出ていたそうだ。
次に、『冒険者殺し』の噂だ。正体は盗賊かモンスターかわからないが、近辺の冒険者が被害を受けている。ギルドから討伐指令も出ているが、犯人の特定もされていない。
最後に、モンスター凶暴化の話。ここ数年、モンスターが人を襲う頻度が増えてきているらしい。とはいっても、誰も統計をとったりしているわけでもないので、あくまで感覚的にとの話だ。
しかし、行商自身も討伐依頼の増加で、行商に同行する冒険者を雇いにくかったりと、妙な信憑性があるという。
3つとも、噂は噂なのだが、旅をする人間にとって、知っておくに越したことはない。知識はあればあるほど備えることができるからだ。
そういえば、行商ならばディーブラウから貰ったアースシードのことを知ってるだろうか?
「行商さん、アースシードって知ってますか?」
「アースシード?聞いたことないな。誰か知ってるか?」
護衛の面々は一様に首を横にふる。
譲り受けた種子はよっぽどめずらしいものなのだろうか。
それとも、別の呼び方が一般的なのかもしれない。
そのあと、行商たちは、思い思いに冒険の先輩として、知ってることを教えてくれた。
長持ちする保存食の作り方にはソランが食い付き、エーカの町の流行には、ルーが興味を示した。セアは行商が扱う武器を眺めていた。
いろいろなことを聞けてラッキーだった。
これが行商の言う『街道の英雄』に会えた幸運がもたらしたものなのだろうか。
しかし、人間万事塞翁が馬。
幸運があれば不幸もある。
英雄に出会うこともあれば、悪人に出会うこともある
。
『街道の英雄』に会えた僕たちは、この数日後、『冒険者殺し』と出会うこととなってしまう。




