デールの町の吟遊詩人
「昨日はすごかったねー。」
ルーはほうっと溜め息をつく。
オルタの力を借りて『アイオの歌』を手に入れた後、
吟遊詩人アーノは、彼の娘アイオに連れられ、
僕たちと共に酒場に顔を出した。
酒場は1ヶ月ぶりにアーノが訪れたことで、大いに盛り上がった。
歌えなくなってしまっても、アーノはみんなに歓迎されていた。
みんなアーノに酒をつぎ、アイオを囃して歌わせ、
終いには僕たちも担ぎ出される大宴会に変わった。
オルタが我慢できずに、鞄から飛び出した時はさすがに焦ったが、既にみんな出来上がっており、妖精がいることを気にする者はいなかった。
場が混沌として来た所で、部外者の僕たちは逃げるように酒場を後にした。
初めての酒場での夜に疲れ果て、宿に戻るとすぐに寝てしまった。
「いろいろあったけど、当初の目的が果たせてよかったよ。特に、オルタ。本当にありがとう。」
「ん、どういたしまして。」
僕が握手を求めると、人差し指をちょこんと握る。
コンコンと扉が叩かれる。
扉を開けると、アーノとアイオが立っていた。
僕たちを探して、冒険者向けの宿を尋ねてきたらしい。
「おはようございます。改めてお礼を言いたくて。」
二人はまた、頭を下げる。
「母の好きだった『アイオの歌』はね、母が生まれた村に伝わる古い歌なんです。私の名前はその歌にちなんでつけられたんですって。」
アイオは、昨日の疲れた顔が嘘のように笑う。
「オルタちゃんの歌を聞いてみて決めちゃった。やっぱり、私、お父さんのこと、尊敬してるんだ。もし、同じ吟遊詩人になったら、歌えなくなったお父さんは辛い思いするかなってずっと迷ってたけど、やっぱり私もお父さんみたいになりたいもの。」
アイオはアーノの方を向きなおす。
「お父さん、私は15才になったら、吟遊詩人になります。」
アイオがそう言うと、アーノは静かに頷き、アイオを抱き締めた。
「大手柄だったな、オルタ。」
ラドは小さくそう言うと、オルタの頭をぽんぽんと叩いた。
こうして、デールの町には、吟遊詩人がもう一人誕生することになった。
アーノから離れたアイオは、スキルの説明をしてくれた。
「『アイオの歌』は仲間を鼓舞します。微量ですが、攻撃力、魔力を一時的に引き揚げる効果があるんです。」
「お父さんから受け継いだスキル、よろしくお願いします。どうか、色んな人に聞かせてください。」
「ありがとう。僕にとっても、初めてのスキルだ。大切に使わせてもらうよ。」
それから少しの間みんなで話し、アーノとアイオは部屋を後にした。
アーノとアイオが去った後、ラドはきびきびと支度を始める。
「じゃあ、目的は無事に達成したってことで、次はギルドに向かうぞ。帰りの費用稼ぎだ。」
「ねぇ、兄さん。今日くらいゆっくりしない?」
「ルー。資金は無限にあるわけじゃない。動ける間は稼いどくもんだ。」
「ははっ、ラドが珍しくルーに厳しいね。」
僕たちは準備もそこそこにギルドへと出発した。




