登録祝い
15才になると、職業を決める。
これは、将来を決めるための大切な行事だ。
この職業になります。と、登録するだけではない。
最も重要なのは、職業登録所が所有する魔法で、能力の伸びを操作することだ。
戦士であれば、魔力が伸びにくくなる代わりに攻撃力が伸びやすくなる。
魔法使いは逆に、攻撃力が伸びにくく魔力が伸びやすい。
どこかを制限することで、能力の伸びしろを引き上げる魔法だ。
職業に就かない選択もあるが、そのままではモンスターに対抗するのは難しい。ほとんどの人間は職業に就いている。
15才に職業を決めるのは、能力の成長期が関係している。
15才から20才が、一番能力の伸びが大きい時期だ。
その時期に、能力の伸びを操作する結果、成長後の能力が大きく変わる。
だからこそ、みんな、どの職業に就くか真剣なのだ。
「ねぇ、シーナ聞いて。登録所の職員さんったらね、私が魔法使いになりたいって言った時は流れ作業みたいに登録してくれたんだけど、ゼスタが吟遊詩人になりたいって言ったらびっくりしちゃって…」
登録が終わった僕らは、職業登録祝いの会場に向かっていた。
ルーは興奮してシーナに登録所でのことを話している。
「それでね、登録魔法がわからないからって奥に引っ込んじゃったの。しばらくして、登録魔法が載った本を持ってきたんだけど、その本がもうホコリまみれなの!きっと、永いこと吟遊詩人になりたいって人なんていなかったのよ。」
「私の知る限りこの町で、吟遊詩人になった人は知りませんしね。酒場とかがある大きな町とかにはいるんでしょうか?」
「冒険に出てみればわかるだろ?それより早く会場に行こうぜ。祝いの料理を食うために朝飯抜いてんだ。」
ラドに急かされ、僕達は会場へ急いだ。
この町では、職業登録が終わると、家族や仲間達と祝いの席を設けるのが一般的だ。
今日は僕とルー2人の祝いなので、シーナの両親が経営している料理屋を貸しきることになっている。2人の家族と友達を呼んでも十分入れる広さだからだ。
会場に着くと、既に準備は整っていた。みんなの家族の他に町の友達達も集まっている。
後は、それぞれ何の職業になったのかを発表し、宴会開始だ。
ルーが心配そうな顔で、聞いてきた。
「ねぇ、ゼスタ。おじさんとおばさんには、吟遊詩人のこと言ってあるの?」
「あぁ。問題ない。というか、両親には昔からずっと言ってたんだ。あと、ルーやシーナのおじさんとおばさんも知ってるよ。」
「えーっ!?」
「仲間には自分の口で言うべきだって、おじさん達はルー達に話さなかったんだ。」
むぅっとルーが口を尖らせる。
そう話しているうちにラドが音頭をとり、お祝いが始まった。職業の発表だ。
「みんなわかってると思うけど、私は魔法使いになりました。」
ルーがペコリとお辞儀をすると、みんなから拍手が起こる。
「驚く人もいるかもしれないけど、僕は吟遊詩人になりました。」
僕の発表には、拍手に混じりどよめきも起こる。
「…吟遊詩人?」
「戦士じゃないのか?」
知らなかった人達は、顔を見合わせていた。
宴会の時にでも、ゆっくりと説明しよう。
そう思って腰を下ろすと、ダンッと机を叩く音が聞こえた。
みんながそちらに目をやると、青い瞳をした小柄な女の子が口をわなわな震わせて立ち上がっていた。
「…吟遊詩人?そんなの認めない…」
そう言って彼女は剣を抜き、僕の喉元へ向けた。