アースシード
雨があがり、僕たちは水車小屋を後にした。
道中の話題はもっぱら、奇怪な来訪者であった、筋肉老人ディーブラウのことだった。
「ねぇ、本当におじいさんが、一人で旅をしているの?」
「あぁ、確かにそう言ってたよ。小屋に来たときも出て行くときも一人だったし、わざわざ嘘をつく理由もわからない。」
それに、ルーたちも一度ディーブラウの姿を見ればわかるはずだ。
彼の風貌や振る舞いは、彼の言葉に重みを与えていた。
もちろん、彼が筋骨隆々とした姿だったからだけではない。
モンスターは筋力だけで倒せるものではないし、そもそも戦う姿を見たわけでもない。
しかし、真っ直ぐこちらを見据えてハッキリとものを言う様からは、不思議とこの辺りのモンスター程度簡単になぎ払ってしまう姿が容易に想像できた。
カリスマと言うのだろうか、ディーブラウがわざわざ言葉を繕わなくても、こちらが理想の姿を頭で想像してしまう。
このような魅了がなければ、15になってすぐに無謀な冒険に出てしまうような、良い子とは言い難い僕たちは、見知らぬ老人の言葉など話半分でしか聞かなかったかもしれない。
「んー、ゼスタとソランの言ってること、わかる気がする。なんか、水車小屋の中に凄く濃い魔力が入ってきたのわかったの。」
「あの人、魔力も凄かったの?」
オルタは2階にいても、ディーブラウの魔力を感じていたらしい。
「んー、なんか、なんていうか、わかんない。力も凄いけど、いろんなものが混じってる感じ。ソランの持ってるそれみたいに。」
「これ?」
オルタはソランがディーブラウから受け取った種子を指差す。
たしか、アースシードと言っていた。
種子に魔力が宿るのだろうか。
「セアの魔法付与みたいなものがついてるの?」
「んー、セアの使うやつは物を魔力で纏う感じだけど、この種子は中から魔力が出たり入ったりしてるみたい。」
ルーがアースシードに触れると、違和感に眉をひそめる。
「なんか、少し魔力が取られた気がする。」
「…魔力が取られる?」
「ん、ルーが言う通り、種子がルーの魔力をかじったみたい。種子の魔力の色がまた変わったの。」
「触れた相手の魔力の性質を取り込んでるのかな?」
ソランはルーからアースシードを受けとり、じっくりと観察している。
「…ソランでも、その種子のこと知らないの?」
「セア、僕の知識なんてツェグの町の図書館にあった少ない本を読んだ程度でしかないんだよ。知らないことだらけさ。」
ソランは真っ赤な髪をガシガシと掻きながら、種子を小さなビンの中に入れる。
ソランは分からないことがあれば、とことん調べないと気がすまない。
アースシードの手がかりが何もない状態は歯痒いようだ。
「アースシードはディーブラウさんの魔力も吸ったんじゃないかな?オルタが同じ感じの魔力って言ってただろう?」
「たしかに、アースシードがルーにやったみたいなことを、元の持ち主のディーブラウさんにしていれば、同じ感じの魔力になるよね。」
他者の魔力を取り込む種子、アースシード。
ディーブラウは薬師であるソランならいずれ使い方がわかると言っていた。
そうすると、調合の材料となるのだろうか。
わからない。
その時の僕たちには、ディーブラウから与えられたものが、どんな代物で、何を起こしうるのか、想像するには知識も経験も圧倒的に少なすぎた。




